第40話 その手は届くから
『え、なに、こいつ、なんで? なんで邪魔する、するのかなぁ。もうちょっとだったのに、ほんといいところだったのに、こんなときに割り込んできちゃダメだよ。いけないよ』
突然のソアレの乱入に《寄生型》は苛立ちながらそう言った。
「うわぁ……トリノちゃん、だいじょうぶ?」
しかしソアレは言葉を並び立てる《寄生型》の《荒使》を前にしても慌てることなく、それどころかおれの身を案じてくれている。
「たすけてー」
とりあえずこっちは抵抗もできずこんな調子だし、どうしようもないのでソアレに助けを求めることしかできなかった。かっこわるすぎて泣いちゃいそう。
「それよりトリノちゃん、どうしてそんな格好になってるの……?」
そんなのおれだって聞きたいよ。なんで逆さに吊るされて首と両腕と両足を縛られたまま今にも拉致られそうになっているのか……そんなおれのあまりに悲惨な状態を見てソアレは嘆くようにそう言った。
だって対戦が成立しないとおれはただの幼女だから……だからどう足掻いても勝てるわけないんよ。ってかお互いに危害を加えられないというルールを無視してこんなんされると思わんだし。
だからこれはノーカンね。対戦で負けたわけではもないし、なんか向こうがルール無視してるからこれは勝ちとか負けとか関係ないのでおれはまだ敗北カウントはゼロでお願いしたい。
「トリノちゃんにひどいことして……許さないから」
そしてソアレは片手剣を構えて斬りかかる。
いや、これは対戦ではない。おれの目にはソアレの頭にも、相手の頭にも体力ゲージが表示されていない。だからこれではソアレの攻撃はきっと届かない。
この世界にとって同意が本当に全ての抑止力であり、どちらかが拒めば対戦は成立しない。対戦が始まっていない状態で攻撃をしても決してそれは届かないし、傷をつけることすらできない。それなのにこの蛇におれを縛っている。それも本当なら出来ないはずなのに……。
だからこの状態だと《寄生型》は回避などしなくともソアレの攻撃はきっと当たる前に止まるか反れるかで当たるわけがないのに《寄生型》はおれの身体をみすみす手離して、ソアレの攻撃をしっかりと回避していた。
いや、おかしい……なんで??
「いでぇ……」
そのまま地面に転がるおれだったがソアレのおかげで無事に自由になった。よかった~……どこへ連れて行かれるかわからなかったので、とりあえず解放されて助かった。
「トリノちゃん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶぅ……うう……頭いてぇ……」
上下逆さに縛られてたので平衡感覚もおかしくなってたので、その場でへたり込んで頭を押さえていた。めまいがするし、頭痛もしてほんと酷い目にあった。
「と、トリノちゃん??」
「ああ、ごめん……ソアレ」
そして立ち上がろうとしたけど、ふらついて態勢を崩してしまってそのままソアレの胸の中に沈むような形になってしまう。
「ふわふわ……」
わざとじゃないんです。でもこれめっちゃええクッションですね。
「もう……しっかりしてよぉ~……トリノちゃんっ……」
これ絶対幼女のままだから許されてるが、転生する前のままでこんなことしたら暗転0Fで社会的に即死だったろうな……これだけは幼女にしてもらえてよかった。
しかしそんなことよりもまだ《寄生型》はおれを狙っている。しかしすぐに襲い掛かってはこない。ジリジリとソアレとの距離を見計らっているようにも見えた。
おれに対しては抵抗できないことをいいことにやりたい放題したが、ソアレに対してはやけに警戒している。しかしどうも対戦は成立していない。
やはり何度みても《寄生型》の頭上には体力ゲージが表示されていないし、ソアレにも表示されていない。これが対戦でないなら攻撃は当たらないはずなのだが……。
「トリノちゃんをどこへ連れて行くつもりだったの」
『おまえ関係ない、関係ないおまえに話さない。話すこそなんかない。そうだ、そうだ――』
「ううん……別に、教えてくれなくていいよ」
ソアレは先に動いていた。
そして体勢を低くしたまま地面スレスレから蛇の尾に向かって突きを繰り出している。本当にソアレは変わった。
とにかくソアレは初めての勝利から、更に対戦を重ね、《首輪》も白色にまで変えて、初めて会ったころのあの怯えて、自信のなかったソアレが本当に見る見る強くなっていく。
そしてソアレの草を刈るように低く薙いだ刃が《寄生型》を襲うが、それをすかさず跳躍することで回避する。やはり対戦でないなら攻撃を避ける必要がないというのに、こいつはわざわざ動いて回避を徹底している。
そして上に跳んだことを確認したソアレは、悪い顔をしていた。おれも、よくやる顔だ。そう……自分の読みが当たったときにする次にする手立てを用意している歪んだ顔。ソアレ……やっぱおまえ、おれたちと同じだわ。
「届かない星だとしても、崩すために届けてみせる――」
跳躍する蛇にソアレの投げは通らない。ソアレの魔導技は相手を掴む技ばかり。しかしそれは空中にいる相手には通用しない。投げは地上にいる相手にしか効果がないからだ。
しかしソアレは口ずさむ……《まほう》に《才覚》を与える。
「――故に、《魔崩》と叫ぶ」
そしてソアレは片手剣を地面に突き刺し、右手を斜め上に向かって力強く掲げる。
「――――|わたしのためにただ墜ちろ《ラスティング・フォルン》」
掲げた腕は決して上空へと飛ぶ《寄生型》の尾にすら届かぬ意味のない行為に見えた。
「おお……対空投げ……」
投げという技は本来は地上にいる相手しか掴めない。
だが対空投げはその逆であり地上にいる相手を投げることは出来ないが空中に浮いている相手がその投げ間合いの中にいれば掴んで投げることができる。
もちろん投げの属性であるが故に空中でガードしても意味をない。そのまま問答無用で掴まれるのだが……ソアレの腕は全くといって《寄生型》に届いてはいなかった。
しかし手を伸ばしたとき光の粒子が渦巻いてソアレの腕から竜巻のようなエフェクトが見えた。あの光がそもそも投げの間合いだというなら、対空投げとしては恐ろしく範囲が長い。
何も知らずに浮いた者は、その光を見ても何も出来ずにソアレは伸ばした手と共に溢れ出た光の粒子にその身を掴まれ――
『な……………………』
さすがのおしゃべりな《寄生型》も自身の身体はとんでもない速さで吸い込まれ、ソアレの手で首を掴まれていることに何が起こったのか理解できず呆然としていた。
しかし、ソアレは容赦なくその《寄生型》の首を更に両手で締めながら、
「……トリノちゃんをイジメた罰だよ。手加減なんてしないから」
ソアレの両目は細く、そして冷たく《寄生型》を睨んでいた。
発狂しながら《寄生型》は残った首でソアレに襲い掛かるが、流星のような速度でソアレは自分の身体をそのまま後ろに反らせながら後方に投げつけた。
(まじかよ……ヘビのバケモンにジャーマン・スープレックスきめてんぞ……)
ソアレがますます投げキャラとして極まっていくのだがこれで終わりではない。
そんな目を閉じたくなるほどの勢いで地面に叩きつけたというのに同時に地面に突き刺さる《寄生型》を置き去りにして、ソアレはぐるんと空中へ飛び、その手にはいつの間にか片手剣を持っている。
「言ったでしょ、手加減しないって」
そしてそのままソアレ自身が片手剣の先端を《寄生型》の頭上に向けたまま墜落する。光の柱が弾け、あまりにも見事な手際で三本あった蛇の頭を串刺しにしている。
よ、容赦ねぇ……ってか、ほんとソアレ、えらいことに……まるでヒトが変わったのような――だけど、おれと目が合うといつもの太陽みたいに明るい笑顔を向けてくれた。




