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この異世界が『格闘ゲーム』すぎるので荒らしをガン処理する―《まほうしょうじょ》は『魔法使い』―  作者: 待雪 妥当
第4章 迷い子たち

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第39話 その手が届くなら

『勝てない、勝ちたい。勝ちたいから力が欲しい。もっと強い力が欲しい。でもひとりじゃどうしようもない。どうにもできない――だから、《《オレたち》》が力を貸してやっただけさ』


 おれの問いに答える《寄生型》の《荒使(あらし)》は高らかに声を上げる。


「……てめぇ、さっきの《寄生型》ってのと感じが違うな?」


 明らかに違う誰かの声だ。


 ルミアの身体の外に出たことで男か女かわからない機械で作ったような声をしているが、明らかに先程のものとは違う。こいつはなんだ?


『いいなぁ、オマエはとっても強いから……弱いヤツのことなんて、気にもならないだろう? 弱いヤツの悩みなんて理解できないだろう? ひとりでなんでもできるから、ひとりでなんにもできないヤツのことなんてわかるわけないだろう??』


 しかしおれの言葉は無視して両腕に蛇の尾が巻き付きそのまま仰向けのまま天を仰いでいる。


 おれは、なにも言い返せなかった。


 この異世界(せかい)に来るまで、他人のことなどどうでもよかった。いや、それでも格ゲー限定だけども。だってそれ以外は割と本当にどうでもいい。だから死んだときすら、別にあっちでおれが遺せたものなんて一つもなかったから未練もない。


 誰かを好きになることも、生きることも、何か目標があったわけでも、目的も、何もかも無い。無名のままいつか死ぬだけの人類の一人でしかなかった。


 それでも格闘ゲームをしているときだけは楽しかったから。勝てればもっと楽しかった。それだけだ。他のヤツが負けようが苦しもうが、どうでもいい。


 弱いヤツが悪い――フレームを理解しろ。システムを理解しろ。負けたのなら敗因を理解しろ。どうすれば勝てるのか理解しろ。何一つしないのなら、勝手に負け続けて死んでしまえ。


 本当に酷い……過激派のようなヤツだったよ。


 死んだから変わったのか、身体が変わったのか、ひとりの《まほうしょうじょ》の行末を見たから変わったのか――何もかも、変わってしまったのはこの異世界に来たからなのか。


 今では自分のことなのにまったくもってわからない。


 だが、間違いなくおれは《《転生》》した。


「わからないから、わかろうと思えたんだ」


 だからおれは受け入れる。


 死んで生まれ変わって、思考が反転したわけではないけれど――きっと死ぬ前のおれよりは少しだけ変われた気がするから。


「だから、おれはここで変わるって決めたんだ」


 今更なのはわかっている。


 手遅れなのもわかってる。


「説教するなら、おれに勝ってからにしろ。卑怯者(ひきょうもん)が――」


 遠くから、姿を隠して言いたい放題しやがって。


 対戦が成立していなければお互いに攻撃は通らないというルールを無視して、おれは《寄生型》に両腕を縛られたまま倒れてしまってそのまま胸元にもう一本の頭が口を開けて迫っている。


 この野郎……ほんと対戦させ出来れば10先して、ストレートで処理してやるのに。


『ルミアちゃんはねぇ、求めたんだよ。勝てないことに耐えられなくて……もう自分じゃどうすることもできないってときに……出会ったんだ』


「そうかい、それで追い詰められて(すが)った先が《荒使(そっち)》かよ」


 そこから《寄生型》が言うには、ルミアは《まほうしょうじょ》であり、当然のように他の《まほうしょうじょ》同様に《まほう》を持っていた。


 しかし《まほう》は与えられるものであって、選んでもらえるものではない。


 自分の望むものも、願うものも、形になることはなく。ただ気が付けば使えるようになっている。けれど使えるだけで、使()()()はわからぬまま。


 正しい使い方は自分で見つけるしかない。


 そしてそれを見つけられないから……勝つことができない。


 ソアレと同じだ。独りではどうしようもなくて、けれど独りのまま他の《まほうしょうじょ》と共に互いに情報を交換しながら遠回りでも正解へ向かっていくことが出来たのならまだしも――


 それなのに、ルミアは自身の持つ特殊すぎる《まほう》のせいで更に孤立していたそうだ。


『武器を持たず、けれど召喚できる。二体で戦うその特異な力は……それはそれは注目されたことだろうねぇ』


 しかしその《まほう》は使いこなせず、挙句に勝てず、他の誰よりも特殊な力を使えたはずのルミアは実力の無さに孤立していた。


 むしろ彼女もまたスティルのランク上げのための材料にされていたことも。


 そしてスティルの取り巻きに敗れ続け、ソアレと同様にルミアもまた首輪(カラー)黒色(Eランク)にまで染まり切り――そして、最後に彼女が選んだことは――


「失踪……した、と」


 この世界に蔓延(はびこ)る《荒使(あらし)》たちと戦い、仲間である《まほうしょうじょ》とも戦う。


 そんなおかしな世界で――ルミアは、絶望していた。


 《まほう》は千差万別で、似通ったものがあって同じ力は決してない。生まれたときからその力を使えるようになっていて、最も強い《まほうしょうじょ》が《荒使》の王と戦えると言われている。


 《寄生型》の語り口をただ黙って聞いていた。どうせ抵抗してもどうにもならないし。


 戦いたくて、この世界に生まれたわけじゃない。なのに誰が与えたのか《まほう》を持つ限り《荒使》と戦わなければならない。


 それだけならまだしも仲間である他の《まほうしょうじょ》とも戦う意味がわからない。そしてそんな仲間である《まほうしょうじょ》に(さげす)まれる。


 しかし逃げるところなどない。この町の外は樹海のように木々に囲まれ《荒使》がいる。


 そんなある日、絶望の淵に追い込まれたルミアの前に――《寄生型(こいつ)》は現われた。


『声を掛けたんだよ。力の使い方を教えてあげる――《まほう》をちゃんと使えるようにして、きみを負かして来たヤツに……仕返ししようってね』


 そうやって声を掛けては、同意を求め――追い詰められて、逃げ道を失った《まほうしょうじょ》たちを操って、連れ去って、


「それで、あんなバケモンに取り込ませてるのは……趣味が悪いな」


 この《寄生型》ってのは一方的に身体を奪うようなやり方はできないようだ。だからこそこうやって引退に追い込まれ、精神的に参っている《まほうしょうじょ》に近づき言葉で堕としてくる。


 ……そして、おれが初めて戦ったラグリオンとかいうあの《変異型》に取り込ませていた。


『こっちもいろいろあるんだよ。《変異型》の一部はどうしてもさぁ……まぁ、これ以上はもういいか』


 黒い霧の中でおれは《寄生型》に身動きを封じられ、


『それで、どう? からだ、譲ってくれない??』


「悪いけどさぁ、おれはおまえのいう弱いヤツのことなんてわからないひでぇヤツだ。はいどうぞって言うと思ってんのか?」


『この状態でも口悪いのは変わらないし、もうちょっと焦ってくれてもいいんじゃないかなぁって……でも、まぁ……』


 対戦が成立していない以上、おれはこの状況を打破することができない。しかしこの世界が同意の元で事が進むようになっているのなら、おれが拒絶する限りは《寄生型》もどうしようもできない。


 いや、それで拘束はできるってどういうこと……って思うけど、何かしら仕様の穴を突いてるのだろうか。


 《まほうしょうじょ》は対戦以外でも《まほう》は使える。だからおれ以外ならどうにかできるのかもしれないのに、対戦が成立しない限りただの幼女でしかないおれではもう詰み状況で真顔である。


「中身おっさんやのに触手プレイされんのか……悲惨やな……」


『なにを、言ってるんだい?』


 蛇は自らの頭を傾げているが、そのままおれの首に巻き付いている。


「あの、できれば優しくお願いします」


『動きを封じるまでが限界。でも、安心してよ。このまま連れて帰るからさ』


 そう言って、消えていた蛇の頭が一本生えていた。その頭が地を触れ、頭と尾がまるで器用に二足歩行を始めるのである。


「うそぉ……動きめっちゃキメェ……」


 でも蛇の頭を尾っぽで二本の足になって、もう一本の頭がおれの両脚を、そしてもう一本が首と両腕を縛ったまま立ち上がるのこれ絵的に終ってるやろ。センシティブ判定喰らったらどうしてくれんねん。


(しかも逆さまやぞ……めまいしてきた……)


 なんかそのまま身体の向きが上下逆さになって頭が痛い。このままどっかに拉致られるんか? ってかそれはセーフ判定って、じゃあ別にさ、こいつが《まほうしょうじょ》に声かける必要なくね? 縛ってそのまま連れ去ればええだけでは?


『ふふ、なんで自分だけって思ってるでしょ? どうして自分だけがこんな目にって、どんな目にあうんだろう。このままどうなってしまうんだろう。こわいね、とってもこわいよね。でもだいじょうぶ、こわくないよぉ』


「やだ、たすけて」


 とりあえず命乞いはしてみる。目を潤ませてみる。どうだおれの演技力は。


 だって、おかしいだろう。おれにはこんな力技で誘拐しようとしているのなら、この《寄生型》をそこらじゅうにバラまいて拉致りまくってしまえばいい。同意なんて関係ない。だっておれの拒絶を無視して、こんな手段を取ってくるのだから。


『はは、そうだね。そうだよ。そのとおりだよ。でも、でもでも、でもね、ちがうんだ。ちがうんだよ。これはね、このやりかたはね、ぶっちゃけるとね、()()()()()()()()()。本来はできない。他の《まほうしょうじょ》にはこんなことできない。だから特別。きみは特殊。きみだけはね、ふふ、ってことでネタばらしだ』


 そして黒い霧を更に吐き出して、蛇の尾が地を踏みこみ――


『ほんとの、ほんと、ほんとの目的はね、()()()()――キミがそうなんだ。そのためにわざとここまでやった。うまいこといった。キミを連れて帰るのが目的だったんだ。そのためにわざわざ出来損ない(ルミア)を撒き餌にしたよ。見事に釣れたよ。だから連れて帰るよ。』


 ええ……そうなん?


 で、このままどこへ連れて行かれるというのだ。


「待って」


『待たないよぉ』


 そして、そのまま黒い霧に包まれたままおれは《寄生型》に連れて行かれてしまうのだったが、


(そうだ、《首輪(カラー)》ってテレパシー的なやつで念話できるんやった……でも使い方が――)


 万事休すってやつ? え?? なんか、こうないの??? 主人公特有の隠されたパワー発動でなんとかするとか、いきなりここでほんとは《まほう》使える的な……しかし、そんな都合よく話が進むはずもなく。


 おれは、そのまま――蛇に縛られたまま……連れ去られて――――


「あ、やっほ~トリノちゃん」


 黒い霧を金の閃光が通り過ぎた。


 片手剣が薙いで、そこからソアレの金色の髪が霧の中で煌めいて見えた。


 そしておれを見るなり、手を上げて何気ない挨拶をするものだから、


「やだ……なにこの子、カッコよすぎない……?」


 さすがにその登場タイミングは完璧すぎて惚れてまうやろ。

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