第37話 汝、代行を×せよ<4>
『こっちも同じようにしてやる』
「短めに喋れるんかい」
それやったら最初からしてくれ。
さっきまでペチャクチャとひとりよがりに喋りまくってたくせに、ルミアの身体を動かしながら《寄生型》はルミアの足元から泥を溢れ出させる。
(あの穢濁ってスライムも出してくる気か……)
ってことは一人で二役で攻めてくるが――
だが、これまでのルミアの動きとは明らかに違う。穢濁は本体のルミアが操られていようが関係なく、足元から召喚され――大口を開いて、その牙はグルリと回転しながら襲い掛かってくる。
そして――
『ルミアちゃんは、かしこくない。かしこくないから、うまくつかえない。でも、こっちはちがい。つかえる、つかえるもの。だから、まけ。おまえの、まけ――けけっ、おわれ、おわりよ、おしまいだ』
セリフ長くなってんじゃねーか。
心の中でツッコミながら、しかし穢濁の回り続ける牙をおれはガードする。しかし、これによりおれは反撃できない。
回る牙は何度も何度もおれの身体を削るように押し込みながら進んでいく。これのせいで完全におれのいまの状態はガードのまま固定させらている。
そしてルミアの身体を奪ったまま《寄生型》はまるで歌でも歌うかのように嗤いながら、ジャンプするのだが……なんとそのまま空中を鋭く滑空した。
いや、これはなにもルミアだけの能力ではない――《まほうしょうじょ》ならば全員使える……そう、それは空中ダッシュである。
ダッシュは地上を走る移動手段。歩くよりも速く相手との距離を詰めることが出来る。そしてそれは空中でも行える。それはまるで弾丸のように空中を駆け、上空からこちらを強襲できる。
なにせそこからジャンプ攻撃が出せる。そしてそれは中段判定なのだから立ちガードしなければならない。しかも穢濁に重なるように飛んでくるので姿をくらませて見えずらくしてるのがイヤらしい。
そこから操られたルミアは両腕に絡まった蛇が無理やりに彼女の腕を振り回している。
「……でも、まぁ……まだ、ぬるいかな」
しかしおれは空中を滑空するルミアの操る《寄生型》の攻撃を難なくガードしていた。空中からの攻めはジャンプ攻撃を重ねてくるから中段だから立ちガードする必要があるが、
(ジャンプ攻撃を着地ギリギリで出してモーションだけ見せての、そのまま着地からのしゃがみ弱攻撃で下段ね……)
ほんと苦手だ。展開の早いゲームでこういった攻撃の揺さぶりは本当にキツい。だがおじさんは見てからどうこうなんてできない。たとえ身体が幼女でも、中身はおじさんのままなのだから。
それでもしっかりガードしたことで《寄生型》は驚愕している。
『こいつよく見てる。見てる見てる。見えてる? ウソウソ。たまたま。なにした? なんで防げた?? こわい、こいつ、こわすぎ』
ジャンプ攻撃を重ねる中段か、ジャンプ攻撃を重ねるフリをして着地して下段か――この二択に対して、しかも穢濁に姿を重ねてやって来るから見てからどうこうとか反応はできないが、
(ファジーガードでなんとかなったけど、あれが連続で中段とかされてたら死んでたな……こいつに説明すんのもアホらしいし、教えんけどな)
まぁ、ファジーガードは一見して中段と下段の二択に見える攻撃に対する防御手段である。と、いっても相手の攻撃のフレームまでは全くわからないから今回はまじで名前の通り《《あいまい》》なガード手段すぎて困るが。
相手の攻撃は見えないけどとりあえずギリギリまで立ちガードして、そのまま遅らせてしゃがみガードに切り替えてる。めっちゃ誤魔化してガードしているのを横文字にしてカッコよく言ってるだけ。でも、これでなんかガードできるから不思議なんよな。
「で? もう、終わりか??」
もうそろそろ付き合うのも面倒くさくなってきたし、せっかくのルミアとの対戦を邪魔されたのが気に入らない。
『へんなの、へんだよ。おまえおかしい。《まほうしょうじょ》のくせに、なんかへん。』
へんなのは認めるよ。おれだって元はこの世界に来るまではただのおっさんやったし。でも、おかしいのはお前の方だ。その減らず口、ここでふっ飛ばす。
『もういっかい。もういいかい。もうおわれ。そろそろおわれ。おまえまえからきえろ。どうにかなれ、どうしようもなくなれ』
「あー、はいはい……わかったわかった。さっさとかかってこい」
適当に返事をしたのが気に入らないのか、《寄生型》は再度、穢濁の口の牙を回転させている。ぶっちゃけ穢濁の行動ゲージがもう尽き掛けている。逃げればゲージがゼロになって勝手に自滅するが、
「いいのか? 次で終わるぞ??」
あえて挑発し、おれは一歩前へ。
『おわるのおまえ。わるいのおまえ。ばいばいさよならもうあえないね』
「そりゃこっちのセリフ。そろそろお別れといこうや」
おれは更に一歩前へ。
そして《寄生型》が穢濁を操作し、牙を回転させたまま突進してくる。それと同時に穢濁に重なるようにして再びジャンプしてから空中ダッシュで滑空しながらおれに突撃を仕掛けてくる。
ただ壊すためだけに、逃げ場を奪い、一方的な暴力でおれを終らせようとする。
いや、違うな。そんな簡単に終わらせるものか。
そうだ――終わるのはおまえだ――
「サード・マジック」
おれは唱える。
《寄生型》の穢濁による攻撃は確実におれをガードさせ、反撃はできない。ガード中はボタンを押しても攻撃がでないようになっている。だからガード状態にされたまま《寄生型》はルミアを操りおれのガードを確実に崩そうとしていることだろう。
そう、ガード中はこちらは攻撃できない――だから? それがどうした。
おれはガードをしたままの状態で《←↙↓↘→+BC同時押し》を入力している。
「どうせ、こっちが反撃できねぇって思ってんだろ?」
人の言葉を話せても、所詮は《荒使》だ――獣にも劣る。ただ獲物を狩ることに全ての意識を向けているのはいい、それで一切の警戒なく突っ込んで来る時点でお前はその程度だ。
だから、そんなおまえに《まほうしょうじょ》のとんでもパワーを見せてやる。
「――ルミエル・ディボレー」
無意識に技名を口走るのはもう慣れた。
そしてルミアを操る《寄生型》は優勢なまま、次こそはおれの息の根を止めようと攻撃を重ねて来た。これで終わりだと、嗤いならが暴力を押し付けようとした。
しかし、おれは動いていた。
おれは両手をクロスさせたまま、ガード状態を強制されている。何をしてもこちらは攻撃できない。確実に《寄生型》のターンである。それなのに、おれはガード中にのみ特定のコマンドを入力することで発動できる《才覚》を発揮する。
ガードキャンセル。
攻撃をガードしている状態でのみ、おれはゲージを消費して専用の技を使える。それがこれだ。
両手はクロスさせたまま明らかにガードの構えだというのに、両手の手甲に光が集まり赤く発光しドーム状に爆発する。
ガードしているおれが攻撃してくるなどと微塵も思っていなかった《寄生型》はそのままルミアと穢濁とまとめて吹き飛ぶが、おれはルミアの手を掴みそのまま引き寄せていた。
『なにが、おこった? なんで、うごけた? なにを、したんだ? わからない。わからない。わからない』
他の《まほうしょうじょ》もできるかはわからないが、おれはゲージを吐けばガード中に専用の技が使える。
もしおれしか使えないなら、おれだけがガード中に切り返せる選択があるということを相手に押し付けれるのは強すぎるが……まぁ、許してくれや。欠点もあるんやで。教えへんけど。
「ん? 一発喰らっただけでもう身体が崩れてるやんけ」
おれの《まほう》を喰らって、コンボもしてないのに既に身体の一部が砂のようにボロボロと崩れかかっている。すでにルミアの両腕は自由になっている。
『なにもの、なにもの? おまえ、なんなの?? なんでいるの??? ここでなにしてるの????』
そんなことを聞かれても困る。おれだってなんでこんなところにいるのかわからないのだから。
だから、答えてやる。
「……何者? そんなこと聞かれても――ただの格ゲーおじや」
そして、おれはルミアを両手で抱きかかえる。
『うそだ、うそうそ、なんだそれ、なんなんだそれは。そんなのおかしい、おかしい、おかしい、おかしい……おかしい。そんなの、もう――』
ボロボロと崩れていく《寄生型》の身体を手で払えばホコリみたいに四散して消えていく。こいつ弱すぎないか? 体力無さ過ぎて簡単に消えていく。
(お姫様だっこしちゃってるけど、まぁええか……)
おれの両手の中で意識を失っているルミア。でも口元に耳を近づけてみれば呼吸の音が微かに聞こえるし、胸も小さく上下に動いている。たぶん大丈夫やろ。
そのまま対戦は、終わってしまった。




