第36話 汝、代行を×せよ<3>
ルミアが口を開けたまま、黒い蛇が姿を見せる。
ぐったりとその場で屈んだまま伸びた蛇が首に巻き付いてこちらを見ている。そして伸びた顔が空いた首筋に噛みついている。
「あう……」
小さな悲鳴を上げて、ルミアはそのままガクガクと痙攣したと思えばピタリと動きが止まった。
「やめーや、へんな癖に目覚めたらどうすんねん」
おれは何を見せられてるんだ、と。
銀髪の少女が口から蛇を這わせて、首に噛みついて――だが、噛みついた蛇の頭が二つ、三つと分かれていくとルミアの両腕にも巻き付き、そのままルミアは立ち上がっていた。
『かわいそうなルミアちゃん。だから、言ったんだよ。なのに、言うこときかないの? ダメダメ。そんなのよくないよ。おとなしくしてて、言うとおりにしていて。だから、代わりに行うよ。だって、代わりに行かないとおこられる。おこられるのはイヤだからね、こわいのはイヤだからね』
三つに分かれた頭が一斉に喋っているように……けれど一つの口でそれを行っているのかおれは何を言ってるのかわからなくて頭を傾げていた。
だがおれの理解できる言葉を発している。そしてルミアは虚ろな目をしたまま口から飛び出ている三つに分かれた蛇に縛られるように立っているが意識はない。しかしその蛇の口から聞こえる声はルミアのものだった。
『勝てなくて、負けちゃって、引退られて――ひとりぼっちになったルミアちゃん。きっと、ずっと、これまでも、これからも、勝てるわけないルミアちゃん。だから、こっちを選んだんだよね。それでこうなった。どこにもいけないもんね。だっていこうなんておもわないもんね』
ルミアもまた《まほうしょうじょ》であり、勝つことなく負けを重ねたまま《首輪》は黒く……そしてそのままランクを上げることができず引退を余儀なくされた。
『おかしいよね? おかしくない? おかしいってば。《まほうしょうじょ》は《荒使》って悪いやつをやっつけるために戦ってるんだよね? なのになんで仲間同士で戦って、弱かったらそのまま捨てられちゃんでしょ?? おかしいよねぇ? ね? そう思わない?? きみはぁ、強いからそんなのわかんないか~強いヒトは、弱いヒトのことなんて、わからないもんねぇ。薄情だね。ペラッペラだぁ。はは、あはは』
――否定はできなかった。
確かに《まほうしょうじょ》たちにはランクがあって、強くなければ《荒使》の親玉とやらと戦えないという謎の制度。そして負け続ければ《まほうしょうじょ》を続けることができなくなる。
力を合わせて戦うことをしない。実力だけで全てが決まり、弱い者は置き去りにされる。ルミアも……そうだったのか?
おれは自分の知識がこの世界に対して効果があるおかげでなんとかなっているだけだ。だけど、何も知らず、わからず、戦い方すら理解できない《まほうしょうじょ》たちが――行きつくさきは……。
『だいじょうぶだよ、だいじょうぶだって。約束したからね。約束したものね。そうさ、そうだよ。勝てるようにしてあげるって、だから住まわせてって。同意したもんね、同意したからねぇ、だからぁ――』
「おい、おしゃべりクソ野郎。ベラベラわけわかんねぇこと言いやがって……名乗れや。んでさっさとルミアと対戦させろ。どっかいけ。」
おれはルミアと対戦したいだけだ。そして教えて上げたいだけだ。他の誰よりも難しい力かもしれない。それでも、知らないなら――教えてあげるだけだ。
おれだって使いこなせるレベルではないが数え切れないぐらい相手はしている。何をされたら嫌がるか、何をすれば上手くいくかそれぐらいなら教えられる。
だから、ルミアの身体を勝手に動かしているこのクソ蛇は邪魔だ。
『名前ねぇ……名前? 名前なんてあった? あるよ。あるある。あった? いや、うーん、そうだなぁ、そうですなぁ。そうだ、そうだよ。《荒使》……だけどぉ、わかりやすく《寄生型》と名乗っておこう。名乗っておくとしよう。そうしよう。それがいい。それでよかったね』
「……ほんまベラベラとやかましい。しかもきめぇ名前しやがって――」
《荒使》は見た目と強さで《まほうしょうじょ》たちは名を付けているが雑魚の《兵士型》でもちょっとマシな《変異型》でも無く《寄生型》と初めて聞く名称を名乗りやがった。
やってることも名前の通り乗っ取りだ。ルミアの身体を奪って、動かしている。
しかもやってることは言葉通りで、《まほうしょうじょ》に取り付いて、操作してやがる。これが格ゲーなら人様のアカウントを他人が操作してるようなもんだ。
『ひとがいっぱいやってくる。いらないひとたちやってくる。はやく、おはやく、この子をつれて、外へいかなくちゃ。外へいますぐ出ていかなくっちゃ。だよね、そうそう。きみこそ邪魔。きみこそおしゃべり。さっさと終わらせよう。終わらせてしまおう』
対戦は継続している。
しかも町の中で対戦は行われている。対戦中は誰も干渉できない。おもっきりこの状況はギャラリーが見ているが――見えない壁に覆われている。だからこそまだルミアは操られた《寄生型》も逃げ出せずにいる。
ルミアを連れて逃げようとしてる時点でそんなもん絶対阻止させてもらうが。
「はぁ……とりあえず――処理るか……」
他人のアカウントで別のヤツが操作してるような輩はここで潰しておいたほうがいい。ってかルミアは《荒使》からすると重要な役割でもあんのか?
おれが初めて戦ったラグリオンってバケモノの中にいて、まさか今度はルミアの中にこんな気味悪い《荒使》が潜んでいるし、何があったんだこの《まほうしょうじょ》に。
こりゃなおさらルミアをこのきしょ蛇にパクられるわけにはいかなくなった。ってか単純にこいつの思い通りにさせてたまるか。ルミアを無事に取り戻せば何かしらの情報を聞き出せるかもしれないし、そもそもこいつのやり方が気に入らない。
だから、ここで処理する。




