第34話 汝、代行を×せよ<1>
あの《荒使》の中にいた《まほうしょうじょ》はルミアと名乗り、おれに対戦を挑んできた。
《首輪》は付けているが色が無い――おれと同じでランクはわからない。
対戦が始まる直前ぐらいから様子がおかしくなって、両目の瞳の光が失われたままおれに対峙している。
(しまった……対戦のことで頭がいっぱいでパイセンとソアレにルミアを見つけたこと言うの忘れた……)
しかしあのパイセンがおれに声を掛けてきたテレパシーみたいなやつのやり方がわからない。
ここは諦めて対戦に集中しよう。パイセンと対戦した以来ずっと対人戦は出来てなかったから楽しみではある。
さっき森で処理した《荒使》は正直弱すぎて残念だったので、向こうから対戦を申し出てきたのはありがたい限りだ。
「……対戦、対戦、対戦、対戦」
しかし同じ言葉しか喋らなくなったのはどこか不気味で、それにルミアがどんな戦い方をするのかわからないのでこっちもすぐには動けない。
気になる点はこれまでの《まほうしょうじょ》は何かしら武器を持っていて、剣とか槍とかで武装していた。おれも武器こそ持っていないけど拳には手甲とかつけてる。だがルミアは何も持っていない。
だがソアレのように片手剣がメイン武器っぽく見せておきながら結局のとこ素手で殴る方が強かったりと、持っている装備だけでその《まほうしょうじょ》の戦い方を決めるのは危険だ。
何せフルカノンのパイセンなんか槍だったけど、あれ爆発するし大砲に変形するし 全く読めない。
(でもなぁ……)
だが今のところ思い返せば自分の戦い方は消極的すぎる。
どうも相手が動くのを待ってばっかりでおもしろくないな。
だから、おれは頭の中にあるレバーを『66』へ倒していた。すかさずおれの身体は前のめりのまま走り出す。腕を振ったまま、身を低くルミアへ接近する。
「穢濁」
だがルミアは接近するおれを前にその場で動くことはせず、聞き慣れない言葉を発する。
「ああ、そういう――」
だが言葉こそ聞き慣れずとも、何をしてくるのかはすぐに把握した。
ルミアの影から黒い泥のようなものが溢れ出し、それは形を成していく。ぶっちゃけ形成して出来上がったのは丸い黒いスライムだった。うねうねしてて気味が悪い。
だが、見れば見る程もう何をしてくるかわかってしまうのでおれは顔を顰めていた。
(まーじか、ってかこの世界にもおるんか? アレ……)
格闘ゲームは本来は一対一のタイマンで行うものだ。当然だろう。いや、二人一組とか三人一組だったりとかそういうルールの格闘ゲームはある。
だが、それはルールであって実際は一対一で戦うので何も変わらない。
しかし、時折……何を思ってそんなこと考えたのか一人で二体を操作するという脳みそがおかしくなりそうなスタイルの操作キャラが存在している。
ルミアが両手を広げ、そしてその目の前にはルミアを守るように《穢濁》とかいうあのスライムがうねうねしながらおれの前にゆっくりと進んで来る。
(正直一人二役キャラ使える人のことは素直に尊敬している……おれは頭バグって死ぬ)
長く続けて来たゲームだがこれだけはどうしても使う前から諦めたレベルだ。
なぜか? 一人で二つのキャラを操作するんだぞ? 頭おかしなるで。自キャラと分身となるキャラの二つのキャラを操作とかコンボの難易度も当然跳ね上がる。
(この手のキャラはとにかくその使い手の練度で決まる)
一対一で戦うゲームで、操作難度の高さという欠点を盾にルールを破壊してくる。そしてそれを本当に極めれば手足のように操作してくる。
ゲーセンでも散々苦しめられた。なにせ本当に極まった使い手はとんでもない精密操作で、こちらの全てを破壊してくるのだから。
そして、スライムがとぷん……と、
「来る――」
一人二役キャラが恐ろしいのはその名の通り二役で襲い掛かってくることだ。しかも地面の上には水たまりもなかったはずなのに、《穢濁》はそのまま地に潜り、姿を消していた。
黒い影だけが動いている。自身の影の中に潜ってそのまま移動する。いや、待て――ルミアはどこだ?
「……こっち」
ルミアは《穢濁》の影の中へと潜って消えていたのだ。そして声がしたころにはルミアだけがおれの背後に回っている。
(移動技……やっぱあるよな――)
《魔導技》はなにも全ての技が相手にダメージを与える技だけではない。ただ移動するだけの技もあるし、これがあるから多分、逃走も容易だったのだろう。
おれは対戦が成立しなければただの幼女で力は使えないが、他の《まほうしょうじょ》は危害を加えなければ《まほう》は使える。だからルミアはこの影に潜り、移動する技を使って姿を隠し、見つかることなく逃げ切ったのだろう。
こうしてルミア単体で影に潜って移動する――そしてここから一人二役キャラによる日常茶飯事の暴力が開始される。
それは、
「――キャッキャッキャッ」
気味の悪い笑い声のようなものを上げたまま《穢濁》は影から口を開いていた。ギザギザの牙のように鋭く突出して削岩機みたいに回転しながらおれの背中に襲い掛かって来ている。
ルミアの声に釣られて振り向いたことでおれは、ルミアと《穢濁》に挟み込まれるような形で挟撃されているのだ。
ルミアは他の《まほうしょうじょ》と違い、武器は持っていなかったがいつの間にか《穢濁》を召喚した泥を五指に纏わせ、鉤爪のように変化させていた。
「お終い」
ルミアは正面に向かい合うおれに対して鉤爪を振るい、そして背中から襲い掛かる《穢濁》の同時攻撃で決着をつける。
気が付けば周囲はギャラリーが沸いている。そらこんな町中で対戦始めたら噴水でスティルと対戦したときもそうだけどすぐ囲まれる。
幼女のおれが銀髪の《まほうしょうじょ》と汚泥の怪物に挟み込まれて、逃げる場所もなく一方的な暴力で成す術もなく壊される光景はそれはそれは酷い絵面だろう。
さすがのおれもここまでか――
「…………え??」
「いや、せっかく挟み撃ちにして有利な状況で攻めてるのにもっとガードを揺さぶるように択しかけやんとね……どんだけ見た目が強そうでも意味ないんよ」
と、言いたかったがあまりにも攻めのプレッシャーが足りなさすぎて恐怖など微塵も感じず、おれは飄々とルミアの挟撃に対して平然としていた。
「え、ええ、あ、え????」
挟み撃ちにされ、正面はルミアの鉤爪と背後からは回転しながら牙を立てる《穢濁》――そりゃこれが普通の異能バトルだったらおれは正面の攻撃を防いでも背中はがら空きなんだからそこをグチャグチャにされて終わってしまうが……。
しかし、これが格ゲーの仕様なら死にはしない。
なにせ俺はルミアが立っている方とは逆にレバーを倒すだけで両方の攻撃はガードできるのだから。
格闘ゲームの仕様上、一人二役のキャラに挟まれた場合に前方の攻撃と後方の攻撃が同時に来たとしてもガードはできるようになっているのだ。
この場合、本体であるキャラ……今回だとルミアが立っている方と逆にレバーを倒せばガードが成立するのである。
よって、おれはルミアの攻撃をガードすれば《穢濁》の攻撃も同時に防げてしまうのである。
「なんで、これで……いつも……勝てた……のに……」
だがルミアは何が起こっているのかわからずその場に立ち尽くしている。本来ならそんな隙だらけの状態を黙って見過ごすようなマネはしたくないのだが――あまりにもずさんな攻めに一言申したくなった。
「そりゃ挟み撃ちにされて攻撃されたら誰だって焦るけど、そっからガードを崩す連携で攻撃しねぇとただしゃがんでガードしているだけでいいんだよ」
《穢濁》を使って、確実に攻撃をガードさせて縫い付ける。そしてそのままルミア自身がガードして動けない相手に対していろんな択を仕掛けてガードを崩して、そこからフルコン決める。
まぁ、一応基本的な一人二役キャラの戦法だが……もっとやばいこともできるし、本当に極まったらおれとか関係なく壊せる。
一人二役キャラはそれほどまでに操作一つにしても大変で、難易度の高いキャラクターだが……完成すれば理論上は最強になれる。
それをただ挟み撃ちにして地上からただ闇雲に攻撃しているだけでは何も起きないのだ。
「さぁ、もう一度だ」
だから、おれはわざと反撃には転じずルミアにもう一度同じ連携をしてくるように手招いた。
「な、んで……?」
「一人二役で戦うのは見てる側からすれば強そうなんだけど、やっぱ操作が難しいってのはよくわかってるつもりだ。おれは諦めたからな……おれの頭じゃ混乱して自滅だ」
だがその戦い方を敢えて選んで、おれに試して来る。
なら今よりも前へ、もっと強くなっておれをビビらせて欲しい。それは操作を極めれば本当に人間の反応ではどうしようもない領域まで昇華できる強さを誇っているのだから。
「わざわざおれに対戦しろって言ってきたんだ……ちょっとはおれを驚かせてみろ」
そもそもなんでルミアはいきなりおれに対戦をふっかけて来たのかは謎だし、昔のおれなら容赦なく処理していたかもしれんが――それでもやっぱり少しでも強くなれそうなヤツを見かけると違う選択をしてしまう。
ソアレみたいに強くなって欲しいって気持ちのが前に出て、いらんお世話をしてしまうのは……どうも、おれもどこか変わってしまったみたいである。




