第32話 迷い子<3>
《まほうしょうじょ》たちが住まう町と日々鍛錬を繰り返す城――その周りは大きな壁に覆われているが、一歩外に出ればまるで世界を呑み込むような樹海が広がっている。
《荒使》の森――なんて安直な名前をしているが、森というかもはや緑の海だ。
迷えば二度と帰って来れないほどに広大な樹海である。
こんなところでおれは繭の中に閉じ込められて、ソアレに助けてもらえたのは本当に運がよかったんだな。
でもなんで幼女になってしまっているのかはわからない。でもこうして生きて空気を吸えていることに感謝を。
「えーいっ!」
そしてそんな命のありがたさを受け入れるおれの横で、ソアレは《荒使》の一体と対戦していた。
おれが戦ったあのラグリオンとかいうバケモノとは違い、顔はそいつと同じ黒い蟻だが平均的な成人男性と同じ体格をしている人型のバケモノだった。
だがこれまでの適当に武器を振り回すソアレとは違い、しっかりと相手の攻撃を受け止めてから片手剣を振っている。
そして動きが止まればボディーブローを浴びせてはヒットと同時に打撃投げを続けて出して簡単ではあるがしっかりコンボは成立している。
単発ヒット確認からの必殺技……いや《魔導技》をキャンセルして出してるのえらすぎる。初心者だったときのことを知っているだけにあまりの成長速度に感動すら覚える。
そこから一方的に殴り、投げを繰り返し圧勝していた。《首輪》も《白色》になっているのは昔よりも強くなった証。
それに――
(ゲージの要らないコマンド投げも使えるようになってるな)
《荒使》が起き上がりにソアレの打撃に臆し、動きを止めた瞬間――片手剣を地に刺して掴んで投げていた。
地上投げは片手で胸倉を掴んで乱暴に放り投げるモーションだが、コマンド投げは首を掴んで太陽のような眩しく煌めき、そのまま光が弾けて相手は吹き飛んでいた。
ゲージを使用せずともコマンド投げを使える。もちろんスティルに使ってたゲージ消費の方が性能は高いが、それでもノーゲージでも打てるのは更に接近されたときはプレッシャーになる。
投げキャラってほんとこわいからね……おれもほんとは相手するの苦手やわ。
「ふぅ……これでおわりかなぁ……」
そして地面にめり込んで動かなくなった《荒使》を前に一息つくソアレ。
とりあえずこの程度の《荒使》ならソアレも十分通用するレベルならおれの出番はないだろう。
「トリノちゃんすごいね……わたしが一体相手してる間に何体やっつけたの?」
横で観戦しているだけのように見えておれもちゃんと《荒使》と対戦している。ってかマジで倒しても倒してもすぐ乱入してくるから止まらん。
でもゲーセンのあのころの熱を少し感じれてそこは嬉しかった。
対戦に勝っても休憩する間もなく画面が切り替わって別の対戦相手がおれに挑んで来る。それに勝ったら、またつぎのやつ……。
みたいな感じで何度も何度も対戦を繰り返す。
ソアレとともに森に入ってものの数分でいきなり《荒使》と遭遇したが、なんか向こうは呻き声みたいな獣のような声しか出さないくせに、いきなり襲い掛かってこないから違和感すごい。
ちゃんと一定の距離で止まって、「対戦しようや」って言ったら頷くのだからおもしろい。敵なんだよなこれ?
だが人型の顔がただ蟻なだけのヤツらは正直ちっともおれの相手にはならなかった。パイセンと戦ってたときのが遥かに楽しい。
そもそも――
「無人と対戦してる感がすげぇんだよな……」
見た目は蟻の顔をしていてめっちゃキモいし、こんなのに会ったら普通は泣いて逃げるはずなのに向こうはこっちを見るなり構えるだけだし、こっちも対戦の意志を示さなけば対戦は起こらない。
同じ動きしかしないし、こっちがボコったらそのまま一方的に終ってしまうしおもしろくない。
これだったら戻って《まほうしょうじょ》らと対戦したいんやけど……でも、おれはなんかめっちゃ敬遠されて対戦してもらえんし――もしかしてこれ詰んでる?
あれからずっと《荒使》と対戦してもなんの成果も得られないし、初めて対戦した屈伸煽りしてきたやつ出てこねぇかなぁ……。
それから百体ぐらい倒して、《荒使》は対戦してこなくなった。
ソアレは横でずっと見てた。
「トリノちゃんだいじょうぶ?」
おれが連戦連勝を繰り返し、いつまでも対戦し続けていることに心配そうに聞いてきたけど――まぁ、これぐらい普通である。
ゲーセンでなくても家庭用のネット対戦で何十時間と対戦することもあったし、ましてや相手はCPU程度の実力しかないなら精神が擦り切れることもないのでむしろ強いやつが来て欲しいぐらいだ。
まさしく《荒使》をガン処理してるが、さすがに描写すら必要のないレベルのガン処理はむなしくて泣きそうだ。
「なぁ、ソアレ……こいつらはなんなんだ? もっと強いのはいないのか??」
「でもわたしは《兵士型》の《荒使》にも前まで勝てなかったからね……トリノちゃんのおかげで勝てるようになったけど、トリノちゃん台風みたいにめちゃくちゃにしてすごいよ」
どうやら《荒使》にもいろいろ強さが分類されていてさっきから現われる有象無象は《兵士型》と呼ばれるザコ敵のようで、そら決まった動きしかしないし――パターンわかったらそんなもんただのカカシである。
そして屈伸煽りしてきたラグリオンとかいうバケモンは《変異型》とされる強化された《荒使》とのことだ。
ソアレはまだ見たことがないのだがその上の存在もいるとのことだが……。
「あらかたこのへんの《荒使》は片付いたし移動するか?」
「え? ま、まだ続けるの??」
「あんなもん百体だろうが千体だろうが勝ったところでおもんないからな……その《変異型》か? それより強いおるならそいつ見つけに行こうや」
「ええぇ……待ってよぉ~……」
目的としては《荒使》の中から出て来た少女みたいに失踪した《まほうしょうじょ》が出てきてくれればいいのだが当たりは引けなかった。やっぱザコの中にはいないだろうに。
おれは草木をかき分けてさっせと森の奥へ進み、慌ててソアレが追いかけてくる。せっかくの対戦だってのにこんなんじゃ満足できませんわ。
おれの夢の中に出て来た誰だか知らねぇが試すんだったらもうちょいマトモな相手を連れて来いよ。
そんな憤慨するおれに向かって、
『トリノ……トリノッ!!』
なんかいきなり頭の中……というか、首のあたりから声が響いたような気がした。しかし、そんな不可解な現象が突然起こるものだから、
「うわぁっ!!!? びっくりしたぁあ――…………」
くっっっっっっっそ情けない声を出してしまった。
おれはノミの心臓なもんでスマホでも振動ONにした状態+音量MAXで急に鳴ったらびっくりしてしまうクソ雑魚なので、いきなり首の辺りが震えて、声がおれの耳元で響いてめちゃくちゃ驚いてしまった。
「わ、わたしもびっくりしたよ……」
ソアレは絶叫するおれにびっくりしている。
『すまんな、私だ』
声はどうやらフルカノンのパイセンだった。でも、いきなり声が聞こえるのは心臓に悪い。
『首輪はなにもランクの証明のためだけではない。離れていても対話できるようになっている』
「めっちゃ便利やん」
しかし、わざわざその機能を使ってまでパイセンが声を掛けてくるってことはなにかあったのだろう。
『眠っていた少女が……目を醒ました』
別にわざわざおれに連絡する必要があるのだろうか。
「おお~……それはよかったけど、なんかあった??」
おれの問いにパイセンは一瞬の沈黙のあと、
『逃げられた』
「あかんやん」
絶対なんか起きるやつやん……。
とりあえず森での探索はいったん終了して、おれはソアレと共に町へと引き返すことにした。




