第28話 ゆめのなかにいる
――ねぇ、そこにいるの?
ひとが気持ちよく寝てるのに、なんかめっちゃ頭の中に声が響いている。
『どなたですかぁ?』
――はやく、会いに来てよ。
知らないひとにはついて行くなって親に言われてるんで……。
――ここ、格ゲーすぎておもしろいでしょ。
『……おい待て、誰だテメェ?』
知ってるワード出したからおれはすぐに言葉を返した。
しかし起き上がっているつもりでも、意識ははっきりとしているのに身動きが取れない。
ってか上か下かもわからない。自分の身体の感覚がない。そして声が聞こえるけど相手の顔は見えない。おれって寝てるとき熟睡してるのかよくわからんけど夢って見たことないからへんな気分だ。
どうも真っ黒な霧に覆われていてここがどこかもわからない。
――今までの転生者の中では、まぁ、強い方かな?
『そりゃどうも』
なんか上から言われてる感じがして腹立つけど一応感謝しておく。しかしその言い分だと明らかにおれがこの世界の人間じゃないってのはわかってる感じだ。
――もっと強くなってね。
『誰だか知らねぇけど、ぶっ飛ばしてやるからかかってこいよ』
今すぐ対戦しろ。
上からえらそうに言いやがってゆるさねぇぜ。
――お~、こわ。やっぱあそこで戦ってたひとってみんな気が短くてこわいね。
正体不明の声はどうも男なのか女なのか機械から出したような声をしているせいで性別はわからない。そもそもおれにはこんなへんな声の知人はいない。
だが悲しいことにおれは元の世界で何かしらのエピソードがあるわけでもなく。
残念なことに俺には元いた世界で生涯愛した大切な人とか、誰にも言えない秘められし過去――とか、そんな格好のいい主人公みたいな設定はこれといってなにひとつもない。
まじで学生時代に延々ゲーセンに通って、何気なく就職して、それでもゲーセンに行くことはやめられず――ただ同じことを繰り返し続けて、何一つ変わらない人生を過ごして、そのまま事故って死んだだけの人間だ。
異世界に転生してなければあの世に行っていたことだろうし、もし異世界に転生したとしてもこの世界の仕様が『格闘ゲーム』でなかったら、おれは2フレで死んでるところだ。
『なんか……おれのいた世界のことを知ってるみたいだな』
――まぁ、ね。きみのようなひとが来てくれてうれしいよ。
なんか声はどこか寂しそうだ。
――いつか会える日を楽しみにしてるよ。その五十円玉は無くさないでね。
やはりあの五十円玉硬貨のことも知っているようだ。
間違いなくこの声の主はおれと同じ世界のやつだろう。
元の世界では死んでいるし、別に生き返って元の世界に帰りたいとかそんな未練もないからどうでもいいが、それでもおれと同じ世界を生きているやつがいるなら会いたい気持ちはある。
『じゃあ会えたらそのときは10先しろよ』
――おもしろいことをいうね。
声は笑って聞こえた。
――そろそろ目が覚めるころだね。
そして徐々に霧が晴れていく。
『おい、まてよ。せめて自己紹介していけよ』
――あ~……じゃあ、そうだなぁ……。
声は言うべきかどうか迷っている。しかし長考の末、
――《荒使》の王、ってことにしといてよ。
『おい、待てや、だったらなおさら10先や。ここで終わらせてエンディングにしてやんよ』
このままシナリオを破綻させてやってもいい。何もかもぶっこ抜いて、さっさとラスボス倒して終わらせてやる。
しかし霧が更に晴れていくにつれて、両目を開くことは叶わぬほどの眩い光が広がっていく。
――なら、試させてよ。
嫌いな言葉だ。
――きみが、ここまで来れるほどの力を見せてみて。
やっぱ気に入らねぇ。ぜってぇ、ぶっ飛ばす。
そして、霧が完全に晴れた。




