第26話 おれの《まほう》は――
フルカノンは勝利を確信していたのだろう。
この戦法はこれまでの《まほうしょうじょ》を幾度と無く屠って来たと――だからこそわざわざおれにネタをバラしてまで使ってきた。
防御を貫通する――それは余計だった。
フルカノン……おまえは余計なことを言うべきではなかった。
おれも下手に動いてやられるぐらいなら真面目にガードしてたかもしれない。だが、そんなことを言われてしまっては大人しくそんなエゲつないビームを受け止める気にはなれない。
だからおれは動いていた。
フルカノンがばら撒いた落石をおれはジャンプしてから空中でガードした。
格闘ゲームにはいろいろコンセプトがあるが、地上戦がメインだったり空中戦がメインだったり……そのため地上戦がメインの格ゲーはジャンプ中は着地までガードができない。
だがこの世界では空中ガードができる。
おれは落石を空中でガードする。燃えてる岩を腕二本で受け止めても圧し潰さず受け止められるのは笑ってしまう。
そしてそのままおれは空中で浮いたまま、足を踏み込む。
「……なに?」
フルカノンの表情がそこで初めて歪んだ。
おれがジャンプして落石をガードするどころか、そこからもう一度ジャンプしたからだ。
この異世界でおれは二段ジャンプができる仕様になっている。ってかおれだけしか出来ないわけでもないだろうに。どうして他の《まほうしょうじょ》はやらないんだ?
《まほうしょうじょ》って名乗るわりにはホウキのようなものにまたがって空を飛んだりとかもしないし。
おれがそんな挙動で回避するとは思わなかったのだろう。二段ジャンプしたおれはフルカノンが撃ち出したビームの真上を飛んでいる。
「相変わらず、これまでの《まほうしょうじょ》とはあまりにも……違い過ぎるなッ!」
フルカノンの声は荒げて、そのまま持っているビームが出たままの槍を無理やりにおれに向けて砲身を傾けていくが、ビームが出たままだと少しずつしか動かせられないのか更に上空へ浮いているおれには届かない。
そしておれの視線は――フルカノンの視線に重なった。
「おれの《まほう》を見せてやるよ」
せっかくここまで来たんだ。
ちょっと調子に乗ってもいいだろう。
《才覚》とやらはまだよくわからんが――ってか、何もわからん。そんなもん無くてもどうせ頭の中でコマンドを入ればおれは自分のやりたいことが出来る。
だから浮遊する、おれは身を屈め――
「おれの《まほう》――喰らいやがれ」
そしておれは《↓↙←↓↙←+BC》を入力していた。
「ワン・マジック――」
コマンドが成立したとき、もう声が出ていた。
体力ゲージの下に表示されているもう一つのゲージは《魔導技》の更に上の大技を使うためのものだろう。ゲージを消費してまで使う技は性能が強化された
「――フリューゲル・ストライクッ!!」
もう技を出したら勝手に技名を叫ぶのは諦めた。これだけはおれの意識に反して出やがる。
そいてそのまま高い位置からフルカノンに目掛けて斜め下へ矢のように直下する。回避など出来るわけがない。フルカノンは撃ち続けるビームのせいで完全に無防備だ。
「――――――――――――――ッッッ!!!?」
フルカノンは流星みたく落下してきたおれの蹴りを喰らった瞬間、そのまま吹っ飛んで画面端の見えない壁に打ち付けられた。
だがフルカノンの体力ゲージをゼロにして勝つために、おれはもちろんここからコンボを繋げる。コンボ始動がゲージ使用の《魔導技》で、あげくにフルカノンの攻撃にカウンターの形でスタートする。
悪いが、 画面端の専用のコンボで折らせてもらう。
<↓↘→+弱攻撃……
おれは着地と同時に画面端で動けないフルカノンに目掛けて、いつもの飛び道具を至近距離で撃ちこむ。
「フォトン・グロウ――」
だが、ただの飛び道具ではない。これ攻撃ボタンを放さずに押しっぱなすことで性能が変わる。
本来は飛んでいく弾のはずが、飛ばなくなる代わりに2ヒットして爆発する接近用の《魔導技》に変化する。
そして爆発し、フルカノンはそのまま画面端に縫い付けられたままおれは更に拳を振るう――
<立ち中攻撃→しゃがみ強攻撃→立ち強攻撃→追加→立ち強攻撃→(引き寄せ)……
ソアレに教える合間におれも自分の性能は確認していた。
おれの立ち強攻撃はヒット時のみもう一度、強攻撃を入力すると相手を引き寄せることができる。謂わばコンボを繋げるための専用技だ。
そして、まだここからコンボは繋がる。
そのまま引き寄せたフルカノンに《↘+強攻撃》を入力し、おれは蹴り上げる。
「空中コンボ――スタート……」
略称なのだが、正式名称はあえて言わない。ってか言えない。
これはとりあえず相手を空中に浮かせて自分も追いかけて空中で追撃することで成立するコンボである。
そしておれの《↘+強攻撃》がその空中コンボ始動用のパーツなのでこれを当てればそのまま勝手に追いかけて空中コンボを喰らわせることができる。
<ジャンプ弱攻撃→ジャンプ弱攻撃→ジャンプ中攻撃→ジャンプ弱攻撃→ジャンプキャンセル→ジャンプ弱攻撃→ジャンプ弱攻撃→ジャンプ中攻撃→ジャンプ弱攻撃……
空中で無防備になったフルカノンはおれの空中攻撃を浴び続けているが、そのまま最後のジャンプ攻撃が当たったと同時に↓↙←+強攻撃を入力。
そのまま流れるように空中で浮遊したまま《魔導技》が発動している。
「クリミナル・ムーン――――」
最後の空中攻撃がヒットと同時に技名を口ずさみ、空中でくるりと一回転してから踵を落とす。半月を描きながら振り下ろされた蹴りがフルカノンを脳天にめり込み、
「終いだ……」
《魔導技》がヒットし、そのまますかさず残っているもう一本の技ゲージを消費することで更に大技をキャンセルして出す。
コマンドは《→↘↓↙←→+BC》既に入力は終わっている。
格ゲーには必殺技から超必殺技を流れるように出せる仕様がある。名称はいろいろあるけどこの世界の超必殺技のことを《才覚》と呼ぶのなら、この世界では《才覚》キャンセルとでもいっておこうか――
周りはおれが何をやっているのかわかっていないのか、呆然と見上げているだけだった。ソアレはなんかめっちゃニッコニコなのこわいけど……見なかったことにしよう。
「セカンド・マジック――」
そして、フルカノンを今際の際へ向ける最期の一撃。
半月を描いた蹴りは虹色の軌道を描いている。しかしおれはそのまま右手を鋭く突き立てて、その虹色で煌めく半月を両断するように手刀による一閃を放っていた。
「――“瞬”」
手刀を振り放ちながら、おれは先に真下へ着地する。
その刹那に気付くこともできず――
おれの手刀が通り過ぎたあとに、虹色の光が弾けていた。
空中で散々おれにサンドバックにされた挙句にダメ押しの一撃も喰らって、ゆっくりと墜落する。
だがおれはそれで終わらせるつもりはない。
完全に相手のダウンを取った。起き上がりまで、おれが先に動ける。
なら、やるべきことはただ一つだ。
起き攻めである。
コンボを完走し、相手をダウンさせ、そこから相手が起き上がるのに合わせてこちらはそのまま攻める――おれはダッシュし、満身創痍のフルカノンはフラつきながら立ち上がる。
フルカノンの体力は尽きかけている。
しかしゼロではない。おれは手を抜くつもりも、油断するつもりもない。体力がゼロにならない限り対戦は終わりではない。なら最後の一瞬まで慢心することなく倒し切る。
フルカノンの起き上がりと当時におれはジャンプする。
そしてフルカノンは槍を杖にして立ち上がり――
「終わらせる、ものか…………ッ!!」
フルカノンの槍の先端は地に刺さったまま、しかし空の薬莢が吐き出されている。
「昇炎接触光 ッ!!!!」
起き上がりと同時にフルカノンは地に突き立てた槍を爆発させドーム状に炎が吹き荒れた。おれの起き攻めに対して、打撃だろうが投げだろうがいかなる選択を全て覆す方法をフルカノンは持っている。
リバーサルによる無敵技での反撃。起き上がりにわざわざ発動するにフルカノンの持っている《魔導技》の中で全身が無敵になる技なのだろう。
これならばおれがジャンプ攻撃を重ねて、そのまま打撃と投げの二択に迫ろうが――おれの攻めの択に対して、全て対応できる。かしこい。それは間違いではない。
が、おれは――わるいがズルをしている。
「な、な…………なぜ、だ…………?」
おれは空中で拳を振り上げていた。そしてフルカノンの起き上がりに対しておれのジャンプ攻撃が重なるように拳を振り下ろしていた。
それに合わせてフルカノンは自身の無敵技をぶっぱなして反撃した。
それなのに、おれはしっかりとそのフルカノンが爆発させた炎を着地と同時に両腕をクロスさせて受け止めている。おれのガードは成立し、攻撃は届かなかった。
「詐欺飛びしてるから……通らんで、それ――」
詐欺飛び――いや、今の時代だとコンプラ考えて安全飛びと言うべきか? もう異世界なのだからどちらでもおれは構わないが。
それはジャンプ攻撃を相手の起き上がりに重ねて、相手が大人しくガードしてくれればジャンプ攻撃が重なって当たり、もし相手が無敵技による切り返しに対しを行えば着地と同時におれはガードできる。
「恐ろしいヤツめ……すごいな、どこで――そんな戦い方を……覚えてきたんだ……」
恐ろしくなんてない。別にすごくもない。だっておれが戦っていた異世界じゃ標準装備だ。ってか装備しなければ始まらない。これ以外にもまだ使っていないテクニックは無数にある。
なんて、それはどれもおれが戦っていた場所では使えて当たり前のテクニックばかりだ。あの世界は本当にひどかった。知らなければ死ぬまで搾られたから。
そして無敵技をガードされたことでフルカノンは完全に硬直していた。
「おれのことは認めてもらえそうか?」
「ああ……………………………見事だ」
そして最後は余計なことはせずに、地上投げを決めるだけで綺麗に決着した。
フルカノンを巴投げて、そのまま地面に転がり動かない。
ただ静寂を包み、そして――そんな対戦の様子を見ていた観客たちは歓喜と悲鳴が入り混じった声が荒げていた。
おれの目にだけ映るK.O.の文字をバックにとりあえず片腕を天に掲げていた。
こうして、おれは勝利した――やっぱ対戦はいい。あと十時間ぐらいはやりたい。




