第21話 わたしが勝ちます<4>
「……トリノちゃんの、言ったとおりだね」
「なにを言って――」
ソアレは我慢できずに笑っている。
スティルの動きがピタリと止まる。
これまで幾度と無くスティルに負け続け、スティルの欲望のためだけに負けを重ね続けた。落涙し、絶望し、そんな弱者が――もう敗北がすぐそこまで迫っているというのに、
「自分から近付けないように糸を設置しているのに、わたしが動けなくなったらわざわざ来てくれるんだから……そりゃあね」
おれはソアレに伝えていた。
スティルは間違いなく、いつもと違うおまえに苛立ちを覚えるはずだと。
そして必ずおれにしたみたいにクモの巣を設置する。こうして《魔縫》が展開され、近付けないソアレにスティルは自分のターンだと力を見せつけることだろう。
ついには耐え切れず自暴自棄になって前進しクモの糸に触れたと思わせる。
そうすれば最後は何も出来なくなったソアレをなぶるためだけに接近し、痛めつけようとスティルは間違いなくソアレの手の届くところまで来る。
そこで、決着だ。
「わたしは《まほう》を使えないんじゃない……使い方を知らなかっただけ」
それもどうすればいいのかおれが教えてやった。
「だから、スティル……わたしをずっと下に見ていたのが、敗因だよ」
もしおれと出会っていなくても、ソアレはきっとスティルと戦っていただろう。考え方はおれと同じだから。
勝ちたいという気持ちが死ぬまで折れぬのならソアレは止まらない。
だがおれと出会った。おれもソアレに出会えて助かった。
勝ち負けがあるのなら、誰だって勝ちたいさ。おれだってそうだった。だから今日まで続けて来た。勝つために戦う――負けていても、勝つまで戦う。
ソアレは諦めなかった。
「だから……今なら使える」
ソアレは片手剣を捨てていた。
両手がスティルの両肩をしっかり掴んでいる。スティルはソアレの投げを引き剝がそうと動くがびくともしない。
地上投げなら投げ抜けができる。
打撃投げなら当然ガードできる。
だがそのどちらでもない。
「なんだ、なにが……」
スティルは何が起こっているのかわからない。
そしてソアレは詠唱える――《まほう》に《才覚》を与える。
「いつか越えると誓い、そして崩すと諦めない――」
敵の《魔縫》は一切合切の希望を縫い潰す狂気の力。
しかして、如何なる絶望の牙城を撃ち砕くための力。
ソアレもまた《まほうしょうじょ》であり、その《まほう》は昇華する。
「――故に、《魔崩》と叫ぶ」
ソアレがスティルを掴んだまま、それと同時にソアレの金色の髪と同じように光に包まれて上空へと飛翔した。
誰もがあの落ちこぼれの、あと一度敗北すればこの場所から消えるはずの《まほうしょうじょ》が今まさに勝利を掴んだまま天空を駆ける。
「なんで、離れ……ふりほどけねぇッ!!」
掴まれたまま、完全に形勢が逆転するその現実を受け入れられずスティルは絶叫する。
だが、それは当然だ。その投げは抜けられない。
(通常の投げなら抜けられる――だが……)
コマンド投げは投げ抜け不可だ。
投げは本当に種類がある。
その中でも特に強力なのはコマンドを入力してから攻撃ボタン押すことで出るコマンド投げである。
ぶっちゃけおれは頭ん中でテンキーを読むことで《魔導技》が出るが、ソアレや他の《まほうしょうじょ》はおれの世界で流行ってたコマンドをアシストしてくれる仕様でもあるのか――
どうやって技を出してるのかソアレに訊いたときは、《魔導技》は使いたいと強く念じるだけで出るらしい。めちゃくちゃ便利。おれだけなんでガチの格ゲー仕様なのか謎だけど。
だが、それのおかげできっと複雑なコマンドであろうともいとも簡単に出せるんのだから素晴らしい。ぶっちゃけ格ゲーが続かない人の中には技が出ないからおもしろくない……って言われたこともあるから。仕方ないと思っている。
それはさておき、コマンド投げは通常の投げよりもダメージが高くなにより強力なのは投げ抜けができないという点だ。
そしてソアレは見た目は小さな剣を振り回すし、小回りが効きそうな見た目をしているのに実際のところ真逆の投げキャラである。
使える《魔導技》が打撃投げに、浮いてる相手を掴む対空投げ、そしてこのコマンド投げ――成立しなければ演出が始まらないのだから、そりゃ他の《まほうしょうじょ》と違って地味に見えるし。
いままでずっと自分の《まほう》の正体すらわからずに戦っていたのだからソアレ自身も自分は落ちこぼれなんだと自信も無かった。
だがおれにはわかった。だからすぐに理解し、把握し、ソアレに使い方を教えてやった。そしておれの言葉を信じてくれた。おれはただ背中を押しただけに過ぎない。
結局のところ戦うのはソアレで、諦めずに今日まで逃げずに戦い続けたのだから――
「祈りなよ……わたしが昇天させるから」
おれがスティルに言ったセリフをそのままソアレが復唱するように、
「なぁ――――――」
黄金に煌めく星が、墜落する。
「――――わたしのためにただ埋まれ」
ソアレの《魔崩》は名を刻み、力を示した。
やがてそのまま地面に向かってスティルを掴んだまま叩き落とす。墜落と同時に光の柱が爆発し、スティルの身体は本当に半分リングの上にめり込んでいる。
おれはスティルの体力ゲージが1ミリだけ残っているのが見えた。
「このぉ、ただのボーナスステージの分際でぇ……黙って、ワタシたちの勝ち数のために負けてりゃあ……」
「わたしを……それで呼ぶな――――」
そしてソアレは半身が地に埋もれたスティルを掴んで、
「わたしは、あなたに勝つためだけに、ここまで来た。あなたは、何かしてきた?」
更に強くなるために研鑽したか、戦う相手のことをどれだけ調べあげ、対策したか。
何も、そう――強者であると疑わず、決して弱者に負けるわけがないと怠った。
「わたしは教えてもらえた。そしてあなたに勝つことだけを考えた……だから、わたしは勝てる」
そして倒れたままのスティルの顔面に拳を突き立て、スティルはただ慟哭を上げたまま崩された。
スティルは完全に沈黙している。そしてソアレはゆっくりと立ち上がり、こちらに背中を向けたまま立ち尽くしている。
迷いながらも、逃げず戦い続けたからこそソアレがこうしておれと出会えて、おれはおれの知っていることを教えただけだ。
そしてソアレは自分の力と覚悟で――初めての勝利を掴んだ。
よく見れば、漆黒に染まり切っていた首輪は灰色へ変色していた。どうやら《まほうしょうじょ》として戦うことを許されたようだ。
「そこまでだ」
フルカノンのパイセンが制し、対戦の勝敗は確定した。
おれは何も言わずに腕を組んだままだ。
おれの目にはしっかりとK.O.の文字が表示され、称えるかのように勝者の文字がソアレの頭の上に浮かんでいる。
おれにしか見えていないのが本当に謎なのだが。
「トリノちゃーんッ!!!!」
おれと顔が合えば、今まで戦っていた顔とは真逆で両目を潤ませて……大声で俺の名前を読んでイノシシみたいに突っ込んで来るのだ。
(やべ、避けらんねぇ……)
対戦が成立しない限り中身はおじで、中身は幼女。おれはそのまま猛進してくるソアレの体当たりをこの身で受け止めるのだった。
この世界って対戦以外では暴力禁止って設定だって言ってなかったか? まじ…………?
おれはそのままソアレに押し倒された。




