第19話 わたしが勝ちます<2>
格闘ゲームにおける移動は歩きとダッシュがあるが、そのダッシュにしても個性ができるものである。
そもそも定義もいろいろある。ステップとかランとか。まぁ、ここではダッシュにしておこう。
おれはわかりやすい短距離走選手みたいに前傾姿勢で走るが、ソアレは違う。地面の上を滑るようにスケート選手みたいに突き進むのだが瞬間速度はおれよりも速いが究極的な弱点がある。しかも下手すればソアレだけがそうなのかもしれない。
初めておれが《荒使》とかいうバケモノと戦ったとき、ソアレがおれを庇って先に戦った。そのときもダッシュを使って距離を縮めようとしたが移動中に攻撃を喰らっていた。
おれはどうしてガードしなかったのかと聞けば、移動しているときは他のことができないなんて――恐ろしいことを言っていた。
ダッシュを開始し、行動が終了するまでガードへ移行できないという酷くおぞましい欠点を持っている。おれよりもダッシュの初速が速いのはいいが、ダッシュの開始と同時に相手が攻撃を置いていたらもれなく被弾する。
おれはソアレに言った。
おまえは相手に触れなければ本当に弱い。しかし、触れれば勝てる。だから焦るな――と。
「こいつ……へんな動きしやがって」
スティルはこれまでとは明らかに違う動きを取り入れているソアレに苛立っていた。
スティルが糸を伸ばして攻撃をするが、ソアレはゆっくり一歩、また一歩と歩きながらスティルとの距離を詰めていた。
絶対に自分の間合いに入るまで攻撃を振ることは禁止し、一歩進んではガードを繰り返しながら、それでもスティルとの距離は間違いなく縮まっている。
「こいつ……いつもなら、勝手に攻撃当たって終わるはずなのに……」
スティルが鞭のように振り回す糸をソアレは片手剣でしっかりと防ぎ、攻撃が来なければまた一歩進むことでもう手の届くところまでソアレはスティルに近づいている。
「トリノちゃんと約束したんだ」
スティルの猛攻を前に決して焦ることなく、一歩ずつソアレは進む。
「勝つんだ――絶対にッ!」
そしてソアレは手を伸ばせが届くところまで近づけた。いける。
(ソアレ、おれの言ったとおりにすれば勝てる。間違えるなよ……)
おれはリングの外で腕を組んだままジっと二人の対戦を見つめていた。
スティルのことだ。どうせ絶対手を抜いて、ソアレに勝つつもりだったのだろう。だからおれと対戦したときみたいにクモの巣のトラップを設置しなかったし、糸を鞭みたいにして攻撃しているだけだ。
そこから引き寄せることもせずに、ただブンブン振り回した糸だけでソアレを終わらせるつもりだったのだろうが、まずはそれを阻止することが最初の一手だ。
思惑通りに事が進まないことで――逆に相手を焦らせる。そこで次の動きを誘う。
「どう?」
「あ?」
「ボーナスステージに困らされて、気分はどう?」
それはスティルがソアレを格下として喩えた酷い名だ。
しかしソアレは小悪魔みたいに笑って、スティルを挑発する。
「こいつ……」
続けてソアレは深く踏み込んで片手剣は振らずボディーブローを叩き込む。しかし拳はスティルが編み込んだ糸に防がれる。
「なにわざわざ殴ってんだ? 意味ねぇことしやが――――」
踏み込む。
更に拳を撃ちつける。
「てめぇ、この……」
撃ちこむ。
撃ちこむ。
撃ちこむ。
「なんだ、こいつ……こいつ……ほんとに、あの……ソアレ、か?」
壊れた玩具のようにソアレは何度も何度もスティルに向かってボディーブローを撃ちこみ続ける。
(あれガードされてたぶん1フレ有利やろうからな。ソアレの通常攻撃の中でぶっ飛んで強いから、あれしてるだけで相手動けへん)
まぁ、フレームの話なんかしてもややこしなるだけやろうし。とにかくそれは強い技やから近づけたらそれだけぶちこめってアドバイスをしたら本当におれの言うとおりにソアレは同じ行動を繰り返している。
(スティルの攻撃は確かに見た目は派手だし、リーチも範囲もあって強そうだが……発生が遅いからな)
それもスティルの対戦で直に見ていたので把握している。
とにかく近づいて、ソアレの方がリーチは明らかに短いけれど発生は速い。なら触れば確実にソアレが有利だ。
スティルはソアレの攻撃をガードし続けている。防戦一方だ。
そしてソアレは攻撃を止め、腕を伸ばした。
「もう付き合ってられねぇよ」
スティルは後ろへバックステップしていてソアレの投げを回避していた。
(まぁ、いまのスティルの行動は一応正解ではある――おれに当て投げされたのがやっぱ効いてるな)
通常攻撃ガードからの地上投げによる択。おれにそれを喰らわされて、今度は投げを抜けようとすればおれに殴られた。
どちらも付き合いたくないならそのまま無敵技をぶっぱなせばいいのだが、もしかして……スティルはそういった《魔導技》を持っていないってことか。
そのまま更にバックステップを繰り返し、ソアレはまたダッシュはせず歩くのだが、
「ああ、わかった。もういい……じゃあ、終わらせてやる」
さすがに今までさんざんソアレをいたぶっていたのに、逆に追い詰められていることが気に入らないのだろう。
スティルの目は獰猛な獣のようだった。
「落ちこぼれの分際で、調子にのってんじゃねぇよ」
ソアレは何も言わない。
勝つこと以外、いまのソアレには必要なものはない。
スティルの挑発に乗ることもない。
しかし、ソアレは動きを止めた。
(そろそろ使ってくるか)
近づいて来るのならば、近づけなくすればいい。
ソアレの眼前には無数のクモの巣のような糸が設置されている。
「ここで終われよ」
そして両手を広げたまま、スティルは五指の糸を伸ばす。
「ワタシの《まほう》は、何もかもを縫い潰す。テメェにこの糸は崩せない――故に、《魔縫》と呼ぶ」
それがスティルの《才覚》であり、スティルの《まほう》の本質。
(あれが本当の《まほう》ってやつか……)
だが、ソアレも《まほうしょうじょ》だ。ソアレにも使えるはずだ。
でなければソアレは万に一つも勝ち目はない。




