第18話 わたしが勝ちます<1>
「おはよ、トリノちゃん」
「お"お"ん”……お""は"よ"う"……"そ"あ"れ"ぇ"……」
「だ、だいじょうぶ……?」
結局あのまま檻までソアレに連れられて、くそ硬い床の上で一夜を過ごしたので背中が痛すぎて狂ったような声を上げてしまった。
しかしいろんなことがありすぎて疲れたのかそんな酷い環境なのにすぐに寝てしまった。すぐ寝れたのはよかった。でも起きたらめちゃくちゃ身体が痛いのである。
「うう、だいじょぶ……だい、じょうぶ……」
「だいじょうぶじゃなさそう」
そのまま腰を押さえながら立ち上がる。これではただのおっさんである。幼女要素どこいった。
「トリノちゃんはすごいよ」
「うん?」
「緊張でちゃんと眠れなかったよ……でもトリノちゃん見てるとしっかり寝てたみたいだし――ほんとすごいや」
確かに今日ソアレが勝たなければ、おれがそのあとに勝とうが負けようが関係なく終わってしまう。
「ソアレ」
だが、おれは信じている。
「勝てるよ、おまえは」
「…………うん」
あれからソアレには必要なことは全て教えた。
「さて、行くか」
そしておれは檻の前に立って、
「出られへんやん」
檻の鍵は閉まったままである。でしょうね。
「待っててね」
そう言って、ソアレは入口で鍵を預かっていたらしくそのまま開錠してくれた。
「トリノちゃん、わたし……」
昨日までは何も知らず、負けることしか知らなかったソアレ。
だが、いまおれの目の前にいるのは勝つために全てを賭けた《まほうしょうじょ》の姿がある。
「おまえの《まほう》でぶっ飛ばせ」
「うん!」
そしておれたちは対戦の舞台へと向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「よく来たな」
会場に到着するとフルカノンのパイセンが待っていた。
中央にはリングのようなものと周囲にはぐるりと囲むように観客が座れるようになっている。しかもしっかりと観客もいるので、ここで負ければ言い逃れはできない。
いちばん最底辺の首輪をつけるソアレ。
おれにいたってはその首輪をつけていない。
そして相手は銀色と金色ってわけで誰もが一方的に終わるだろうと盛り上がりに欠ける組み合わせに呆れている。
「そらまぁ……逃げるわけにはいかないよねぇ」
修練場の広場よりもう少し進んだ先に、ドーム状の建物があったがどうやらそこがおれとソアレの命運を決める場所のようだ。
「ここでいつも大会を開いてるんだよ」
ソアレが小さくおれの耳元でささやく。
ゲーセンでもよく定期的に大会開いてくれてたなぁ。でも年月が過ぎるごとに参加者が減っていった。
ついには例のパンデミックがかなり痛かった。閉店時間にまで影響するのはほんと最悪だった。でも、ここでまた大会を体験できるのは心底嬉しい。
「さて、さっさと終わらせようぜ」
そしてリングの上にはスティルが舌を出して、待ち構えている。
「ソアレ」
「うん……」
ソアレがゆっくりとリングに向かって進む。
「ソアレ!」
小さくなる背中におれはソアレの名を叫んで、
「しっかり見て、考えて、最後まで諦めるなよ――そしたらわりと勝てる」
おれには何もない。何の才能もないし、人より優れたこともない、何か遺せたわけでもない。おれが死んだところで誰も悲しまない。本当に何もない。
ただ格ゲーが好きで、ただそれを続けていただけのおっさんだ。
それでも、おれがいつも心に誓っていた言葉をソアレに送った。
相手の動きをしっかり見逃さず見る。
自分が動くときはなぜそれをするのか考えて動く。
そしてどれだけ体力が減っても、不利であっても、体力がゼロにならなければ負けではない。そこから逆転することだってできる。
何が起きるかわからない。諦めず、立ち向かえ。
それが――格上であろうとも。もちろんどう足掻いても埋めることのできない知識量や経験は確かにある。
だが、絶望的ではない。ソアレは、スティルに勝てる可能性はゼロじゃない。
ソアレは何も言わなかった。
でも、力強くコクリとうなずいて――拳を突き立てる。
「お前はここで負けだ。ソアレ」
スティルとソアレが対面する。
スティルは五指から糸を垂らし、ソアレは片手剣を握る。
「負けないよ……だって、トリノちゃんに教えてもらったから」
ここからはもうおれが出来ることは何もない。
「だから――」
しかしソアレの身体は震えることなく、しっかりとスティルを見据えている。そしてソアレは両目を細めて、静かな殺意を象り――
「――わたしが、勝ちます」
対戦が、始まった。




