第17話 おれが勝たせます<6>
「てめぇ……」
「ほれ」
そして再びおれはジャブを撃ち、スティルはガードするが――
「どうせまた投げて――なっ!!?」
こちらが投げると思っているからそれに対してスティルは動こうとしているのだろうが、今度はわざと投げずに攻撃を続ける。
攻撃をガードさせてからほんの少しだけ間を空けて、遅らせて殴ることで暴れるスティルの顔面におれのジャブが直撃している。
本当はここから致命傷を与えることができたのだが、もちろんそんなことはしない。
「おまえを倒すのはおれじゃなくて、ソアレだからな」
おれがスティルと対戦している本当の理由。
それはスティルの持っている技や、攻撃手段、モーション。少しでもいいから情報を得るためだ。だからすぐに処理するわけにはいかない。
こんなことを言ってしまうと、知識差でおれはスティルを処理できる。だがそこで何もさせずに倒しても意味がない。
ソアレはおれの戦う様子をジっと見ている。
少しでもなにかソアレの知見に繋がればそれでいい。
そして必要なことは後で教える。
「ああ、もういい、わかった……殺してやるよ」
そしてわなわなと震えるスティルの手元で揺れる糸が扇上に開いたのだが――――
「そこで何をしている」
乱入。
ピタリとおれとスティルは動きを止めて、声のする方へ向く。
どうやら住民がおもっきり噴水の前で暴れてるのを通報したようで、数人の《まほうしょうじょ》と――
「あー、パイセン。こんちわ~」
フルカノンのパイセンが腕を組んで立っているので、おれはスティルから離れる。
「妙な真似はするなと、言ったはずだが?」
たしかにおれはまだ《まほうしょうじょ》なのか《荒使》なのかはっきりしていない。
信頼を勝ち取るまでは、大人しくするべきだった。
さすがにパイセンが来ては、おれもスティルもそれ以上続けることはしなかった。全てが決まるのは明日なのだから。
ってかそもそも因縁ふっかけてきたのスティルだろうに。しかしおれは余計なことは言わない。
「さっさと帰れ。おまえもだスティル……どうせ明日に全て決まる」
そしてチラリとパイセンはソアレを見ているが、ソアレは視線を逸らすことはせず真っ直ぐこちらを見ている。
「ほう……何か、変わったか」
いつもと違うソアレの様子にパイセンも感心していた。
「トリノ、何をした」
「何って、そらまぁ……ちょっと背中を押しただけかなぁ」
「ふん……まぁ、いい……さっさと解散しろ。これ以上騒げば私が動くぞ」
そしておれはスティルに視線をやれば、怒りの形相を浮かべたまま、しかしどこか下卑た笑みを浮かべている。
「明日が愉しみだぜ。テメェの目の前で……あの落ちこぼれが泣いて許しを請うまでボコボコにして、テメェもセットでここから引退させてやる」
「へい。じゃあ明日ね。さいなら」
なんか後ろでめっちゃスティルが叫びまくってるけど無視だ無視。
最低限の情報しかスティルから引き出せなかったがそれで十分だ。本当に十分すぎる――勝てる可能性がいくらでも見つかっていく。
おれはそのままソアレの近くに寄る。
「そういや対戦してたのになかったことにできるのか?」
ゲーセンではさすがに無理だった。お互い硬貨を入れた時点で、どちらかの勝敗が決定するまでは逃げることは出来ない。
「できるよ。対戦はお互い無効にすると納得した場合は、強制的に対戦は終了するよ。その場合は戦果に影響ないからだいじょうぶ」
どうやらこちらでは可能のようだ。
おれもスティルも完全にパイセンの乱入で殺る気は削がれていた。
「ごめんな、勝手なことして」
本来ならばおれではなくソアレが戦う相手に、おれが一方的に喧嘩を売るような形で対戦を始めたのだから気分のいいものではないだろう。ましてや明日この相手に勝たなければソアレの未来は断たれてしまう。
だけど、ソアレはおれの謝罪を前に首を大きく横に振ってから、
「トリノちゃん、ありがとね」
けれどそんなおれに対してソアレはニコリと微笑んで、
「わたしは、負けないよ……」
覚悟を決めたように、拳を握り締めている。
「《《あんなの》》絶対ぶっとばすよ。もう、ほんと……それでめちゃくちゃにして、五回ぐらい泣かせるから」
いや、めっちゃキレてるやん……。
でもソアレはおれと出会う前からスティルに何度も負けて、カモにされて、挙句にはボーナスステージとかいうクソひでぇあだ名まで付けられてるんだから怒り心頭なのも当然だろう。
同じ立場ならおれだって練習しまくっていつか殺すって思ってやってる。
ってかおれも格闘ゲームにハマったのはそんな負の感情だったから。
舐められたままが気に入らなくて、いつかぶっ殺すって気持ちで始めたから。ソアレの怒りは自分自身の過去を見ているようだった。
「まぁ、まぁ……いろいろわかったし――」
「ソアレはおれが勝たせますよっと」
「なんかいい感じになって悪いが」
そこでおれとソアレの横にパイセンが立っている。
「おまえ今日は檻の中に戻ってもらうから」
「………………………………………はい?」
「当然だろう? 妙な真似を起こしたのだから、ソアレ連れていけ」
「あ、は、はい! ご、ごめんねトリノちゃん」
そしてまた両脇にソアレの細い長い腕がスルっと通り過ぎて、
「うわぁ~……はなせぇ……ってかベットで寝かせてくれぇ……」
やっぱり対戦が成立しないとおれはただの幼女と化してしまうので、ソアレに掴まれてどうすることもできなかった。
あんな硬いコンクリみたいな床で夜を過ごせとか辛すぎる。
「《まほうしょうじょ》として認めさせれば必要なものは用意してやる」
ならなんとしてもソアレには勝ってもらわねば……と、願うのだった。




