第16話 おれが勝たせます<5>
「じゃあ、次はおれの番ね」
そしてすかさず↓↘→と頭ん中で唱えて、
「フォトン・スロウ」
最速で入力したつもりでも、口から勝手に技名だけ叫ぶのほんとやめて……。
しかしおれの右手の中で虹色に丸まった光の弾をスティルにめがけて飛ばす。
「まじか、魔導技も使えんのかよ」
「おまえも使えよ」
だがスティルは自身の指先から伸びている糸を絡め合わせて壁にしておれの飛び道具を防いだだけだ。
「は? テメェに見せるわけねぇだろ」
「そうかい、じゃあ……」
おれはゆっくりと前へ進む。ダッシュはしない。歩くだけだ。
しかしスティルとの距離を半分ほど詰めたところで、
「捉えたッ……!」
おれの足元に設置されていたクモの巣のようなものに足の裏が触れた瞬間、そこから剣山のように尖った糸が、おれに向かって襲い掛かる。
「あぶね~」
しかしおれはそれをガードしていた。
いや、ぶっちゃけると足元に仕掛けてあったのはわかっていたのにわざと踏んだのである。どうなるか知りたいし。
爆発するのか、それとも動きが遅くなるとか、とにかく仕様が知りたい。しかしどうもただ針のように尖って襲って来るだけだ。
でも、
「……うごけない」
どうも刺さっている状態だとその場から動けないようだ。これは正直厄介である。これを仕掛けまくって、あとは逃げるだけで勝てるじゃないか。
「はは、どうだおれの糸は。罠として仕掛けることもできるし、自由自在に操れる。おれの《まほう》は死角がねぇ」
どうもスティルの使う《まほう》とやらはクモの糸っぽい何かを操り、しかもそれを自分の身体の一部のように使えるみたいで、しかもクモの糸を設置することで触れた者にダメージを与えるし、動きも止めれる。
確かにどうすればいいかわからないまま対戦しても決してスティルには勝てないだろう。
話を聞けば不正で稼いだ勝ち数で銀色と言ってはいるが、それでもこの力を使って対処できない他の《まほうしょうじょ》を蹂躙しているのも確かなようで。
「《才覚》の無いあの出来損ないには関係ねぇ話だったかぁ?」
聞きなれない言葉がスティルの口から出たので、おれは耳を立てる。
「なにそれ?」
「《まほうしょうじょ》は自分の《まほう》を使いこなせるようになったとき《才覚》が目覚めるんだよ」
「ほーん、覚醒ちゃうってやつ?」
「意味わかんねぇ」
よくわからんけど、たぶん《まほうしょうじょ》としてもっと強くなるってことやろ多分。おれの手から虹の光パワー出るのも《まほう》っぽいけど、おれもそのねーむ?ってやつが目覚めるのかな?
チラリとソアレを見るが、スティルの言葉に対して何も反論することもなく、ソアレはただ黙り込んでいる。
「いや、おまえは今日おれに喧嘩を売ったのがいちばんの失敗だったよ」
だが《才覚》とやらが目覚めていようがいまいが、どうでもいい。
おれはソアレに教えるだけだ。そしてこの対戦でもうスティルのことはわかった。
「失敗はテメェの方だよ。さぁて……このままいたぶってやるか」
足に糸が絡みついておれは動けない。その状態のままジリジリとスティルが近づいてくる。
「もうおまえはソアレに勝てないってことだよ」
だからスティルの思い通りにはならない。
糸で足が絡みついても別に完全に動けないわけではない。立ちとしゃがみの状態は切り替えられる。
「しつこい……」
糸を伸ばし、足元を払うように攻撃してもおれはしゃがんでガードするし掴まれても当然それは抜ける。
攻撃はガードし、投げは投げ抜けする。他の《まほうしょうじょ》ならば動きを止めてから乱暴に勝てたのだろう。
だがおれは違う。そもそもガードを崩す行為があまりにも乏しい。この程度でおれのガードは破れはしない。
「どうなってやがる」
「どうもしない。そして――」
おれは足元に巻き付いた糸を振り解き、すかさずスティルのに接近する。すでにおれの間合いだ。
「どうにかしてみせろ」
おれは弱攻撃を一回押し、スティルを軽く小突く。
「こんなもんで、どうにもならねぇだろ」
しかしスティルはおれのジャブをガードし、笑う。
「……へ?」
スティルの身体は宙に浮いていた。
おれはスティルの胸倉を万力のごとく締め上げたまま、そのまま放り投げていた。
「直接投げるのは別に間違っていない。しかし投げるとわかっているなら意味がない」
「な、なんだ……これ……」
「当て投げだよ……ってか銀色どころか下位のランクでも普通使ってくるもんだろこんなの」
そう、当て投げである。
小技をガードさせてから再度、攻撃すると見せかけての投げ。
本来ガードは成立した際に投げに対しての無敵時間が存在する。
しかし弱攻撃はガードした際に発生する投げに対しての無敵時間は短い。しかもお互いの距離も離れないから投げの間合いのまま。だからこそ少し待って地上投げを重ねることで攻撃をガードさせてから投げられるわけだ。
最初の攻防で糸の攻撃をガードし、引き寄せてからスティルが選択するのは一方的に投げるのみだった。しかも投げしかしないならこっちは投げを抜けるどころかそこの隙間を狙って反撃もできる。
今回はあえてスティルのレベルを知りたいこともあって敢えて反撃はしなかったが、いつものおれなら暴れ散らかしてめちゃくちゃにしていることだろう。
「ふざけやがって……」
おれの投げが成立し、しっかりとダメージが入ってスティルの体力ゲージが削れている。このまま有利なおれは攻めを継続できるが、まだ様子見だ。
ついでにこの異世界のレベルも把握できるからちょうどいい。
「ほら、次はどうする?」
スティルの起き上がりに合わせておれは一瞬だけガード。《魔導技》をぶっ放すのか、何かしらアクションを起こすのか放置したが――スティルは何もしなかった。
存外、見た目とは違って慎重な性格なのか……これまでの《まほうしょうじょ》とは違う行動を起こすおれに対して混乱しているのか――
だが、そこでなにもしない時点でおれのターンは終わらない。




