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第41話

 エルミナとクラリスの話を聞いて私は安堵したような、疲れたような、もやもやとした気持ちになった。


 要するに私が騙されていたと思っていたのはシグルドの工作を逆手に取り、二人で仕組んだものだったのだ。


 手紙はシグルドがエルミナの机にわざと忍ばせたもの。そしてヴァンパイアが冒険者を襲ったというのはシグルドの盗みを見てから、流した噂だったというわけだ。噂を流したのはホムンクルスのリリーだったらしい。


 だから詳しく話さないとわからないんだよ。本当に全て私の勘違いだったわけだ。もっともヴァリシア王国で最強とうたわれるシグルドを捕らえたのはよかったが。


「それにしても、セラフィナ様の演技は素晴らしかったです」


 唐突にクラリスが口走る。演技とは何のことだろうか。


「それにシグルドの作戦を逆に利用しようとする機転。さすがと言わざる得ません」


 シグルドの作戦って、エルミナの部屋にあったヴァリシア王国に宛てた手紙のことだろうか。でも手紙を仕込むということは私がエルミナの部屋を見に行かないと成り立たない。


 ……もはやどこからがシグルドの作戦だったのかすらわからないな。


 クラリスが一方的に私を褒めたたえていると、ルナが顔を出す。そしてクラリスに肩を貸しているエルミナを見て、忌々《いまいま》し気に口を引く。


「……エルミナ、あんたずいぶん派手にやってるじゃない? どうすんのよ、これ」

「うるさいわ。うちのやり方に文句つけんといて。クラリスお姉さまも、セラフィナ様も公認やし」

「ええ、そうですね。私もセラフィナ様もエルミナにはずいぶん助けられました」


 助けられた……だろうか。たしかにシグルドに魔法の矢を当てた功績を作ったのはエルミナだった。でもそれなら最初から敵みたいな感じで出て来なくてもよかったんじゃないか?


「その件だが、なぜエルミナはわざわざシグルドを庇うように出てきたのか聞こうか」

「さすがセラフィナ様、抜け目がないです。そこまでしっかりとセラフィナ様の意向通りか確認しようということですね」


 そういうつもりは一切ないんだけどな。まあ答えてくれるなら良いか。クラリスに頷いて答える。


「そうだ」

「……ご存じのとおり英雄は意識することで魔力を無効化することができるのです。つまり魔力が元になっているエルミナの霧化は……シグルドの前では的を大きくするだけになる可能性があったのです」


 納得がいった。つまりエルミナを仲間だと思い込ませておかなければ、逆にエルミナのほうが危なかったというわけか。そしておそらく、クラリスが本当に危ないとなったとき、エルミナも我慢できなかったんだろう。


「……私の思った通りだ。素晴らしい活躍だ、エルミナ。そしてクラリス」


 ねぎらいの言葉にエルミナは嬉しそうに顔を緩ませる。一方のクラリスはそんな様子を微塵も見せることなく、青白い顔で再び口を開いた。


「ところでルナ。そちらは問題なかったのですか?」

「もちろんですよ! ちゃんとあのクソジジイを捕まえましたから!」


 ……捕まえた?


 考えるんだ。たしかクラリスは最初になんと言っていた。


 ——国王軍が、攻めてきました。


 捕まえたというのはもしや――


「そうですか。ではあとはヴァリシア王国との交渉を残すのみですね」


 クラリスの言葉に確信する。ヴァリシア王国はどうやら壊滅かもしれない。



☆☆☆



 気を失ったまま横たわるシグルドのそばで、国王とその家臣たちが手を縛れていた。


 いくつか物申したいことがある。どうして最前線に国王がいるのだ、とか。家臣そろって出てくるのはどうしてだ、とか。


 どう考えても私には理解できない目に余るほどの行動力がヴァリシア王国の国王にはあるらしい。最前線に出てくる国王ってどうなんだろうか。


 ともかく、なぜ国王軍が攻めてきたのか理由を聞いておきたい。


「久しぶりだな、国王。以前とは立ち位置が逆になってしまっているが、私の疑問には答えてくれるかな?」

「この冒険者風情がッ! この私を誰だと心得ておる!」

「そうだぞ! ヴァリシア国の国王陛下であられるぞ!」


 あのときとは打って変わって話し合いにすらならないじゃないか。どうすれば良いんだ。


「……セラフィナ様、ここは見せしめで国王を処刑しましょう。この状況で立場が理解できていない無能は不要かと」


 隣にいたクラリスが耳打ちをしてくる。見せしめ、か。たしかに犠牲を一人出せば今みたいな態度はとらなくなるだろう。スムーズに話を進めていく代償と考えればクラリスの主張はわかる。


 もはや私もヴァリシア王国も後に引けない状況になっている。和解という道はないのだ。工作活動を通じた内部分裂の誘発。そして軍事侵攻。それが王国の答えだ。


「……いいだろう」


 人の死を自分自身で決める。胸の底が冷えるような思いで伝える。


「なんだ貴様は! 私の前に立つなど図が高いぞ!」


 一歩前に出たクラリスに国王がわめく。


「最後の言葉はそれで良いのですか?」


 底冷えするような声が部屋内に響く。クラリスだ。


「最後だとっ! やれるものならやってみるが良いわ! 私を誰だと心得ておるのだ! 私はヴァリシア王国の国王――がはっ」

「それ以上、耳障りな声を出さないでください」


 クラリスが魔法で作られた矢を放ち国王の腹を捕える。王の取り巻きの家臣たちから悲鳴が上がる。


「こ、国王陛下!?」

「なんということをっ!?」


 赤黒い血が国王からにじみ出る。しかしまだ息はあるらしい。わざと急所を外したか。本当は人の死など求めていないという意思を汲んでくれたのだろうか。


「……うるさいですね」


 家臣たちへ睨みを効かせると、同じツテは踏むまいと黙り込む。途端に静かになった部屋に国王のうめき声だけが虚しく響いた。


「さて静かになったようですね。ではセラフィナ様、どうぞお話しください」

「……すまないな、クラリス」

「いえ、セラフィナ様の話を聞けない愚か者のしつけを行ったまでです」


 ひっそりと国王の傷を魔法でふさぐ。少し離れているくらいであれば傷口をふさぐのは簡単だ。これで少なくとも出血死は防げるだろう。


「では改めて問おう。私の質問に答えてくれる者はいるか?」

「こ、答えます!」

「い、いや俺のほうが!」

「バカを言え! 私だっ!」


 我が身の可愛さに、全員が自分を主張し始める。私は死の化身ではないんだけどな。


 理由を聞きたいだけだというのに話が進まない。


「黙れ」


 自分でもびっくりするほどの低い声で呟く。すると命乞いの如く騒いでいた家臣たちがぴたりと争いをやめた。


 とはいえ話をまったく聞いてくれないわけではない。これなら会話にもなるだろう。ただ答える人物は指定した方が良いのがよく分かった。


 とりあえず適当に一番前にいた気の弱そうな男を指差す。


「お前が答えろ」

「は、はい」

「なぜこの街に工作員を放ち攻めてくるような真似をしたのだ」

「それは……アーティファクトです」


 予想はしていたがやはり目当てはアーティファクトだったようだ。男は話を続ける。


「ヴァリシア王国は三つの国と隣接しております。隣国とは仲が悪くどこも膠着こうちゃく状態でした。そこに大量のアーティファクトの話が舞い込み……国王が無理やり推し進めたのが今回の発端となります」


 ルシアン公も異常にアーティファクトを欲しがっていた。話しを聞けば納得できる。隣国との関係がよくないので、アーティファクトを持ち帰れば持ち帰っただけ自分の株が上がった、ということか。だからこそあそこまで強欲になれたのだ。


「そうか。では次だ。なぜ国王と家臣、お前たちは戦場に出てきた? 本来であれば王都にいるべきだろう」

「シグルドがいるからです」


 気絶しているシグルドを一瞬だけ見て、続ける。


「彼は王国最強の人です。だから負けはありえない、皆そう考えていたのです。だからこそついてきたのです。そして制圧後にルミナスを我々の手で良いように自治するために」


 もはやルミナスという街を今のまま残すつもりもなかったんだろう。アーティファクトを独占し、他国の侵略へ向かう。そう言った算段をつけていたのかもしれない。


「最後だ。これはいつから考えられていた話だ?」


 一番重要なことだった。もしかしたら国王は最初からルミナスのアーティファクトを独占するつもりで探していたのかもしれない。


 辻褄は合う。たかだか街一つの為に王都を封鎖ふうさしてまで人探しをするだろうか。私ならしないだろう。


 村や町は変化する。町ほどにもなればそう簡単に変化はしないだろうが、それでもドラゴンが飛来すればきっと町は消滅する。そしてどこかで新しい町が生まれるのだ。


 だというのにルミナスを是が非でもたどりたかったのだ。理由があって。


「ルミナスの噂が立ち始めたころ、と聞いております」


 やはりそうだったか。この分だと私たちの旅路にルシアン公をつけたのもわざとなのだろう。あの性格であれば火種を生むのは間違いない。


 アーティファクトを全て持ち帰ればよし。もし火種となっても攻める口実ができる。そういう算段だったのだ。


「セラフィナ様はお優しい。知っていることを、わざわざ聞いて信用に足るかを判断していらっしゃるのですね」


 隣でクラリスが呟いているがまったく違う。単純に私が知りたかっただけだ。


 しかしこの騒動、全て仕組まれていたとなると、初めから和解の道など無かったのか。私は少し疲労を感じながらどうするか悩んでいた。


 王や家臣を国へ帰したとしても、関係の修復はできない。そうなるとギフトの情報を集めるのも大変になる。良いことが一つもないではないか。


 ではどうすれば良い。例えば王国を乗っ取ってしまうような……いや考えなおせ。私は国を持ちたいわけではない。少なくとも国政などやってしまえばギフトを探す時間など皆無。


 それは婆様から無理やり継がされたエルフの国の王をやったときに、嫌と言うほど思い知らされている。なにより私はエルフの国の王になったせいで女にされたのだ。


 却下、この案は却下だ。少なくともやるなら裏からの支配。そう、奈落の瞳のように。


「……待て。たしかに影ながら支配すれば悪くないのではないか……?」


 あまりの名案に思わずつぶやいてしまった。悪くないぞ。面倒な国政は全て王や家臣にやらせればいい。私は良いところだけを掠め取ればいいのだ。


「……そういう……ことでしたか……っ!」


 え?


 なぜクラリスが尊敬のまなざしで私を見ているのだ。


「さすがはセラフィナ様、私の思いもよらぬところにまで考えを巡らせていらっしゃいます」


 いや単に自分で国を自治したくないからなのだが。私の思いと裏腹にクラリスが早口で続ける。


「たしかにセラフィナ様のお考えのとおり、今この時点で国を立ち上げるのは得策ではありません。そうでしょう。いくつもの隣国がヴァリシア王国と不仲の状況。ここはじっと息をひそめ、裏から支配域を広げ――不和がなくなったところで乗っ取る。そういうことですね」


 乗っ取るとかそういうつもりでもないのだが。いや影から支配するというのはある意味では乗っ取りか。しかも隣国も含めて支配できればギフトはかなり楽に探せそうではある。


 ……そう考えると悪くないのではないか?


「……その通りだ」


 魅力にはあらがえなかった。旅を通じてさんざん苦労してきたのだ。Dランクという冒険者である私がギフトを調べるという大変さを。


 しかし! 国を裏から支配していればそれも簡単だ。国王に言って調べさせればよいのだ。もっとも支配ができるまでは地道に探す必要はあるが。


「さすがは我が主、セラフィナ様です。そこまでお考えであったとは――私の浅はかさをお許しください」


 いや浅はかではないと思うけどね。むしろ私のほうが浅はかだと思う。


 クラリスはそれだけ言うと、死にかけている王と家臣へと声高らかに告げる。


「今回の件でよくわかったでしょう。私たちはヴァリシア王国など取るに足らない存在。いつでも潰せるのです」


 家臣たちから悲鳴が上がる。王が惨殺ざんさつされかかったのが、相当効いているらしい。


「セラフィナ様の恩情によりお許しを与えました。今回はあなた方を無傷で帰すと約束しましょう」

「せ、セラフィナ様っ……!」

「ありがたき幸せ……!」

「ありがとうございます……!」


 クラリスは家臣たちの言葉を満足げに聞いてから続ける。


「ですが、条件があります」

「条件だと……!? わ、私の地位は約束されるのか!?」

「俺も! 俺もだ!」


 ……家臣たちは己の地位にしか興味がないのか。まったく国家運営というのは、これだからやってられないのだ。


「黙りなさい」

「「「ひっ」」」

「条件を飲めばあなた方の地位はお約束しましょう」

「なっ……本当か!? の、飲む! 飲むぞ!」

「私もだ!」


 本当に腐りきっているな。まあ私はギフトの情報さえしれれば良いから、それ以外はどうでも良い。好きにやらせておけばいいのだ。


「条件は聞かなくても良いので?」

「も、もちろんだ! なんでもする!」

「そうだ、地位は保証されるのだろう!?」

「ええ、もちろんです。では交渉は成立ですね」


 そう言うとクラリスはニコリと笑って、空間転移のゲートを開く。


「ではこのゲートを通り王都へお帰り下さい。後程、私たちの手の内の者を送らせていただきます。くれぐれも――裏切ろうとせぬよう。私たちは常にあなた方を見ておりますよ」


 何人かの家臣が息を飲む。帰りさせすれば、どうとでもなると思っていたのだろう。私のクラリスを甘く見ない方が良い。そんな抜け道など塞ぐに決まっている。


 クラリスは冷徹な表情で息を飲んだ家臣たちを見る。おそらく見られた方は気づいてすらいないだろう。マークされたな。


 そうして空間転移のゲートで全ての人を帰し終える。残っているのは自力で帰れない人だけ。いつの間にか気絶していた国王とシグルドだけだ。


 ようやく一息ついたと思ったのも束の間。クラリスが私のほうを振り向いて笑みを浮かべる。

 

「ではこれからレイラとアリサを送り込みましょう。彼らは信用なりませんからね。私が直々にヴァリシア王国を中枢から支配するのです」


 ……あれ、それってもう国王変わるってことじゃない?

 

 

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