第42話:EP
あのあと目覚めた国王とシグルドには、貴族たちが決めたことを説明してやった。国王は死にかけたことで、逆らう気も起きなかったらしく、しおらしく従った。
シグルドの方は私に負けたことが不満らしく、なぜかルミナスに残っている。なぜだ。さらに私を倒すために地下の迷宮にこもっているという話も聞いた。英雄のギフトは魔力を無効化できる。強くなられると困るんだけどな。
ヴァリシア王国でも動きがあった。クラリスはすぐにレイラとアリサを送り込んだ。二人は武闘派のホムンクルス。王国内で逆らえる者はいないのだとか。もちろん王国の運営に関与するつもりはない。勝手にやってくれ。男に戻るギフトさえ見つかればいい。
そんなわけで私はルナとセシルに新たにオズを加えて再び冒険者をしていた。目的はもちろん決まっている。
「それにしてもゼルフィリア神聖国の北東にある村で盗賊団が出没ですか。どうもきな臭いですね」
盗賊団を壊滅する依頼を受け、すでにヴァリシア王国を後にしていた。今はゼルフィリア神聖国の端にある村に向かっていた。
「セシル、それってヴァリシア国とゼルフィリア神聖国は仲が悪かったから、ってことかしら?」
「そうです。クラリスさんが内政を握ったタイミングですから。ルナさん、セラフィナさん、心当たりはないですか?」
「知らないな」
「セラフィナ様と同じ。私も知らないわ」
「そうですか」
眉を寄せている。たぶん納得していないのだろう。とはいえクラリスと頻繁に連絡をとっているわけでもない。知らないものは知らないのだ。
☆☆☆
「お前たちが冒険者ぁ? 女だけではないか!? クソ、これだから冒険者ギルドは役に立たないんだ!」
「まともな冒険者すら寄こさないとは……高い金を払ったのにどういうことなんだっ!」
ドンという大きな音と罵声が響く。
村に着いたばかりだというのに、どうして依頼者に怒鳴られているのだ。盗賊団を壊滅させに来たはずが、女だらけで信頼できないと。胸の奥から沸き上がってくる熱い怒りを抑え込む。
「この……! セラフィナ様に向かって、どういうこと!?」
私は思わず肩を落とした。冒険者として活動を再開する前に、人との付き合いを勉強したはずだ。たとえ開口一番に罵声を浴びせてくるような連中であっても、冷静に対応するのだ、と。
あの時間はなんだったんだ。
「ルナ、やめろ」
「セラフィナ、なんでよ? ルナの言うとおりだわ。こんなやつら助ける価値もないじゃない」
オズが同調する。やめろ。もしかしてオズにも人との付き合い方を教えなければいけなかったのか?
「二人とも落ち着いてください。ゼルフィリア神聖国はどうも女を下に見る風潮があるんですよ。依頼をこなすと思って我慢をして下さい」
セシルが言い終えた瞬間だった。女の悲痛な叫び声が上がる。
この場にいる全員が一斉に振り返る。すると、馬に乗っていた盗賊団が女を切りつけていた。
しかし女を切りつけた盗賊。確実に見たことがある。あれは私が旅に出て初めてついた村で捕まえた盗賊団のボスだ。
ゼルフィリア神聖国の村でいったい何をやっているというのだ。そもそも、クラリスに任せていたはずだっただろう。なんで任せたんだったか。
……そうだ。ギフトを調べられないから、だった。そう言えばまだギフトを調べていなかったな。なんであんなに時間があったのに忘れていたんだ。
考えを巡らせていると、隣からセシルのため息が聞こえる。
「やはりきな臭いと思ったのは正しかったようですね。今の彼らは奈落の瞳の幹部まで成り上がっていたはず。エルミナさんが元締めですね」
だろうな。たしかにエルミナも忙しくなる、とか言っていた気がする。
……で、なぜ私をじっと見つめるのだ。
「なんだ? なにか言いたいのか?」
「いいえー、なんでもありませんよ。ほら、セラフィナさん。来ましたよ」
わかってるよ。やっぱり知ってたんじゃないか、って言いたいんだろう。
でも、だ。私は本当に知らないんだよ。他のホムンクルスと同じように、セシルは言っても理解してくれない。ルミナスにいる間でずいぶんと毒されていたようだし。
はぁ、私は男に戻りたいだけ。だというのに、どうしてホムンクルスたちの陰謀に巻き込まれ続けるのだ。次はゼルフィリア神聖国でも裏から操る算段でも立てているのかな。
私は次にホムンクルスたちが何をやらかすのか考えながら、目の前の盗賊を無力化し続けるのだった。




