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第39話:視点【クラリス】

 クラリスは窓から、沈みかけの陽が彩る鮮やかな景色を眺めていた。それを目を細めながら見つめるエルミナ。


 クラリスがゆっくりと口を開く。


「エルミナ、シグルドは尻尾を出しそうですか?」

「なかなか尻尾を出さへんけど……うちとルナ、それからセラフィナ様の仲が悪なってる、っていうのは感じてるかと思いますわ」

「そうですか。それは悪くないですね」


 そう言いながらクラリスはくるり、とまわってエルミナを見る。


「やはり例の――冒険者をダンジョン内で襲ったのが効果的でしたか?」

「そうやね。影からみてはりましたけど、あの話を聞いたときのセラフィナ様の演技は、ほんまに素晴らしかったわ」


 エルミナの報告に、普段は冷たい表情をしているクラリスの口角が少し上がった。


 ヴァリシア王国はエルミナが奈落の瞳のおさであることを、知っていた。それだけではない。エルミナがヴァンパイアであることまでも、知っていたのだ。


(ヴァリシア王国の情報網は意外とバカになりませんね。少し侮っていましたが、逆にその情報量が私たちの計画に寄与したのですから、おかしな話です)


「それは重畳ちょうじょうです。彼の工作活動に便乗した甲斐がありますね。では彼が動き出すのも、そろそろでしょうか」

「そうやね。シグルドが動き出すのも、時間の問題やと思います」


 クラリスはシグルドが工作員であることを見抜いていた。


 初めはずいぶんと大人しく、情報を掴み間違えたのか、とも考えた。しかしエルミナと仲良くなり始めてから、いくつもの工作活動を仕掛けてきたのだ。


 彼は身代わりになる人物を探し、工作を最大限に生かす機会を待っていただけだった。


 身代わりが見つかった後は簡単だ。例えば盗み。冒険者の物がなくなれば、ルミナスの評判を落とせる。それだけではない。


 もしその盗品がセラフィナの城から出てきたら?

 しかもそれが、セラフィナが懇意にしている人物なら?


 冒険者の不信感は増し、最悪の場合は対立しなければならない可能性すらある。


 シグルドが冒険者とセラフィナたちを対立させるまで計算していたかは分からない。しかしエルミナが張り付いても尻尾を出さないほどの慎重さを考えると、計算していたと考えるのは自然だ。


 クラリスは最初、抑え込む方向で考えていた。


(しかしセラフィナ様は逆にそれを利用した。本当にセラフィナ様は私の想像をはるかに超えています。まさかエルミナを疑ったフリをするだなんて)


 セラフィナは迫真の演技でエルミナを悪役に仕立てることで、あえてシグルドに動きやすい環境を与えたのだ。


 クラリスはその意図をすぐに理解した。混乱を演出し、あたかもセラフィナ率いるルミナスの街の治安や体制が悪くなっているように見せたのだ。


(シグルド・アークベインはセラフィナ様のてのひらで踊るピエロ。騙されているとも知らず踊り続けて――本当に滑稽こっけいですね)


 これはお膳立てだ。クラリスはそう理解していた。


 シグルドは内部分裂が始まり混乱をしていると思い込んだ状況を、国王へと伝える。国王とその周辺の家臣は、ルミナスの工作活動が成功を知る。


 あとは想像に容易い。偽情報をつかまされたヴァリシア王国が、このルミナスを攻めてくる。


(ヴァリシア王国はずいぶんと不敬を働いています。このルミナスが国として成り上がるためのにえとなって頂きましょう)


「さあ、舞台は整いました。いつでもお待ちしていますよ」


 クラリスは小さく呟いた。

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