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第35話

 それから数日が経った。私がなにを言うべきか悩んでいるうちにオズは自分の中で納得したらしく調子を取り戻していた。余計なことを言わなくてよかったのかもしれない。


 本人がどんな納得をしたのか分からないが、やりすぎには気を付けないといけない。


 そんな現実逃避をする私を前にオズとシグルドが激しい議論を交わしていた。どちらかと言えばオズが突っかかっていると言っても良いかもしれないが。


「はぁ!? だから私はギフトの根源が魔力だと思っているって言ってるのよ!」

「……オズさん。ですが、その場合、気力の説明がつきませんよ」

「それもさっき説明したじゃない! 気力はそもそも魔力の一種で――」


 オズの話は長くなりそうだ。私としてはオズの意見に軍配が上がる。とはいえ知っているサンプル数が少なくて何とも言えない。


 オズの言うとおりギフトの根源は魔力のように見えるが――


「セラフィナさんもそう思いますよね!? ね!? 私に賛成ですよね!?」

「えーと、オズ。なんだったかな?」

「オズさん、そこでセラフィナさんを出さなくても良いではないですか?」

「シグルドは黙ってなさいよ!」


 訓練場での一件からオズが私に対する態度が一気に変わった気がする。そう、私をやたらと神格化するようになったのだ。ホムンクルスたちと同じ匂いを感じ始めている。


 オズが私を神格化しているときはシグルドも呆れた様子で肩をすくませている。


 シグルドと言えば、ギフトを一緒に調べようと言い出してから、かなり時間が経っているが私の知りたいことをあまり知らないことが多い。


 本当にベルモンド王国の魔法学院教授なのだろうか。それとも魔法学院教授がこのレベルと言うことか?


 もし魔法学院教授がこのレベルだとしたら、ギフトの研究をしているよりも、ギフトをさがしに行った方がよっぽど有意義な気がする。


 そもそも、だ。たしかにヴァリシア王国では国王直々に捜索令が出されるほどだった。


 しかし考えても見て欲しい。捜索令がだされたのは騎士だけ。あくまで私は一市民だ。しかも冒険者という地に足のついていない職でDランクときた。既に一ヶ月ほど経っているし、ほとぼりも冷めたころではないだろうか。


 Dランクのギフトなし認定で苦労していたこともあったが、今となってはDランクで良かったと心底思うよ。


 と、再び目の前の口論から逃避していると、同じくらいうるさい声が外から聞こえてくる。


「ちょっと待ちなさいよ! セラフィナ様はいまギフトの研究中なのよ!? あんたが入ったら気が散るわ!」

「ギフトの研究やて? なら、うちも協力できるかもしれへんわ。あんたとちごうてね」

「こ、この……! 言ったわね!」

「ふふん、あんた、最近セラフィナ様にかまってもらえてへんからって、ストレスたまってるんとちゃう?」

「こんの……許せない!」


 ルナとエルミナか。声と口調ですぐにわかる。その騒がしさときたら、オズとシグルドの口論が中断されるほどだ。


「おっと、危ないわ」

「いったぁぁぁ!」


 ルナの叫び声と共に、物が崩れ落ちるような激しい音が聞こえる。どこかに激突したようだ。


 大丈夫か?


「さてさて、と。セラフィナ様、お久しぶりやわぁ」


 扉が勢いよく開いたかと思うと、エルミナが部屋の中へと足を踏み入れる。なんの用で来たんだ。


 「奈落の瞳」の組織の長をやっていたと思ったのだが、私に会いに来ている暇があるのか?


「久しぶりだな、エルミナ。何の用だ?」

「セラフィナ様、意地悪せんといてください。ちょうど私も少し落ち着いたとこやし、会いに来たんですわ。それにうちやったらギフトについても詳しいんやで? そこの使えへん女狐とはちごうてね」

「はぁ!? なによ! 私だってギフトの心得くらいあるわ!」


 遅れながらルナも部屋に入ってくると、エルミナの胸倉を掴みかかって吠えた。


 魔物暴走スタンピートの件で少しは協力できるような関係になったのかと思ったが……そんなことはないらしい。


「そうなんか? うちは組織を束ねてるもんや。いろんなギフトについて知っとるんやで? その分いろいろ知っとるんや。あんたは何を知ってはるん?」

「そ、それは……」

「ほら、何も知らんやないか。セラフィナ様、うちやったらギフトについても知ってますし、女狐ルナなんか置いといて手伝わせてください」


 ぐ、とルナは唇を噛んでいる。


 ……喧嘩しに来たの?


「ふん、良いわ。ルナ! この私を忘れるんじゃないわよ! ルナの知識が不足している分は私が補ってあげる!」

「オズ? あれ? なんでここにいるのよ?」

「それはもちろん、セラフィナさんを手伝いに来たのよ!」

「ふーん、そうなんだ。良い心掛けね」


 数日前と言っていることが違うぞ。私とのちからの差を知りたいだとか、教えを乞いに来たとか言っていたよな。目的がすり替わっているぞ。


 話を始めてしまったオズとルナを横目に、エルミナを手招きした。


「セラフィナ様、なんではりますか?」

「先ほど言っていた落ち着いてきた、とはなんだ?」


 組織の長が落ち着くことなんてあるんだろうか。少なくとも私の古い記憶では……いや、今も私がホムンクルスたちを統率しているうちに入るのか?


 そう考えると意外と落ち着いているんだろうか。


「それはもちろん、セラフィナ様の悲願を達成するための準備ですわぁ」


 私の悲願?


 それは私が男に戻るためのギフトが見つかったということだろうか。エルミナにそんな話をしたことがあったか?


 いやホムンクルスたちは200人を超えているのだ。もしかしたら、誰かが私の悲願を知っていてエルミナに話していたかもしれない。そうだ、そうに違いない。


 しかしそうなると私がギフトについて深く知ろうとしていることは無意味になるな。むしろ今すぐ辞めたい。


「……それは、本当に見つかったのか?」

「もちろんや、うちの組織を馬鹿にせんといておくれやす」


 たしかに女から男に変わるギフト、つまり姿かたちを変えることができるギフトは、闇の組織には向いているだろう。私の探し方が良くなかったのか。


「それは素晴らしい。ではさっそく会わせてもらえないか?」

「え? 会いはるんですか? たくさんいますけど……」


 ……たくさん……?


 探しにくいうえに貴重なギフトだと思っていたが、そんなことはなかったということか?


「そんなにたくさんいるのか?」

「ええ、まあ……例えば幻影を作り出せるギフトを持った者や、音を消せるギフトを持った者がおりますわ。ほんまにそんなのと会いたいんですか?」


 どういうことだ。話しが嚙み合っていない。私の悲願は男に戻るためのギフト探しなんだけどな。


 私が問いただそうとした瞬間、シグルドが割って入ってきた。


「エルミナさん! それは素晴らしいギフトじゃないですか! いったいどのように見つけたのでしょう!?」

「ん、なんや、おまえはんは?」

「おっと、申し遅れました。僕はシグルド・アークベイン。ベルモンド王国で魔法学院教授をしております」

「ベルモンド王国の魔法学院教授……? なんでそんな人がこんなところにおるんや」

「僕がセラフィナさんの元で一緒に研究をしたいと持ち掛けたのですよ! それよりもエルミナさん! 僕にそのギフトの持ち主……会わせてくれませんか?」

「え、まあ……うちは構わへんけど……」


 エルミナがシグルドの熱気に押されてやや引き気味になってる。めったに見られない珍しい光景だな。


 困惑しているエルミナはそれでも、私を気にかけてくれているらしい。ちらりとこちらを見てから続ける。


「セラフィナ様も一緒に来はります? 興味あったみたいやけど」


 すまない、エルミナ。私は男に戻るギフトにしか興味がないんだ。しかも隣にシグルドがいるのであれば、行く理由は皆無。


「いや気が変わった。私はここで待っていよう。二人で行くと良い」

「……そうですか」


 私の言葉に肩を落としたエルミナ。一方でシグルドは顔を輝かせている。そんなアンバランスな二人が部屋から出ていくのだった。


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