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第33話

 目の前にシグルド・アークベインがいる。いけ好かない画面偏差を持つ顔をこちらに向けているが、その顔を捻じ曲げてやりたい。しかしそう安直に動けないのが今の辛いところだ。


「ギフトとは天から与えられる能力の一種で、気力・魔力を利用すると言われているんだよ」


 シグルドの八重歯が光る。耐えろ。心落ち着かせて疑問を告げる。


「気力、と言うものは初めて聞いたな」

「そうなのかい!? 君ほど美しく優秀な研究者が知らないなんて! 良いかい、気力と言うのは主に魔力以外のギフトに使われるもの、と言われているんだ」

「魔力以外だと?」

「そうとも! たとえば剣のギフトなんかは代表的なものじゃないかな」


 剣のギフト、か。騎士団長が剣王と言っていたな。あれが気力を使っているということか?


 だがどう見ても魔力だっただろう。騎士団長が特殊、ということだったのだろうか。新たな疑問が渦巻うずまいていく。


「おや、納得がいってなさそうな顔だね」

「そうだな。剣王のギフトを持っている知り合いがいるが、そいつは魔力を使っていた」

「魔力を……? うーん、なるほど。君ほどの研究者が見たのだから間違いはないんだろうけど……どういうことだろう。その人が特殊なのかもしれないな」


 団長が特殊なだけ、か。知っているのは騎士団長だけなので比較対象がないのがつらいところだ。これでは仮説の立てようもない。


「たしかにそう言うイレギュラーなこともあるけど……基本的には気力を――」


 と、そこでシグルドの声が突如さえぎられた。


「こっちにいるんでしょ? 私が直接行けばいいじゃないの」

「ですが……セラフィナ様はギフトについて研究の最中ですから……」

「ギフト? なんでまた……あ、もしかしてギフトないから? 気にしてるなら言ってくれれば手伝ったのに」


 外が騒がしいな。しかもだんだんと近づいてきている。なんだ?


「セラフィナさん、外が騒がしいけど、大丈夫かな?」

「さあな、私にもわからん」


 シグルドと同じ感想を抱いていたことに嫌悪感けんおかんを覚えつつも、答える。その瞬間、勢いよくドアが開かれた。


「数日ぶりね! セラフィナ!」


 ドアが壊れそうな勢いで開く。そこにいたのはクラリスとオズだった。オズはヴァリシア王国の首都、アストレリアへ帰ったのではなかったのか。


 なんでここにいるんだ。


「何の用だ? オズはなぜここにいる?」


「私もいろいろ考えているのよ! セラフィナ、アンタの実力は悔しいけど認めるわ。初めて会ったギルドのこと。それからワイバーン」


 オズよりもギルドに認めてもらい、Dランクから脱したい。しかしそれを良いに来たのか。わざわざ?


「そうか。それで実力を認めたからどうなのだ?」

「あ、相変わらず言うじゃない。そうよ、認めたと伝えに来ただけじゃないわ。だからアンタのちからと私のちから。その差を確かめに来たのよ!」


 腕試しをしたいということか?


 オズは戦うことしか考えていないのだろうか。戦闘民族か。


「オズ・メルティ、あなたはセラフィナ様に教えを乞いたいと言っていたはずです。それなのに、挑戦とはどういうことですか? もっとも私はここに入る許可も出したつもりはないですが」


「そ、それは……セラフィナの実力を知るのも、学ぶための一環でしょ!? それにここまで通したなら、許可なんて関係ないじゃない!」


 クラリスが聞いていた話とは違うらしく、厳しい目でオズを睨みつけている。しかしオズも引くつもりはないらしい。二人の視線がぶつかり合い、空中で火花を散らすような気になる。


 そもそもオズを教えるとは言っていなかったような。そう言えばルミナスに戻ってくる途中もやたらと私に意見を求めていた。


 ……もしかして、そういうことだったのだろうか。


「無理やりとは言え結果的に許可なく入ったのはそうですね。ですが先ほども言いましたとおり、セラフィナ様は今は非常にお忙しいのです。実力を知るのも、教えを乞うのも無理です」

「そんなの本人に聞いてみないと分からないでしょ!?」

「……それは、そうですが……セラフィナ様はいかがでしょうか?」


 オズの言い分はわかった。たしかにクラリスの言うとおり、私はギフトの理解を深めるので忙しい……いや、待てよ。


 この状況はむしろ都合が良いかもしれない。


「オズ。お前、先ほど外でギフトについて《《少しかじっている》》、と言っていたな」


「え? そりゃそうよ。私も魔術師だもの。ギフトくらい研究するわ」


 やはりか。それなら話は別だ。ギフトの研究も手伝える。さらに二人きりだと妙に近づいてくるシグルドとの間にオズをおけば防波堤になる。


 完ぺきだ。小さくて可愛らしい花のようだ、やら冬に咲く一凛の花だの、浮ついた言葉に堪えるのにも限界だったのだ。


「良いだろう。少し付き合ってやろうではないか」

「え!? 本当に!?」

「……セラフィナ様、本当に良いのですか?」

「クラリス、たまには運動をした方が良いだろう。ずっと引きこもっていては身体によくないからな」

「……セラフィナ様がそのようなことをおっしゃる日が来るとは……」


 たしかに自分の言葉とは思えないくらい正反対なことを言ってることは分かってる。だからと言って口まで押えて絞り出すように言わなくても良いんじゃないか。


 それにここ最近は旅までしている。引きこもりも卒業だと思うんだけどな。


 そんなことを考えていると、オズは何が気になったのかシグルドの方へ近づいていく。そして眉をしかめながら見上げる。


 オズも嫌いな顔立ちだったのだろうか。一般的には整っていると言われそうな顔立ちだが、私の感性が正しいのか?


「アンタどこかで見たことあるのよね。どこだったかしら?」


「おや、僕のことを知らないのですか? 僕はベルモンド王国の魔法学院教授、シグルド・アークベインです。有名だと思ったんですがね」


「《《ベルモンド王国の魔法学院教授のシグルド?》》 うーん、《《そう》》だったかしら?」


「ええ、《《そう》》ですよ。それよりも僕からも聞きたいことがあります」


「魔法学院教授が? 私に? なによ?」


「最も優秀な魔術師の二つ名で知られるあなたが、《《なぜセラフィナさんに教えを乞う》》のですか?」


「それは……私の知らない領域に到達していると思ったからよ。自分の未熟さを認めることは大事でしょ?」


「……本当にそうですか? たとえば――そう。《《誰かから指名依頼を受けている》》とかね」


 シグルドの言葉にオズの目が鋭くなる。


「どういう意味よ?」


「そのままの意味ですよ」


「ふん、私は指名依頼なんて受けていないわ。私は私の意思でここにいるのよ。それより、私にそんな探りを入れるなんて、《《あなたこそ何者よ》》」


「おや、僕は魔法学院教授ですよ。先ほども言ったじゃないですか」


 どういうやり取りだ。二人とも核心を避けるような話をしていて余計に混乱する。もっと自分をさらけ出して話したらどうだ。


 オズがシグルドに疑いの目を向ける。


「そう、分かったわ。《《今はね》》」


 そう言うと今度は私のほうに向きなおる。そして口の端を吊り上げて続ける。


「さ、セラフィナ! 実力を教えてくれるんでしょ? いくわよ!」


 自信満々に歩き始めるのはいいが、訓練所の場所、知らないんじゃないか?


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