第32話
オズと騎士団長を帰してから数日。私は王国から借りたギフトの調査記録を読みながらも悩んでいた。
今更ながらクラリスに任せたことを激しく後悔していた。たしかに任せると言ったが王都に戻れないのは聞いていない。調査記録もほとんど確認し終えている。だからと言って王都に戻るのはリスクが高い。
ここは他国へ行くのが正解か。私はセシルを探し出し話を聞き出す。
「うーん、確かに今のセラフィナさん……というか私もですけど、確かに王都に行くのはリスクが高いですね」
「だから他国へ行きたいのだ。再び案内を頼めないか?」
「案内、ですか。たしかにできれば良いのですが……」
セシルが眉をひそめる。できれば良いというのが気になる。どういうことだ。
「ルミナスの位置からヴァリシア王国以外に行こうとする場合はルートが限られており、基本的にはヴァリシア王国内を通っていかないと他の国へたどり着けないんですよ」
「……なぜだ」
「簡単です。《《セラフィナさんの結界で、この街より先は認知されていなかった》》んですよ」
結界のせいでこの先の開拓ができていない、ということか。まさか面倒だからという理由で放置したのが、こんな形で跳ね返ってくるとは。
しかしあくまで開拓ができていないだけであって、存在はしている。つまり地図があろうがなかろうが関係ないのではないか。
「つまりルミナスより先が分からない、ということだろう。だが結界があろうがなかろうが、世界の果てではあるまい。いけないことはないのではないか?」
「たしかにそうですね。なので私も暇なときに周囲を探索したことがあったんですよ。でもこの辺りは山岳地帯となっていて山を越えるにはかなり覚悟がいります。加えて例え山を越えれたとしても、その先に人がいるかもわかりません。当然、他国に抜けれるかもわからないんです」
たしかにかなり行きづらいか。せっかく山を越えても大変なだけかもしれない。たとえ他国に通じていなくても人がいれば良いが、それすらも保証ができないわけだ。
これは悩みどころだな。今はまだ借りている調査記録を調べ切れていないが、すぐにそれも終わる。そうなったら少し大変でも山を登って超えてみるか。
しかしこんな状況になるのであれば王国以外の街に行って、転移魔法で飛べるようにしておくんだったな。
「なるほど、セシルの言い分はわかった。少し考えよう」
「その方がよいかと思います」
と、そんな話をしている時だった。セシルと私の前にルナが顔を出した。
「セラフィナ様、お客さんが来たみたいですよ……ってあれ? セシルも一緒なのね」
「あ、ルナさん。ちょっと相談を受けていまして」
「相談!? セラフィナ様!? 私には……!?」
他国へ行きたいという話をルナにしてなんになるのだ。力技でしか解決しようとしないではないか。
「大した用ではない。それよりもルナ、客が来たのではないのか?」
「気になりますが先に案内します。こっちです、セラフィナ様! あ、セシル。アンタはここで待ってなさいよ!? セラフィナ様の客ですからね!」
「わかってます」
そこまで釘を刺す必要はないんじゃないか。たしかに最近、ルナとあまり関わっていなかったのもあって、相談されているセシルに対抗心を燃やしているのか。
私はそんなことを考えつつルナについていくのだった。
☆☆☆
「この素晴らしい街で僕も研究をしたくてね」
ついて早々にルナを下げたのだが、間違いだったかもしれない。早くも後悔の念が押し寄せている。目の前の自信に満ちた整った顔立ちの男から、うんざりするような話を聞かされていた。
どうやらこの男はベルモンド王国なる国の魔法学院教授らしい。そこで何を教えているだとか、魔法理論がどうだとか。若くして魔法学院の教授になった自分のすばらしさだとか。
だいたい他国の魔法学院教授がなぜこんな辺境の地までやってくるんだ。ルミナスの噂はそこまで轟いているということか?
「と、言うわけなんだが、どうかな?」
……なぜ意見を求められているんだ。興味がなさすぎて、まったく聞いていなかった。
「聞いていなかった。悪いがもう一度言ってくれないか?」
「ふ、気にすることはない。僕に見とれていたんだろう。だがいけないな。僕はまだ誰かの者になるつもりはないんだよ。たとえ花のように可憐で小さく可愛らしい君でも、ね」
こいつ死にたいのか。浮ついたを言っているんじゃないぞ。普通の女の子なら喜んだかもしれないが、あいにく私は漢なのでな。そう言ったことを顔面偏差が高いヤツから言われると殴りたくなるんだ。
「死にたいのか?」
「え!? な、なんでそうなるんだい!? い、いいかい!? 僕はギフト研究の第一人者なんだよ! 君がギフトの研究をしている、と聞いてね。私もその研究を一緒にできないかと思ったんだ!」
「ギフトの研究、だと?」
「あ、ああ、そうさ! 君は各地でギフトについて調べているんだろう!? 僕もそのことは聞いている。だから、僕も君の研究の力になれるんじゃないか、と思ってやってきたのさ!」
たしかに各地でギフトについて調べていた。だが他国の魔法学院教授の耳に入るまでだっただろうか。それに私はDランクの冒険者、いわば最低ランク。加えて今の世界では研究にもギフトが第一に来るだろう。ギフトなしの認定を受けている私のもとへ魔法学院の教授が来るには違和感がある。
とはいえ、王国に出れない今の現状を考えると無下にはできまい。この男が本当に魔法学院の教授であれば、ギフトについて深く調べることもできるかもしれない。
目の前の教授の顔を見る。若くして教授になったのはわかるがいけ好かない顔だ。だが可能性が目の前にあるのであれば進む以外に道はあるまい。
「……良いだろう。私もギフトについては詳しく調べたいと思っていたところだ。協力してもらおうではないか」
私の言葉を聞いて、目の前の男は嬉しそうに笑い、手を差し出す。これを取れ、というのか。
「そうかい! 来たかいがあったよ! 僕はシグルド・アークベイン。シグと呼んでくれ」
馴れ馴れしすぎる。
「断る」
私は短くそう答えて手をはねのけたのだった。




