第31話:視点【オズ・メルティ】
オズ・メルティはルミナスへの旅路で起こったこと、そして初めてセラフィナと会ったときのことを思い返していた。
セラフィナは冒険者ランクがDで、ギフトも持たないと評価されている。しかし実施は底知れない実力を持っている。
一つは初めて会ったときに消された魔法。そしてもう一つはワイバーンとの戦いで見た彼女の魔力の奔流だった。特にワイバーンとの戦いの魔力はオズがどれだけ努力しても到達できない頂に達しているだろう。
魔力の強大さだけではない。魔力操作の緻密さ、正確さ、そして速さ。どれをとっても、それ以上は存在しえない、頂きに達しているように思えたのだ。
(セラフィナと比べちゃうと、私が最も優れた魔術師、だなんて……おこがましいわ)
オズの驚きはそれだけでは終わらなかった。ルミナスにいたとき、特に応接間に通された後にルシアンと対峙していたときにいたメイドたち。あのメイドたち一人一人が、オズを超える力を持っていたのだ。
彼女らはまるで「いつでも戦える」とアピールするかのように魔力を渦巻かせていた。もし戦ったとしても、一人を抑える事すらできなかっただろう。
(極めつけは――転移魔法ね。まさかまだ使える者が存在するなんて。本当に……セラフィナ・ルミエール。あの人は何者なのかしら)
オズは彼女にいつか追いつける日を夢見て、騎士団長と共に城へと入っていった。
☆☆☆
王城へ入るとすぐに国王への謁見の間へと通された。
「二人ともよく戻った。して、ルシアン公爵はどこにいるのだ?」
国王の開口一番にして、オズと騎士団長に緊張が走る。
(ま、城に帰ってきた時点でルシアンがいないのはバレてるよね。ここは作戦通り、に)
オズが騎士団長に目配せをすると騎士団長が口を開く。
「申し訳ございません、陛下。ルシアン公爵は……ルミナスへの帰路にてワイバーンに襲われ……亡くられました」
騎士団長の言葉に周囲の大臣たちがざわめき始める。
「ワイバーンが出るだと……? そんな危険な旅路か?」
「ルシアン公を守り切れんとは……騎士団は恥ずかしくないのか?」
「オズ・メルティ。Sランク冒険者とはいえ役に立たないか」
もともと平民上がりの多い騎士団と、貴族の世襲で継がれていく大臣たちは仲が悪かった。
それを象徴するように不満が漏れるが、それを無視して騎士団長が続ける。
「ですが、アーティファクトを持ち帰っております」
その言葉で不満声で埋め尽くされていた謁見の間が、シーンと静まり返った。
静寂を打ち破るかのように国王が、騎士団長の前にまで降りてきて、口を開く。
「それは本当か? アーティファクトを見せてみよ」
「はっ」
そう言うと騎士団長がアーティファクトを取りだし、国王へと差し出した。
「これはなんだ?」
「天命の聖杯と言います。そのゴブレットから湧き出る水を飲めばどんな病気や呪いも治癒できますが……一人分溜まるまではおよそ100年かかります」
「ほう……素晴らしい」
その説明に周囲の大臣たちもざわめきが増す。
(そうよね。100年かかるとはいえ、どんな病気や呪いも治せるなんて……国家級のアーティファクトなのは間違いないわ)
「……して、かのルミナスには他にも多くのアーティファクトが眠いっていることは確認したのか?」
「はい。ルミナスには多くの魔道具が眠っている――私はその宝物庫の一部を見せてもらいました」
「なるほど……なるほど……」
うむ、うむ、と国王は何度か頷いたかと思うと大臣たちに向けて語りかけた。
「我が国の一部であるルミナスがあまりにも多くの貴重なアーティファクトを持つ現状……諸君。この状況をどう見る?」
「ヴァリシア王国への謀反に等しい行為ですな」
「アーティファクトを隠すために街の存在まで隠蔽していたとは、許し難いことです」
大臣たちの声を聞いて国王が満足げに笑い、大きく頷く。
そしてオズと騎士団長の前を行ったり来たりしながら、演説するかのように話し始めた。
「やはりヴァリシア王国としては、ルミナスの持つアーティファクトを全て国として預かる必要がある。しかもルミナスはアーティファクトの存在を秘匿するため、街の存在を隠ぺいしていた。これは重罪である」
オズは誰にも気付かれないように、小さくため息をついた。
ここまで言われたら、国王の狙いは明白だった。
(ルシアンの言動から薄々思ってはいたけど……要するにアーティファクトが全部欲しいってことね)
国王は椅子の前に戻ると、この場にいる全員に向かって決意を表すかのように宣言した。
「これよりルミナスへ攻め込み――アーティファクトを徴収する!」
(やっぱりそうよね。ルミナスに攻め込む……か。でもそう簡単には上手く行くかしら? 一人一人が私と同等以上の存在であるルミナスへ攻め込むなんて無理よ)
オズは王国軍がルミナスへ攻めると言ったところでセラフィナが率いるルミナスが落とされる未来が想像できなかった。
むしろ逆に王国軍が壊滅的な被害を被るだろう。
騎士団長もそれを理解していたのか、国王に向かって進言した。
「僭越ながら進言をさせて下さい。ルミナスが持つ力は常軌を逸しています。我が国の全軍を投入しても勝てる見込みはありません。それどころか……国が壊滅する可能性さえある、と私は見ております」
「そこまで強いと言うのか?」
「はい。ルミナスにいる女性たちは……私たちの騎士団では歯が立たないでしょう。正面からの戦いでは勝ち目がないか、と」
「たとえ我が国の《《最強の騎士》》でもか?」
「……はい。厳しい戦いになるかと」
その言葉に、国王は眉をひそめ、しばらく考え込み――
「しかし何もせぬわけにはいくまい。たかが街一つのアーティファクトを徴収できないとわかれば我が国の権威が揺らぎかねん」
何人かの大臣たちも国王に賛同するかのように、騎士団長へ野次を飛ばしている。
(全く、口ばかりで何の解決策も示さないなんて。国も大変そうね)
と、その時、側近の一人が声をあげた。
「陛下、正面から厳しいのであれば、ここは工作を仕掛け内部分裂を誘ってみるのはいかがでしょうか?」
「内部分裂か。なるほど、周囲の者も厄介なのであれば何人かこちらにつければ、と言うことか」
その言葉と共に国王は不敵に笑い、有無を言わさぬ強い口調で言い放つ。
「至急、優秀なものたちをひそかに集め、ルミナスへ送り込め。騎士団長とオズ・メルティ。二人とも当然、協力をしてくれるな?」
「はっ」
周囲を囲んでいた大臣たちと騎士団長が一斉に返事をし、慌ただしく動き始める。
その中でオズは国王の前から動かずに、どうすべきなのかを悩んでいた。
(ここまでは想定したいなかったわ。国へ協力……つまり新しい依頼ってことよね。私は冒険者で騎士団長のように国に愛着があるわけじゃない)
オズがその場に立ち尽くしていることに気づいた騎士団長は、そっと彼女に声をかけた。
「オズ・メルティ。陛下はそうおっしゃったが、君自身の意思を大切にするといい」
「そう、ね。ありがとう」
そう言うと、考えながら謁見の間を後にした。
(セラフィナと王国からの依頼。私はどっちのために動くべきかしらね……)
オズはせわしなく働き始めた城内を歩きながら、自問自答を続けるのだった。
☆☆☆
一方、謁見の間では国王が不敵な笑みを浮かべていた。
「ルシアンめ、役には立たなかったが……良い口実は作ってくれたな」
そのつぶやきは、誰の耳にも届くことはなかった。




