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第29話

 ハーピーたちの群れを前にし、私たちの旅は大詰めを迎えていた。この群れの少し先にルミナスはある。もっともあくまで往路としての大詰めであって復路を考えれば中間地点と言ったところか。


 ハーピーの群れを相手にしていたオズとルナが群れを壊滅させる。そして騎士団が周囲の取りこぼしを処理していた。


 そんな取りこぼしの一匹が騎士団長に向かっていた。


「はぁ!」


 掛け声と共にハーピーを両断し私を見る。いちいち私の方を見る必要はないと思うんだけどな。


「セラフィナさん、どうでしょうか?」

「悪くないな」


 意見を聞かれた以上は答えてやる。悪くはない。そう、悪くはないのだ。さすが騎士団長まで上り詰めただけあってか、筋はかなりいい。


 そんな調子ですべての騎士たちの師として適正にあった魔法の使い方を教えていた。もちろんギフトについても全て教えてもらった。もっとも男に戻るギフトは誰も持っていなかったが。


 騎士団員や団長、そしてなぜかたまにオズも私に意見を求めてくるので答えたり、教えてやったりしているうちに気付いたことがある。


 ギフトについてだ。ギフトとは、私が良く知っている魔力の扱い、引き出し方によく似ているようだった。


 たとえば私がホムンクルスを作るときに、せっかくだからと何かしらの能力を与えて作っている。そのときは魔力の出し方をホムンクルスの身体に覚えさせるのだが、ギフトは、それにかなり似ていたのだ。


 つまりルナの時間操作がギフトとして扱われているのは、私が与えた能力がギフトに近すぎて誤認している可能性が高かったのだ。


「もう少しですね。何カ月ぶりでしょうか」


 いつの間にか近くにいたルナが懐かしむように声をかけてきた。私は「そうだな」と返事をしながら旅が始まる前とは違う、妙に整備された道を見る。


 そういえばこんなに道は整備されていたか?


 クラリスが冒険者たちをたきつけたからと言って、こうも変わるだろうか。そんなことを思いながらも道を進んでいく。そしてそこに見えたのはよく見知った私の住処——ではなかった。


 おかしい。見慣れたはずの家だったはずだ。それがまるで別の場所のように立派な街並みに変わっている。なにが起きたんだ。


 魔道具屋や、宿屋、武具屋など、多くの店が軒を連ね、人々が行きかい活気にあふれてる。


 ……どういうことだ。思わず足を止めて目をこするが、なにも変わらない。


 おかしい。旅立つ前はホムンクルスと私だけが暮らしていて、家まで道なんてなかった。まさか帰る場所を間違えたんだろうか。いや、そんなはずはない。そもそもこの大通りの先にある建物。あれは間違いなく私が住んでいた家だ。


「ここが、ルミナスか。かなり栄えているらしいね」

「……そうだな」


 騎士団長の言葉に人形のように相槌を打って同意する。しかし私の頭の中は混乱していた。旅立ってから何があったのか、だれか説明してくれ。


「ほう、辺境の街にしては悪くないな。で、あのバカでかい城のような建物。あそこがこのルミナスの権力者がいる場所だな」


 やや放心気味の私おいて、ルシアン公が馬車の中から顔を覗かせていた。ルナとオズはルシアン公のことで意気投合したようで、顔を出した瞬間に身にまとう空気をピリピリとさせ、睨みつけている。


 旅の途中でどうやってあのルシアン公を消すかを話し合っていたので、なだめるのが大変だった。


「よし、ガイアスよ。ワシをあの建物へ連れていけ。この街の長と話があるのだ」

「……わかりました。ルシアン様」

「その必要はありません」


 聞き覚えのある声に振り向く。そこにはいつもよりも少し着飾ったクラリスが立っていた。どうやら私たちが帰ってくるのを予期していたらしい。


「おかえりなさいませ、セラフィナ様。お見えしたと連絡があったのでお出迎えに上がりました」

「ああ、クラリス。よく出迎えてくれた」


 平静を装いつつ威厳をたもって答える。ここで混乱しているのがバレてしまえば私の積み上げてきた実績と信頼が崩れてしまう。これでも私はホムンクルスたちの生み親なのだ。期待は裏切れない。


「……セラフィナ様……? おい、貴様。このヴァリシア王国公爵であるワシではなく、冒険者を出迎えたと言ったか!?」

「ええ、そのようにお伝えしました。我らが主のセラフィナ様をお出迎えするのは当然のことでございます」

「き、貴様ぁ!! よくもぬけぬけと……! しかも、この国の主であるレオニアス国王陛下ではなく、この冒険者ごときを主だと……!?」


 ルシアン公は馬車から勢いよく降りる。そして騎士団長の近くまで行くと、荒げた声のまま続ける。


「この者は見せしめに処刑する! ガイアスよ! ワシの勅命はルミナスの視察。そしてその視察において王に仇を成す可能性のある者を処刑するのは私情に含まれまい! さあ、やるのだ! そしてこの首をこの街で一番の大通りに飾ってやれ!」

「ルシアン様……それは出来かねます」

「なぜだ!?」

「無理なのですよ……」

「ええい、これだからグズ……は……?」


 周囲の様子が見えなくなるまで激高げっこうしていたのか。ルシアン公が怒鳴り散らしている間に、クラリスがホムンクルスたちに指示を的確に飛ばし、騎士たちを取り囲んでいた。


 その様子は物々しく武器を突きつけていたり、魔法で炎や氷の刃を浮かせている者もいる。さすがに周囲の状況を理解したルシアン公も押し黙った。


「それで、ルシアン公。私を処刑するおつもりでしたか?」

「い、いや……」

「それは良かったです。ではセラフィナ様に御用とのことですので――城へ案内致しましょう。セラフィナ様、それでよろしいですか?」

「ああ、そうしてくれ」


 早いところこの状況を教えてほしいのだ。何も問題はない。それを聞いたクラリスは柔らかい笑みを浮かべ、優雅にお辞儀をした。


「では改めまして。ルミナスへようこそいらっしゃいました。ルシアン公、オズ・メルティ、そしてヴァイス王国、紅騎士団の皆様。この出会いが有意義なものであるよう、努力致しましょう」

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