第25話
王立図書館で調べ物をするはずが――なぜ城に連行されているんだ。しかも先ほどからルナが騒いでいる。
「セラフィナ様……このような場所、すぐに変えてもらうよう私から申し付けます!」
「バカを言うんじゃない」
「なぜですか!? このような狭い場所に偉大なるセラフィナ様を閉じ込めておくとは、許せません!」
「別に狭くはないだろう。セシルはどう思う?」
「えーっと、私は十分に広いかと思います」
「と、言うことだが、どうだルナ?」
さて王立図書館で調べも物をする予定だった私たちが話しているのはどこか。そう、牢屋――ではない。客間だった。
だからそもそも狭くはない。これが牢にでも入れられていたら狭いと言っても仕方ないところだが。私が絡むことでのルナの要求が日に日にエスカレートしている気がする。
今、こうして騒ぎ散らしているのも、一番の部屋を用意しろ、と言っているのだ。それは無理な話だろう。だいたい城の客間で満足できなかったら、もう城そのものを私に貸し出すくらいしないと無理じゃないか。
「ですが、セラフィナ様っ! 客間であれば、一番の部屋を用意する。それが覇王たるセラフィナ様をもてなす態度ですっ!」
……いつの間に覇王になったんだろうか。ルナは夢でも見てるのか?
「目を覚ませ、まったく。私はそんなものになっていないだろう」
「いえ、セラフィナ様はいずれなるのですっ! いえ……既に覇王になっていると言っても過言ではありませんっ!」
過言だよ。過言以外の何があるんだよ。だいたい自分を王と名乗る城の中で、私のことを覇王だのなんだの言わないでほしい。もしも外の騎士に聞こえでもしていたら、それこそ牢屋行きだろう。
と、ドアが突然ノックされ、騎士が顔を出した。
「みなさま、国王陛下の準備が整いました。こちらへお越しください」
……大丈夫か、これ。聞こえてないかな。騎士の顔が引きつっているように見えるが気のせいか?
実はこのまま牢屋に閉じ込められてしまうのではなかろうかと戦々恐々としながら、騎士についていく。しかし私の考えは杞憂で、案内されたのは謁見の間だった。
そこには国王と思われる初老の男が一段高い位置にある、荘厳な椅子に座っている。そしてその後ろには位が高そうな騎士が二人。さらに私たちと国王の道は騎士と文官らしき人たちが背筋を伸ばし立っていた。
ずいぶんと大掛かりなことになっている。ここまでしていったい私にどんな用事があるんだ。
私は騎士に案内され、国王の目前まで通された。
「あの二人……っ! これだから冒険者風情が」
「まったくだ! 礼儀がなっていない……!」
「だから私はこんなヤツらに頼るのは嫌だったのだ」
ヒソヒソと会話が聞こえてくる。その内容が私たちに対する誹謗中傷なのはわかるが、なにかやらかしているのだろうか。ただ国王の目前に通されただけなんだけど。
そういえば私が嫌々、国の王を任されていた時は確かみんな膝をついていたっけ。そんなことを考えながらセシルの方を見ると、見事に膝をついていた。そして私にとルナに膝をついて頭を下げろとばかりにジェスチャーをしている。
うーん、なるほど。俗世から離れすぎていて、作法なんてものは見事に忘れていた。さすがに王に謁見するというのにまずいと考えて膝をつこうとしたときだった。
「良い、静まれ。私が客人として迎えたのだ。多少の無礼は許そう。そちらの者も面をあげよ」
国王が告げると同人にざわめきが収まった。
でもこれは難問だな。今からでも膝をついた方が良いんだろうか。それともこのままで良いんだろうか。
「さて、お前たちにはいくつか聞きたいことがある……が、まずはギルドプレートを見せてもらおうか」
身分証としても有効だというし、私たちの状態でも見たいのかな。そんなことを思いつつ、検問でも見せたギルドプレートを回収しにきた騎士へと手渡す。
手渡された騎士は魔道具にギルドプレートを乗せると、王の前へと差し出した。
そういえば以前、セシルが言っていた気がする。ギルドプレートはギルドなどに置いてある専用の魔道具を使うと、プレートに記録された情報を読み出すことができるとか。
記録されている情報はどんな依頼をこなしたか、どんなことを成したか、というのもあるとか聞いた気がする。と言うことは、王は私たちがどんな依頼をこなしたのかが気になるってことか?
「ふむ、セラフィナ・ルミエール……本当にギフトなしのDランクではないか。これが魔物暴走を止め、始祖ヴァンパイアを退け、さらには《《我がヴァリシア王国の街であるはずのルミナスを勝手に自治している》》と……? にわかには信じられんな」
その言葉に視界の端でルナの眉がピクリと吊り上がったのが見えた。言わんとすることは分かる。
《《我がヴァリシア王国の街》》と言っていたが、この国の建国よりも前にルミナス―—つまり私の家はあったのだ。むしろ私の家を勝手にこの国の領土にされたといっても良い。
「言うわね、アンタ。セラフィナ様が作った街を勝手に国の領土にするなんて良い度胸ね」
ルナの言い分にこの度は王が顔を歪める番だった。しかし王がなにかを言う前に周囲の騎士や文官たちがルナをけん制する。
「貴様っ……! だまらんか」
「冒険者風情が……! Sランクだからと調子に乗ってるのか!?」
「静まらんか」
再び王が鎮めて、私たちを見る。
「ルナ・ハーパーといったか。お前の言うことは理に適っていないのだ。この国は由緒正しきヴァリシア王国。建国から387年経っておる。一介の冒険者が立ち上げた街では比にならない歴史があるのだ」
なるほど。王は一人の人が生きる時間では387年という歴史ある国より前に街を作ることができない、と言っているんだな。
言いたいことは分かる。でもこの世界には人族以外にもいろんな種族がいるんだよ。例えば私みたいな長命種であるエルフとか。とはいえ、エルフは私以外の生き残りは知らないし、王が他の長命種を見たことがないのは仕方ないかもしれない。
「ふん、だから――」
「ルナ、黙っていろ」
ルナには通じないだろうな、と予想していたので即座に小声で止めに入った。
「し、しかしセラフィナ様……アイツは事実を捻じ曲げて――」
「それでも、だ。私が長命種と知れれば面倒なこともあるかもしれん」
「……わ、わかりました。セラフィナ様の計画があるのですね」
また勝手に勘違いをしていないか?
私にあるのはエルフだと知れたら、色々と面倒かもしれないなーということくらいだ。ほら、いちおう文献にも載っているみたいだし、崇められても困るんだよね。これ以上、私を崇める存在はいらないんだよ。
「国の歴史については理解した。しかしそれが本題ではないだろう。いったい何の用で私たちを呼んだのだ」
周囲がざわめく。口調が少し荒かったかもしれない。でもいつもこういう話し方をしていると、咄嗟のときもこうなってしまう。癖でそうなってしまうのだ。許してほしい。
しかしこれでも王は許してくれるらしく、立ち上がって手を振るう。
「私が不問と言っているのだ。騒ぎ立てるでない」
王は静まるのを待ってから続ける。
「たしかに言うとおりだ。本題に入ろうではないか。セラフィナ、お前の統治しているという街――ルミナス。かの街は本当に存在し、そして本当に多数のアーティファクトがあるのかね?」
「ルミナスは存在する。そしてアーティファクトが多数存在するのも事実だ」
そもそもルミナスは街じゃない。家だ。あえて訂正はしないが、街だと思って行ったらがっかりすると思う。
「ふむ、そうか」
王が何かを考えるように顎に手を当てる。しかし、数秒としないうちに何かの結論に達したようで、すぐに口を開いた。
「その街をぜひ視察したいのだが……セラフィナ。案内してくれるかね?」
……案内?
案内なんているのだろうか。魔法はかかっているが、存在さえ知っていれば誰でもたどり着けるのだ。しかし地図には載っていない。だからその場所まで案内してほしい、と言うことか?
セシルは案内なしで辿りついていたんだけどな。そんなことを思いつつも私は、自分へのメリットについても頭を巡らせていた。
いわばこれは国への貸しになる。その貸しをうまく利用できればギフト探しも捗るのではないか。例えばそう、ギフトの調査記録を読ませてもらう、とか。
この国はある一定の年齢を超えればギフトの調査が行われる。つまりこの国に住んでいる人は基本的にはこのギフト調査という道を通るのだ。
そう考えると、かなり良い案な気がする。もし調査記録が見れれば、この国の人のギフト調査はほぼ終わったと言っても過言ではないのだ。
「案内するのは構わないが、ひとつ条件がある」
「条件、か。良いだろう。聞こうではないか」
「この国で行われているギフトの調査記録を見せて欲しい。ギフトを持つ者とその内容を知りたいんだ」
王の眉が一瞬だけ、ピクリと吊り上がった。
「ギフトの開示、か……それは国家の重要機密だ。簡単には許可できんが、なぜそれを望む?」
「ギフトの研究のため、と言うところだな」
「なるほど…………良いだろう。ただしすべてを許可することはできん」
うーん、全部は無理なのか。たしかにギフトは個々人が持つ大事な能力。それを案内程度で全部見せてくれ、というわけにはいかないか。
ギフトの内容によっては国家の中枢にかかわる仕事もしている可能性があるし。
「……良いだろう。一部でも構わない」
「よかろう。では交渉成立だ」
王が満足げに頷くと、すぐに周囲の者たちへと指示を出した。それを契機に、謁見の間から慌ただしく人が消えていく。ギフトの情報を準備する者、ルミナスへの視察の手配をする者。
さて、私の求める男に戻るためのギフトは調査記録の中に残っているかな……?
そんな期待を込めつつ、ギフトの情報を待つのだった。




