第24話
「長蛇の列の理由は素晴らしいものでしたね。ようやくセラフィナ様の偉大さが広まったようで私は嬉しいですっ!」
……検問から逃げるように出ていたのは私だけなのだろうか。ルナはむしろ私が追われる身になってることを喜んでいないか?
「セラフィナさんの偉大さはルナさんにしかわからないので置いておきますが、魔物暴走や始祖ヴァンパイア――エルミナさんの話も少しされていましたね」
「……まったくだ。私がどれだけ焦ったか」
「えっ! セラフィナ様が焦っていたのですか!?!?」
小声でつぶやいたつもりが、どうやら聞かれていたらしい。ルナは私のことを神に等しい全知全能の存在と考えている。
もし私が人並みに緊張したり、実は仰々しい喋り方が嫌いだとか言うのを知ったら、今まで私が積み重ねてきた信頼が揺らいでしまう。
「こ、言葉の綾だ。クラリスやエルミナの計画が順調だと悟ったという意味だ」
「さ、さすがセラフィナ様ですっ!」
私のどうしようもない言い訳を聞いたルナが目を輝かせている。
……見ていて不安になるな。変な人に騙されたりしないだろうか。『焦ってた』ってどういう意味か知ってるかな。
私としてはうまく躱せてよかったけど。適当に付け加えたクラリスとエルミナの計画もよくわかっていないし。
「ここまで噂になる程であれば、私の功績がしっかりと広まればSランク入りも近い、か?」
「そうですね……マッチポンプとはいえ始祖ヴァンパイアを撃退した記録。そして魔物暴走を抑えた立役者。加えてセラフィナさんの魔法……たしかにSランクは近いかもしれません」
「すみませーーーん!!!」
「ならばSランクを目指すのも良いな。この道中で肩書の大きさは嫌と言うほどわかったからな……」
「はぁ……だから言ったじゃないですか。あの街でSランク認定を受けてからにしましょうって」
「……うるさいな」
「すみませーーーん!!!」
「まあでも時間はかかっていたでしょうからね。ギフトなしのSランク入りというのはそれほど偉業で前代未聞のことですから」
ギフトというのはいわば、現代における力の根幹にまでなっている。つまりギフトがない人が強大な魔力を持ち、Sランクになるなど考えられないのだ。
かくいう私もギフトなしということで、色々と面倒な目にあっている。しかしSランクとなれば話は変わる。
セシルの話によれば、Sランクの冒険者が拠点としている国を離れようとすると各国が大金を払ってでも「是非うちの国へ」と呼びかけるほどらしい。
つまるところその地位と名声は国の騎士団長を超える地位に相当するのだ。そう考えると最初の街でルナがSランクになったのが、いかに破格であったのかがよく分かる。それほどまでルナの能力が貴重と判断したんだろう。
ちなみにセシルによればSランクといってもピンキリらしいが、詳しいところまでは聞いていない。
「す、すみません!!!」
……先ほどから聞こえてた声が真後ろから聞こえるので振り返る。そこにいたのは先ほど、検問をしていた騎士だった。
肩で息をして、ぜぇぜぇと呼吸が荒い。大丈夫か。それにしてもこんなに焦って、私が何かしただろうか。
心当たりは……ある。ルミナスのことだ。
「なんの用だ?」
「はぁはぁ、すみません……疲れていたせいか、お名前を控えるのを忘れてしまいまして」
名前を控え忘れるって相当疲れているんじゃないか。いったいどれだけの間、あそこで検問をやっていたんだか。この全力疾走でさらに疲れてそうだけど。
「ギルドプレートで良いか?」
「い、いえ。お名前だけ教えていただければ結構ですので」
身分証としてギルドプレートを出せと言っておいて名前を控え忘れた挙句、名前は口頭で良いのか。
この国、大丈夫か?
まあ騎士が言うのであれば良いんだろう。
「セシルです」
「ルナよ。そしてこの偉大なる――ふが」
言いかけたところでルナの口を塞いだ。余計なことを言うんじゃない。ただでさえルミナスで大事になっているというのに、その元凶の一端が私だと知れたら、ギフト探しどころではなくなる可能性が高いじゃないか。
「セラフィナだ」
「ありがとうございます。セシルさんにルナさん、セラフィナさん……セラフィナさん……? どこかで聞いたような……?」
既に名前だけで聞き覚えがあるのか。いや、これでよく検問を通したな。本当にこの国は大丈夫だろうか。
無事に入国できたので、このいい加減さがプラスに働いているが。
とはいえ疑われたままというのはよくない。適当に煙に巻いておこう。
「よくある名前だろう」
「うーん、そう言われると……確かにそうですね。それに思い出せないということは大したことではないんでしょう」
騎士の言葉にルナが大きく体を動かす。あんまり動くんじゃない。私とルナで身長差があるから、動かれると手が外れてしまう。これでも限界まで背伸びしているんだぞっ!
「あ、引き留めてしまい、すみませんでした。ありがとうございました。私はこれで」
騎士が走って去っていったので、ルナの口から手を離した。普段、こんなに背伸びをしないから足が少し痛い。
「セ、セラフィナ様! なぜ止めたのですかっ! あの男、セラフィナ様のことを大したことないと……!」
「あの男はそういう意味で言ったわけじゃない」
「じゃあどういう意味ですかっ!?」
頭が痛くなってきた。ルナは本当に大丈夫だろうか。一般常識というやつをどうやってたたき込めばいいのか、私の悩みの種になりそうだよ。
「ともかく気にするんじゃない。それとも私の言葉が聞けないのか?」
「い、いえ……そういうわけでは……」
「なら気にするんじゃない」
「話しはすみました?」
セシルが私は関係ありません、とでも言うように声をかけてくる。さっきの話を聞いていただろ。その証拠に少し笑ってる。許せん。
小声でセシルに話しかける。
「おい、分かっているんだろう。ルナに常識を叩き込むために協力しろ」
「な、なんで私もなんですか?」
「私を嗤った罰だ」
「な、そんなこと思ってませんからねっ!? 私はルナさんに手を焼いているセラフィナさんも可愛いなーとか、必死で背伸びしているセラフィナさんも可愛いなーとか思っていただけですから」
ぜんぜん良くないわっ!
なんでそれが許されると思うんだ!
「十分すぎる! 良いから手伝え」
「そんな……難しすぎますよ……」
「セシル、なにを話してんのよ。あんたセラフィナ様に近付きすぎじゃない?」
いつの間にかセシルとかなり距離が縮まってしまっていた。ただでさえルナは私と誰かが近づくと不機嫌な顔になるのに。
現にルナはかなり不満気な表情をしている。この程度で済んでいるのは、ルナはなんだかんだ言っても、セシルを認めているところがあるからだろう。
「いや、ルナすまないな。そろそろ日が傾いてきたこともあって宿をどうしようか、と思って聞いたのだよ」
「そ、そうですねっ! もう夕方ですし、宿をとりましょう。お勧めの宿があるんですよ」
「ふーん、そうなのね。たしかに王都まで来て野宿だなんて嫌だわ。それにセラフィナ様に野宿をさせるなんて……私自身が許せないわ」
野宿って旅をしている間はずっとしていたんだけどな。王都になると、途端にダメになるのか?
旅の最中の野宿は、私の空間魔法で野宿っぽくはなかったが……なんなら王都の宿よりも快適な自信がある。私としてはそっちでも十分なのだが、ルナにはルナのルールがあるんだろう。
ま、納得してくれたことだし深く突っ込まないでおこう。そうして私たちはセシルの案内で宿へと向かったのだった。
☆☆☆
翌日。
冒険者ギルドへと着いたかと思うと、待ち構えられていた騎士たちによって私たち三人はあっという間に取り囲まれた。
そして――
「セラフィナ・ルミエールだな。ヴァリシア城に来てもらうぞ」
有無を言わさぬ形で――私たちはヴァリシア城へと連行されることとなったのだ。




