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第23話

 王都アストレリア。それはヴァリシア王国の中心地に相応しい景観だった。


 と、言いたいところではあるが、そもそも私はヴァリシア王国がどんな国なのかも知らなければ、街の様子も見れていない。辛うじて城門の奥が少し見えるが、粒ほどしか見えないので、これで景観が美しいなんて言おうものなら大バッシングを受けるだろう。


 ともかく私たちはアストレリアへと尋ねてきたのだが、まだ中には入れていない。理由は簡単だ。城門で大規模な検問が行われているのだ。


「セラフィナ様をこれだけ待たせるとは……セラフィナ様、愚民どもを吹き飛ばしてやりましょう!」

「ルナ、やめろ」


 相変わらずルナの思考は短絡的すぎる。私たちが暴れたら、暴れた分だけ街に入るのが遅くなるだろう。最悪のケースは、そもそも入ることすらできなくなる。


「でも……見てくださいよっ!? 朝から並んでるのにもうお昼ですよ!?」

「でも、ではない。考えてもみろ、ここで私たちが暴れたらどうなる?」

「え、そりゃあこの街にいる人々がセラフィナ様の圧倒的な神々しさを目の当たりにし、ひれ伏します。それから国王がセラフィナ様の前へ現れて城を譲ってくれると思います」


 ルナの言葉に私もセシルも口を開ける。この旅の中でいったいルナは何を学んできたんだ。たしかにルナはホムンクルスで私のことを崇拝すうはいしているのはわかる。


 でも、でもだ。いい加減、外の世界というものがどういうところか分かってきたんじゃないのか?


 私はため息をつきながら答える。


「そんなことにはならん。黙って待ってろ」

「だからといってセラフィナ様をこんな街の外で、こんなに待たせるなんて……はぁ、こんなやつらすぐにほうむれるのに」


 だからその解決がいけないんだというのに。私は説明する気もなくす。けれどもセシルはルナの言い分にも思うところがあったらしい。


「うーん、まあ確かに……少し待たされすぎな気はしますね。なにかあったんでしょうか」

「普段はここまで酷くないのか?」

「そうですね。王都には私も何度か来ていますが、ここまでまたさせることはないですね。後ろの人なんて、今日中に入れるか怪しいですし」


 そう言って後ろを振り返ったので私もつられて振り返る。すると、確かに。私たちが並び始めていたときよりも、かなり列が伸びている。


「でも、もう少しですから。ルナさん、頑張りましょう?」

「はぁ、分かったわよ」


 口をとがらせるルナを見ながら、前の方の順番を見る。セシルの言うとおり、前からでも数えられるくらいにはなってきている。それでもまだ、順番が回ってくるにはそこそこ時間がかかるだろう。


 ルナではないが、確かに暇なのは間違いない。どうしたものかな、と思い周囲を見渡す。


 ……この時間を有効に使うならセシルに魔法を教えれば良いんじゃないか?


 街の周辺では魔物も見かけなしい、なによりこれだけ人がいるのだから、そもそも魔物が近づいてきても兵士たちが倒すだろう。もし魔法の練習をしてセシルの魔力が切れても問題ない。


「いまさらではあるが……少し魔法の練習でもしながら待たないか?」

「え、良いんですか!? いつも夜だったので……」

「それは魔力を使い果たしてしまうと寝てしまうからだ。今は人も多い、もし魔力が切れたとしても安全だろう」

「わ、わかりました! じゃあやりましょうっ!」


 返事を聞いて私はセシルに小さな水球を作らせて上下、左右と動かさせた。旅の途中なんかでは、風や火を起こさせたりするのだが、人が多い状況では不向きだ。


 しかしこういった細かな魔力操作も、魔法を扱う上ではかなり重要になる。現にセシルは水球を動かそうとしているが、上手くいかない。水球を動かそうとしても、形状をたもてなくなり、水になって落ちてしまうのだ。


「……難しいですね、これ」

「当然だ。魔力のコントロールでもかなり難しい部類になる。しかも水を常に維持しなければならないから、それなりに魔力も使う。毎日欠かさずやれば、魔力のコントロールもかなり上達するだろう」

「……わかりました」


 頷いて再び水球へ集中する。セシルの魔力はまだ少ない。この魔力コントロールは少し早い気もするが、今できるのがこれしかないから仕方がなかった。


 魔力切れについては、今は私が面倒をみてやればいいか。そんなことを思いつつ練習を見守っていると、気づけば列が進んでいた。


「あー! やっとじゃない、本当に待たせすぎよっ!!」

「セシル、順番だ」

「は、はい」


 セシルは肩で息をしながら返事をしている。やっぱりかなり厳しかったか。私はセシルの手を取りながら検問へと入っていく。


 中に入ると、検問を担当している騎士が私たちを待っていた。ずっと同じことをしているからか、騎士もかなり疲れているように見えた。


「なにか身分を表すものはあるか?」


 身分を表すもの、か。500年も引きこもり山の奥でひっそりと生活していた私が持っているわけない。


 そしてその500年の間に作られたルナも当然、持っていない。


 いきなり困ったことになったな。どうしたものか、と私が悩んでいるとセシルが小さく私とセシルに伝えてきた。


「冒険者であればギルドプレートを出せば大丈夫ですよ」


 ギルドプレートか。てっきり冒険者ギルドでだけ効力があるのかと思っていたが、身分証にもなるのか。


 でもギルドプレートには名前とランクしか書かれていないが大丈夫なのか。とはいえ出さないわけにもいかないので、差し出すと騎士が受け取ってランクを確認していく。


「Dランク、Dランク……ん? Sランク!? なぜDランクと……いや、パーティーの詮索は無粋か……で、王都へ来た目的は?」

「王立図書館で調べ物をしに、ですね」

「ふむ、なるほど。たしかにあの図書館は世界を探しても類をみない蔵書数だからな」


 そのままセシルと騎士がいくつかやり取りを繰り返す。騎士の質問がおおよそ終わったのだろう、というところで今度はセシルが質問を投げかけた。


「ところで、今日はずいぶん大掛かりに検問しているようですが、何かあったんですか?」

「実は、この国で誰も存在を知らなかったルミナスという街が、最近になって発見されたらしい。その街の地下にはアーティファクトが大量に眠っているダンジョン――そして、その街にもアーティファクトが大量に眠っている、という噂なのだ」


 それはもしかしてクラリスが原因じゃないのか?


 いや、もしかしなくとも「ルミナス」という単語が出てきたので間違いない。私は振り返り長蛇の列を眺める。クラリスが原因か。たぶん私の顔はいま引きつっている。


「その真意を確かめるべく、《《王直々の命令》》でこうして手がかりを集めるために聞き込みを行っているのだ。だが、なかなか手がかりがつかめなくてな」

「そうでしたか」

「ああ、そうだ。さて、質問は以上かな?」

「はい」

「では通って良い。ようこそ、アストレリアへ」


 騎士のその言葉を聞いて、逃げるように私たちは街へ入っていくのだった。


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