第22話
「セラフィナさん、大丈夫ですか?」
「ダメだ」
「はぁ……落ち込んでいるセラフィナさんも可愛いですね」
「うるさい、可愛いというなっ! 慰めるのか、私をもっと落ち込ませたいのかどっちかにしろっ! できれば慰めろ!」
部屋にはセシルと二人きりである。ギフト探しが順調でないことを切り出してきたので、ベッドの上から顔も見ずに弱音をあげる。
「しょうがないですね、セラフィナさんは。良いですか? 女の子が男になるギフト探しが大変なのはわかっていたことじゃないですか。なにをいまさら弱気になっているんですか?」
「……うるさい」
「ああ、もう! そんなすねた姿も可愛いですねっ!」
「うるさい! やめろ! 離れろ!」
すぐに街を後にし、既に三つほどの村や町を回っていた。クラリスは冒険者にルミナスへ行くようにたきつけていたが、私たちが行く理由もない。
そもそもルミナスの地下迷宮にあるアーティファクトは私が作ったものだし。自分が作った迷宮に潜って自分が作ったアーティファクトを取りに行くって、どれだけ寂しい人だよ。
と、そう言った事情もあり、変わらずギフト探しの旅を続けていたのだが――私は既に後悔をしていた。
そう、何を隠そう、私のギルドランクはいまだにDなのである。始祖ヴァンパイアを撃退した功績や魔物暴走を止めた功績も、誰一人として信じないのだ。
なんなら既にSランクに昇格しているルナが始祖ヴァンパイアの撃退や魔物暴走を食い止めたのだ、とすら言われる始末。私はたまたまその場にいた腰巾着扱いである。
さらに悪いことに、私はギフトなし。これがまたよくない。ギフトがないことで色眼鏡にかけられ、ギルドプレートを見せた瞬間、見下されるのだ。
そんな人がCランクに上がろうとして上がれるか?
答えは否。つまり私のギフト探しは非常に、非常に、非常に難航していたのである。
「ところでセラフィナさん。次の街にはそろそろ行くんでしょうか?」
純粋な力では一方的に負けてしまうセシルをなんとか引きはがすと、そんなことを聞いてきた。
「なにを急に」
「急にということはないでしょう? そりゃあ私だってセラフィナさんの為にギフトを探したいって思いはあるんですよ。目的が男になりたいっていうのはちょっとどうかと思いますけど……」
これだ。私は言葉を飲みこむ。街や村を回る間の一ヶ月でセシルにはなぜ私がギフトを探しているのかということを話してきた。
しかし私がもともと男であったことだけは頑なに受け入れないのだ。なにやら「こんなに可愛いのに男なわけがない」だとか。
そのたびに否定し続けてきたのに一向に信じる気配が見えなかった。結果、私は諦めることにして反論を辞めたのだ。
「……ふん。なにを言われてもギフト探しはやめんぞ」
「別にやめろなんて言ってないですよ。でも移動ですか……それなら行き先を考えないといけないですね」
セシルはベッドに腰を下ろし、丁寧に地図を広げる。広げられた地図をよく見るため、上半身だけを持ち上げて地図を覗きこんだ。
「次はどこになるんだ?」
「そうですねぇ……フィンセストは行きましたし、エルドリッジも行きましたね。となると、あとは王都ですかね」
「王都? 王都なんてあったのか?」
むしろ私たちが回っていた街や村は国に所属していたのか。
「セラフィナさん知らないんですか?」
「知っていたらいたら、セシルに次に行く街や村を決めてもらっていないだろう」
「うーん、確かにそうですね」
「わかれば良い」
「威張ってるところも可愛いですねぇ」
「可愛いというなっ!」
「あ、もう、パンツ見えちゃいますよ? 無防備すぎです。それも可愛いですけど」
この旅で何度も見ただらしない笑みを浮かべるセシル。もうこいつはダメかもしれない。
「ふん、私のアイデンティティは男だ。パンツなど見られたところで気にするものか」
「その強がりも本当に可愛いですねぇ」
強がっているのであれば少しはスカートの裾を戻したりするだろう。みろ、私はそういう女らしいことはしない。女々しさなど皆無だ。これぞ漢である。
「おまえに私の漢気は通用しないのはわかっている。良いからその王都とやらの話を聞かせろ」
「男気ですか……? ……どちらかというと痴女のような……」
なんでも女に結び付けるんじゃない。セシルを睨みつけると、言いすぎたとでも思ったのか慌てて続けた。
「ええと、今いる国はヴァリシア王国という国なんです。そしてヴァリシア王国の王都アストレリアという街が私たちの次の行き先になります」
「なるほどな。それにしても王都、というからには人がたくさんいるんだろうな?」
「もちろんいますよ。それに優秀な人も……もしかしたら王都なら女の子が男になるギフトも見つかるかもしれないですね」
優秀な人……優秀な人?
その物言いに引っかかる。
「なぜ最初からアストレリアへ行かなかったのだ? 普通は一番可能性が高いところから行くべきじゃないのか?」
「えーっと、それはそうではあるんですが……セラフィナさんはその道中にある街や村は全部、無視しても良かったんですか?」
……よくはない。王都であるアストレリアは人が多く可能性は高いだろうが、確実ではない。王都までの街や村を無視しても良いということにはならないのは確かだ。
「たしかにそうだな。すまなかった」
「気にしないでください。私は魔法を教えてもらえてますし……なによりセラフィナさんが可愛いのがもう」
セシルが体をくねらせる。やはりこいつはダメだ。そんなときだった。
「セラフィナ様、セシル、ただいま戻りました……セラフィナ様!? し、し、し下着が見えていますっ!!!!」
買い出しに行っていたルナが戻ってきたのだ。ルナは私がスカートを履いただけでも、いつも以上に丁寧に接して来るというのに、そのスカートに加えて足をパタパタとしてパンツが見えそうになっていたら卒倒しかねない。
現にせっかく買ってきた食材度は全て手から滑り落ちている。
「も、ももももももしかして……セラフィナ様……! ついに、ついに私と共にあることを決意し……私を誘おうとしているのですかっ!?!?」
鼻息を荒くしながらルナが近づくので私は急いでベッドから飛び降りた。
「違う! セシルと次の行き先について話していたのだ。その時たまたまめくれ上がっただけ。わかるか?」
「……そ、そうですか……残念です……」
すごく残念そうにしているが、罪悪感は一切覚えない。
なにしろ私は道中に一度、ルナに襲われかけたのだ。そのときは魔法で引きはがしたが、もし寝込みを襲われていたかと思うと……考えるのはやめよう。
「それよりもルナ。そろそろこの街も立つぞ。次は王都――アストレリアだ」
そう宣言して私たちはアストレリアへ向かう準備を進めるのだった。




