種明かし③
いや、大丈夫だよ。取り入る気なんてないし、取り込まれたりもしないから。
ただ、たとえ成人だろうと、私の感覚からすれば、まだ少年。うちの長男、ギーブ君より若いよね?
その上、なんともいえないやさしい笑顔で、こんなこと言われたらさ。
「キララ殿。妹と仲良くしてくれてありがとう。気まぐれな妖精と付き合うのは何かと大変だろうが、これからもよろしく頼みます」
「光栄です、シイル殿下。第一王女殿下にお気にかけていただけることは、私に澄んだよろこびを与えてくれます」
だいたい見当はついてたけど、思わぬところで答え合わせをすることになったよ。言われてみれば、ってくらいには似てるし、私の知恵袋スカレは、初見で確信してた模様。
かの妖精姫の名は、ユーニーク・イム・ケセラサ。立場だけでいえば、こちらから近付きたい相手じゃないけど。
「ユーニーと呼んでやってください。その方が彼女もよろこぶ」
「はい。光栄です」
ユーニーだからね。同情とかじゃないよ? 彼女の中では時系列どおりに時が流れてないってだけ。自分だけの広いひろい世界を持っていて、絵や詩の才能にあふれた、とても素敵な女の子。
まわりの反応は簡単に想像がつく。実際、学院でも、いるけどいないって扱いだもん。でも、彼はその存在を自ら口にして、私にあいさつしてきた。
なんかちょっと、陰ながら応援したくなったわけ。どうせケセラサ王国内全域に掛けるんだから、殿下指定の場所から優先的に《回復》してもいいよ?
でも、相手が求めたのは、そんなレベルのものじゃなかった。
「どうぞこちらへ」
奥の扉を開いて、シイル殿下自ら案内に立つ。護衛すらも扉の前に残していく徹底ぶり。王太子なのに! 第一王女の護衛に、なにくわぬ顔してまざってるのとはわけが違うんだよ?
まあ、それだけ自分の腕と、ワルサさんを信用しているんだろうけど、さすがに不用心じゃないかと、口を出させていただきます。ええ、老婆心で。
「さまざま理由はおありになるとは思いますが、シイル殿下がお一人で行動されるのは、私が不安に感じますわ」
「まるで母に心配されているようだ。そのお気持ち、大変ありがたく」
足は止めずに会釈プラス流し目。おぅ、ワルサさんという最愛・最強・最高峰のシールドがなかったら、いろいろ危なかったかもしれん。
微妙に動揺したまま、階段を下りていく。ぐるぐるぐる。螺旋状にどこまでも。
窓なんかないから、本来は真っ暗なはずだけど、先んじてシイル殿下が口にした《ライト》っていう魔法! 頭上に浮いてる光球は、ハンドボール大。三人の人間が危なげなく行動するのに十分な明るさがある。
それにしても、学長室からの扉も、階段の始まる部屋もなんかふつうだった。もっとこう、秘密めいたものがあってもいいと思わない? 置物をガコッと動かすと、本棚が音もなく動いて、じつはそれが扉だったとか。何番目かの燭台に火を灯すと、床石がスライドするとか。
ちょっとぐるぐるしすぎて、どれくらい潜ったのかわからない。シイル殿下が何度もふり返って、気遣ってくれたけど、足の方は平気だよ? 背後はワルサさんが守ってくれてるから、超安心だしね。
アーチ状の地下道に出る。大人の象がすっぽりハマるくらいの幅と天井高だから、まったく圧迫感はない。ほら、私は特にちっこいし。
壁にも床にも天井にも、まったく継ぎ目がないなんて、なにげにすごいよね。学院や城も同様で、しかもそっちでは、気付くとレリーフが増えてたりする。バタくさい鳥獣戯画とでもいえばいいのかな?
岩山を縦横無尽にくり貫くって、どうやったらそんなことができるのか。当然、すっごい《土》魔法を使ったに違いない、そう思ってた時期もありました。手作業って答えの方が、びっくりだよ!
「もうすぐです」
田舎の地元民みたいなセリフをくり返す王太子殿下。うん。卒業旅行中、三十分くらいだよって言われて、一時間半、山道を歩いた思い出が。いや、楽しかったけどね!
ここにいるのは王子様と、上級貴族と、その夫人。なのに誰一人、息を乱さず、足がつったとか文句も言わない、この異常っぷり。そう、これがケセラサ仕様!
途中には階段なんかもあって、何度も上がったり下りたり、幾つも角を曲がる。きっと、わざとややこしく進んでるんだ。私、方向音痴だけど、いまはこの記憶力があるからね。あの、ちょっと間違えてできちゃったみたいな窪みはさっきも見た。
唐突に、大空洞に出る。シイル殿下が、次々に光球を五つほど打ち上げてくれたけど、どこまで上があるのか、どこまで奥行きがあるのかわからない。




