第三章 / 商談①
早めに出発したのにはわけがある。道々、各領主たちとじっくり話がしたかったからだ。
記念すべき一組目は、お久しぶりのキライヤス男爵夫人と、その夫。
ワルサさんの示唆をうけ、スカレに尋ねたところ、キライヤス男爵夫人は色仕掛けで、方々の男どもから金を借りまくっているとのこと。
ペコトス街長夫妻主催のパーティーでのことを話したら、スカレはあきれかえっていた。
「まだあきらめていないのですか、あの方は。昔から、なにかと気を引くような言動をされていましたが、旦那様は、つゆほども興味を示されませんでした。むしろ、家臣たちに注意を呼びかけるほどで。それでも情のある方です。わけを話し、真摯に頭をさげれば無下にされることもないでしょうに」
さすが、うちの旦那様は懐が深いわぁ。でも、だからこそ相手も思い切れないんじゃない?
あの時の、あの女の態度を思い出したらムカムカしてきて、それと同時に、急に不安感におそわれる。スカレの手をがっしと掴んでしまった。
「もしも、やさしくされるにしても、金銭を融通するだけですわよね?」
「もちろんですとも」
しっかりと握り返してくれる働き者の手。ありがたや。今度、ハンドクリームをプレゼントするね。
「旦那様は何事にも一途な方ですよ。奥様との仲睦まじいご様子に、使用人一同、安堵しております」
おうっ、不意打ち。頬が熱くなるわ。そんなに人前では、べたべたしてたつもりはないんだけど。
そ、そう。キライヤス男爵夫人のことだった。なぜ、金策に奔走しているのか?
「スカレのことだから、心当たりはあるのでしょう?」
「キライヤス男爵家に勤める者たちの、噂話を集めただけですが。それでよろしければ、お話できます」
「十分よ」
守秘義務もなにも、それは当人たちの胸三寸。きっと給料けちったり、無意味に苛めるとこういうことになるんだね。私も気をつけなきゃ。
聞き耳頭巾ならぬ、スカレの情報網によれば、キライヤス家は夫婦して派手好きで、それでも数年前まで、領内の収支は合っていたようだ。
しかし、キライヤス男爵がギャンブルにはまったことで、もともとよくなかった夫婦仲が完全に破綻。
妾宅に逃げ込んだままの夫に代わり、キライヤス男爵夫人が領政をみるも、家令たちの反発にあい、穀物の取れ高もわるく、もう、にっちもさっちもいかない状態らしい。
うっわぁ、重っ! だから、あんなしょっぼい企みにのったのか。
そのために橇や御者を手配して、化粧して着飾って、それでいったいいくらもらったのか、すっごい気になるんですけど。心情的にもノリノリだったんだろうな。
私だって、そんな状況で、なんも知らん顔でアハハウフフやってる小娘がいたら、ワインの一杯もぶっかけたくなるわ。いや、だからってタダで許すわけじゃないけどね。




