商談②
ミスリル鉱山を迂回するかたちで、街道は元あった場所から東に数キロずれている。
領境には別段、柵があったり門があったりするわけじゃない。
「じゃあ、なにを目印にすればいいの?」
「しいて言うなら、においかな」
旦那様、おおまじめだよ。思わずまわりを見回すと、騎士たちも皆うなずいている。
「尻のすわりが悪いっていうか」
「正直、よその領地は居心地よくないですね」
ほへぇ! 感心してるうちに、迎えの集団へと近づく。
先頭に立っているのは教父様。はじめて会う方だけど、裾の長い白い衣装と、ペンダントの意匠でわかる。キライヤス男爵領にも当然、教会支部があって、そこのトップだね。
教父様は羊耳の人って決まりでもあるのかな? まあ、これから何人もの教父様に会うことになるからわかるよね。
「ようこそおいでくださいました。ギュベニュー辺境伯様並びに、辺境伯夫人」
「教父様みずから出迎えていただけるとは光栄です」
彼らの先導にしたがって、教会へと向かう。
もうね、教会を味方につけた時点で、今回のお話合いは成功したも同然よ。
教父様には、こちらの馬車に乗っていただいて、最終の打合せ。すでに決まっていることを確認されただけだけど、しつこいなんて思わない。前世では考えられないくらい、申し送りがきちんとなされていて、話に齟齬がないからストレスを感じない。いいわぁ。理想の取引先、第一位だよ。
当初から、教会の主張は変わらない。
「まれに起こるから奇跡なのです。そう頻繁では、人心が落ち着きませんので」
ゆるやかでいて、じつは厳しい言い回し。さすがは教父様。
魔導の進んでるケセラサ王国では、環境を汚染することも厳しく規制しはじめている。私の魔法が認知されるにつれて、その流れがゆるやかになってしまうことを懸念してるんだ。
そんなわけで〈極み〉は使いどころを選んで、回数を制限することに。
通常は月に一回。すごく無理をしてるって演技をするなら、十日に一回ってあたりで手を打った。それでも多いくらいだって。教会だけじゃなく、私のまわりの人たちも、控えめにすることを勧めてくる。
まあ、初回ですごい心配かけちゃったからね。でも、ほんとに体は大丈夫なんだよ? いまの私なら、あまった力で自分を回復して、連日行っても問題ない。魔力袋も広げたいし。
ただ、あんまり簡単にやって見せると価値が下がるし、それが進むと、逆に身を守りづらくなる。発言権もなくなって、思うとおりに事が運べなくなるって言われると、それもそうだなと。なにごともバランスが大事ってことだね。
教会に着いた時点で、キライヤス男爵と夫人が、別々の控室で待たされていた。
私への謝罪? 当然なかったよ。
キライヤス男爵夫人が、きっちり借用証を書いてたことには感心した。それをすべて教会が買いとったんだ。キライヤス男爵家は、雪だるま式に増えていく利息から逃れられるかわりに、孫子の代まで教会に返済していかなければならない。
教会に来いっていわれたら、来ざるをえないよね? まあ、もっとソフトな言いまわしで、お越し願ったんだろうけど。




