商談③
教会の会議室で、三者会談をおこなってるんだけど。
雰囲気は、前世ドラマで見た簡易裁判所の離婚調停って感じ。
教父様がおだやかに男爵夫妻の話を聞き、理性的になるよう促しながら利を説く。
あーあー、もう、こいつらね! 勝手な奴らよ、わかってたけど。
長年子宝に恵まれなかったことには同情するけど、あなた達、貴族でしょう? キライヤス男爵家の場合、夫の弟に爵位を継がせるのがいちばん現実的。だいたい、もう教会に首根っこ掴まれてるんだから、言うこと聞くしかないんだよ。
それを、ぐだぐだぐキーキーうるさいっての!
私はだんだんイライラしてきたけど、アルカイックスマイルを浮かべで黙ってた。
「どなたにも救いはあるものです。さぁ、不安がることはありません、子羊たちよ。神の示せし救済の手をとりなさい」
白い眉の教父様、マジで尊敬します。ええ。そんな慈愛顔して、腹黒ってやつね。
まあ、今回のプラン。誰も損をしないから、私も心は痛まない。財布もね。
キライヤス男爵領をはじめとして、これから私たちが巡る領地がすべきことは、街道の整備。
馬車が楽に擦れ違える幅にすること。周囲より高く土を盛った上で砂利を敷き、さらに石材で舗装。両脇に側溝も設けること。
つまり石畳、片側一車線の高速道路だね。道中が長いから、数年の間は、応急処置的に砂利道でも可。
どんなにすごいことでも、慣れればなんてことなくなるもんだ。いま、いちばん私の価値が高い時なんだから、強気に行くぞ!
私としては、ギュベニュー辺境伯領から王都まで、一直線に道路を引っ張りたかったんだけど。さすがに、数キロにわたってトンネルを掘ったり、高架橋をかけるような技術はないそうです。ぐにゅぅ~。
なんにしろ、領地を通る道をどうするかは領主に権限があって、基本的に王家は口を出せないからできることだね。まあ、どこが反対したところで、教会に押し切られると思うけど。
工事費用は各領地持ち。かわりに、私の《回復》魔法を領内の任意の場所にかける。手付金として一回。進捗が見えた分だけ、王都からの帰りに、また魔法をかけてあげる。
道路は自分たちだって使えるし、商人たちが頻繁に行き来するようになるのは間違いない。なんせギュベニュー辺境伯領は好景気。通行税は、各領主が好きに設定してかまわないんだから、お得でしょ?
教会は、双方の橋渡し役。私の《回復》は、教会の許可のもとに行われるわけだから、各領主に恩が売れる。それよりなにより、領民の信仰心が増す。
もうすでに生活の上で、魔道具はなくてはならないものだから、皆、教会に頼ってる。でも、そこは事務的な関係になりがちで、神様への信仰心は薄れていくばかり。
私だったら、別にかまわないと思うけどなぁ。喉にささった小骨のように、教会の関係者たちが気にしてやまなかったことらしい。そこへ私がきたわけだから。まあ、せいぜい利用してくださいな。
《回復》の儀式は、領主の館で行うか、教会で行うか。そこは、それぞれの領地ごとに、双方の力関係で決まるわけ。
もっとも、両者は地理的に近い位置にあるのがふつうだから、どちらでやろうが《回復》の範囲に入るんだけど。
つまるところ貴族は面子の問題、教会側にすればより原理回帰のチャンスってところかな。
キライヤス男爵領なら、当然、教会だね。
バランスを取る意味でも、宿泊は領主館にしたけど。心情的には、街の宿屋に泊まりたかったよ。なんなら野宿だってオッケー!
でも、いちおう取引成立したわけだし、それなのにあからさまに避けるのは、他領との商談にマイナスだし。
状況的に、絶対やらないって頭ではわかってるんだけど、晩餐の間中、ワルサさんと自分を《回復》しっぱなしにした私は嫌味な女ですかね?




