帰還②
旅装をといた翌日。前庭に家の者たちを集めて、私は極大の《回復》をおこなった。
自分たちがどれほどの力を持った存在に仕えているかを自覚し、誇りとするようにって、ワルサさんは言う。
いやー、なんか照れるね。ほんとは、私がすごいんじゃなくて、たまたま神様に力をもらっただけっていうか。一時的に預けられてるだけなんじゃないかって気も、ごにょごにょ。
あれこれ考えなくても、魔力をため込んで、方向性を持たせれば、たぶん魔法は発動する。
でも、私はあえて、はじめて《回復》した時の気持ちに、心を近づける。神聖な、って言葉がぴったりくるあの感じ。自分の中に邪な思いが芽生えたら、けっして使えないように、自己暗示をかけてるつもり。
白い光は、ただ白い。でも、どこかあたたかみを感じる。そう、神様たちの声を聞いていた時、瞼越しにあった色。鈴のような葉擦れのような、美しい音まで聞こえる気がする。
敷地の外には、それなりに領民たちも集まっていたようで、わきあがる歓声の中にすべては消え去り、こうして、一つの旅が終わった。
ここは、私が生まれ育ったところより、ずっと緑の少ない土地。だけど、すでにほっとできる場所だ。
帰ってきたんだなぁと思う。途中、護衛騎士の何人かが風邪をひいたりしたけど、それはすぐに治したし、とにかく無事にすんでよかったよ。
緑豊かに生まれ変わることを確信して、領民はじめ、家臣たちも手放しでよろこんでるみたい。
でも、ちょっと気が早いかな。草むしりの大変さを舐めてはいけない!
「なぁに、よろこばしい苦労ですよ」
庭師ガラムよ、その言葉、しかと覚えておくがよいぞ? うん。腰治したり、ぐち聞くくらいはするからさ。
ワルサさんは休む間もなく、領境のミスリル採掘場へ。
私も、縫製工場がどうなっているか報告を受けたり、合間に双子たちと羽根突きしたり。
「「母様ー!」」
「これ! まず駆け寄ってはいけません。落ち着いて歩み寄り、数歩手前で立ち止まる。右手を胸に手を当てて、軽く礼ですよ」
「ぅはーい」「はぃ」
ユリリアがにくまれ役を引き受けてるおかげで、私をよけいに慕ってくれるんだよね。ふっふっふー、いつ気付くかな? 彼女が私の命令で君たちに厳しくしていることに。
彼らの父親であるワルサさんも、礼儀正しいし、歩き方ひとつとっても、しなやかで力強い肉食獣のような美しさがある。私は惚れぼれするけど、でも、それって一流の武人としてのものだよね? ギーブ君もそちらのタイプ。
ケセラサ王国の王宮は、まだ未体験だけど、そこで求められるものは、ヤラレタ王国とそう変わらないはず。むしろそういった形式美は、こちらに一日の長がある。
宮廷で持てはやされるのは、ダンサーのようなとでもいえばいいのか、見栄え重視の、でも、あらゆる場面で効果的な気品。それを生粋のって形容詞がつく、最高のかたちで身につけられるのは、ぎりぎり三歳まで。
私は子育ての経験はないけど、二回育てられてるからね。前世には、三つ子の魂なんて言い回しもあるくらいだし。
そのへん、ワルサさんも成人してから苦労したみたいで、この教育に関しては、つめこみすぎないって条件付きで賛成してくれてる。
大丈夫! 基本さえ身につけてしまえば、反抗期に少々道をそれても問題ない。あとは本人たちが選ぶだろう。
「「あらためておかえりなさい、母様」」
「ただいま帰りました。ユキム、ホステ、よい子にしていたようですね。二人の元気な顔が見られて、母はうれしいですよ」
かく言う私も、いまだユリリアの視線にドキドキする。よし。彼女が一歩下がれば、遊びの時間だ。わーい!
双子が《身体強化》モードに入ったあたりで、私は見守りに移行。
二人とも思いっきり油断してるはずなのに、前とはちょっとした仕草が違う。そして、仕草が変われば、雰囲気もかわるんだよね。
「さすがはユリリアね」
「もったいのうござます、姫様」
やんちゃな小犬たちに、すでに貴公子の芽が出てきているよ。背もぐんと伸びた。
「いつの間に、こんなに大きくなってぇ」
おばちゃんモードで感心してたら、ユリリアにため息つかれた。
「姫様こそ、そろそろあたらしいドレスを仕立てねばなりませんよ」
ですって、ワルサさん! あのドレスをもう着られないのはすごく残念だけど、次の約束してるもんね。
冬の間。おなかまわりのあれこれは気のせい! そう自分に言い聞かせてたから、ユリリアに言われてはじめて、肩のあたりがちょっときついなって自覚する。
私も成長期なんだ。いつも気持ちはアラフォーだから、変わる自分にびっくりだよ。
「さあキララ、訓練の時間だ。一日休んでしまったから、取り戻すのに二日はかかるぞ」
「ぅはーい」
翌朝。クク先生と、まずはジョギング。なんとなく予想はしてたけど、アスレチックがまた増えてる。いや、いいんだけどね。
きのうの今日で、あたり一面に草の芽が出てきていて、並木の新緑もおいしそうな色。
まだ風はつめたいけど、春だ!
二週間後、私たちは王都にむけて出発する。




