旅の空③
私も人のことはいえないけど、ワルサさんは貴族然としてる。
平民を相手にする時は、にこりともしないし、まわりが自分のために行動するのは当たり前って顔をしている。
実際は、めちゃくちゃ人のために動き回ってるけど、少なくとも見た目は、近寄りがたい感じ。それが、身内しかいないところに帰ってきた時、ふわっと溶ける瞬間が好きだ。
彼にとって家臣は身内で、その中でも信頼してる相手といる時は、よく笑っている。私の前でもそうだといいんだけど。
いまだちょっと遠慮がちになる時があるのは、やっぱり私が王家の出だからかなぁ。
旅に出る前、ミーティングでよき先輩たちに相談をし、自分なりに気持ちを固めて、ワルサさんに質問した。
今回領内を回るにあたって、私は目立った方がいいのか、秘かにことをなした方がいいのか。
「当初は、こたびの戦争で傷付いた人々の気持ちを思いやるなら、大袈裟にしない方がよいと思っていたのですが。彼らの誇り高さを知ったいまとなっては、戦果としていちばんわかりやすい私が姿をさらし、また、その私がこの国の役に立つところを見せた方が、皆の気がすむように思うのですが、どうでしょう?」
ワルサさんが、なにに驚愕したのかわからなかったけど。
いきなり膝を突いて、頭をさげられた、こっちの方がびっくりよ!?
「あなたをさらし者にする気はない。そんな衆目の視線から守りたい、そう強く思いながら、このような旅を強行する私を許されよ。あなたのように見目麗しく、神の加護を受けた御方が我らの味方となれば、領民は皆、安堵することだろう」
夫であるより領主であろうとする、それは妻の目から見ればひどいことだけど。
私は、王女らしい作法なんか忘れて、しなやかな首に抱きついた。
「そうすることで、私が屈辱を感じるなんて考えられていらっしゃるのでしたら、それは大変な思い違いですわ」
顔を上げて、私を抱きとめても、ワルサさんの表情はどこか硬い。私は、気取った口調をあらためて、クスクス笑う。
女はねぇ、できる男が好きなんだよ? だって考えてもみてよ。ワルサさんが領地経営を失敗したら、私も共に落ちぶれるわけでしょ? 別に、経験あるから1DKだって生活できるけど、できるなら、夏は涼しく冬は暖かく過ごせる暮らしは手放したくないよ。
「それにね。ワルサさんがせっかく贈ってくださったドレス。見せびらかしたいと思ってたの」
そう、新妻を放っておいたおわびとして贈られた。誰かにアドバイスをもらったのか、本当に自分であれこれ決めたのかな?
妙齢のお針子さんと接近したなら妬けるけど、長年ギュベニュー辺境伯家に出入りしているのは、かくしゃくとしたおばあちゃま。ちょっと失礼な言い方になるけど、お年を召しても才能は枯れないんだね。夢のようなドレスに仕上げてくれた。
それを汚されたのが、この旅で、唯一頭にきたことかな。




