パーティーにて①
前世みたいに、交通機関が発達してるわけじゃないから、冬は旅人が少ない。定期的に地域をまわる商人たちも、あたたかい時期の半分ほどに行き来を減らすんだとか。
先行して騎士が宿をとるんだけど、心付けを弾んだこと以上に、大人数で泊まることを歓迎されているようだ。
こうやって宿泊したり、買い物したり。寒村を通る時は、雪ならしだ、荷物運びだ、って地元民を雇ってお金を落とすのも領主の役目。
もっとも、いまはそれどころじゃないくらい忙しくしてるところが多くて、ワルサさんは渋い顔を他人にはわからないくらいに、ほころばせている。
○○街は、前世でいう○○市だね。人口は比べるまでもないけど。街道沿いには、私たちを一目見ようと人が集まるから、けっこうな賑わい。噂は本人よりもずっと速く巡っているらしく、どこへ行っても見える範囲では歓迎されて、ひとまずほっとしてる。
いや、生卵ぶつけられる想像とかもしたからね。これでもわりとナイーブなんだ、私。
街でいちばん高級な宿屋に入って、すぐにベッドにダイブしたいところだけど。街のトップが歓迎会を開いてくれるのを無下にするわけにもいかない。
私たち辺境伯夫妻のほかには、近隣の町長、村長、その奥様方、商会の支店長クラスまでが呼ばれてる。ダンスなしの立食パーティーって言えばわかるかな。
そうそう。私、それまでパーティーなんて名のつくもの、ろくに出たことがなかったんだよね。だから、はじめの頃はけっこう緊張した。
でも、どこへ行っても、唯一経験した自分のお披露目パーティーと同じくらいの規模。主催者はひどく恐縮してたけど、私にはちょうどよかった。
今夜も、ペコトスって街の街長さん自ら釣ってきたっていう魚のパテに、私は夢中。氷に穴をあけて釣るんだって! 川魚なのに、どうやって臭みを抜くのかも気になる。あえて裏ごしはしてない、いわゆるなめろう。クラッカーにのせたのをいただいてるんだけど、うっまー! 日本酒ほしいー。
べた褒めしたら、街長さんはそれはよい笑顔になって、秘伝だっていう調理法を教えてくれた。よっし、屋敷に帰ったら、うちのコック長につくらせよう。
幸いにも整った容姿、厳しく仕込まれたお作法、そこへ愛嬌が加われば、よほどのひねくれ者でもないかぎり、年上の男性たちはニコニコしてくれる。
女性陣もまた、前世と同じ。こう、男にはわからない見えないハードルがあるんだよね。今回は、自分の年齢に助けられたわぁ。
さっと隠しても、それまでそこにあった空気ってなんとなく感じとれるじゃない? 私を厳しく判定してやろうって、待ち構えてた奥様方が、ちっこい私を見て毒気を抜かれたのがわかる。ワルサさんが一見、強面だからね。よけいに私が頼りなく見えるみたい。
ちょこちょこ歩いて、招待してくれたペコトス街長夫妻にあいさつしてるうちに、どんどん私に同情的になっていくご婦人たち。ひそひそ、聞こえてますよー。
「まだ、あんなにおちいさいのに」いえ、中身アラフォーなんで、平気っす。「おひとりでこんな異国のこんな田舎に」こんなこんなって、あなたの故郷ですよね? 「あんな年上の男性に嫁がなければならないなんて」うちの旦那になにケチつけとるんじゃぁ!
一人が近付いてきたのを機に、次々よってきて。まあ立場上、私からあいさつすると、すぐに「キララ様、こちらのお菓子がおいしいですわよ」とか、「うちの娘の刺繍の腕はなかなかですから今度ハンカチをお送りさせていただきますわ」とか。
なんかねぇ、仕草や言葉遣いはハイソだけど。電車とかバスで、隣りに座ると飴くれるおばちゃん思い出して、ほっこりしたよ。




