奥様のたくらみ①
家にまったく帰らない夫。というのも、王家がミスリルよこせ、もっとよこせと、矢のような催促。
「なぜ、こうも急かすのでしょう?」
「あー、キララは知らなかったか。魔道具の基板に使ったミスリルは、一年ほどでアンミスリルに変化してしまうんだ」
なんてこった! それじゃ、いくらあっても足りないよね。
アンミスリルをミスリルに戻す研究もしてるらしいけど、いまのところ成果はないそう。で、冒頭に戻る。
冬の間どうするのか気になって尋ねると、掘り続けることになりそうだと、ワルサさんは渋い顔。
私が思ってたほど雪は積もらないらしいけど、当然、冬の外仕事はきつい。
寒いってだけでも縮こまっちゃうのに、厚着をして、よけいに動きづらくなる。そのせいでさらに体が固まって、思わぬ事故につながりやすいと。道理だよね。
戦場でも同じことが言える。だから、普通は冬に開戦はしないし、戦いが長引いて冬が近付けば休戦する。
なのに、王家のやつめ! ま、まあ、私も魔道具のお世話にはなってるから、そう強くも言えないんだけど。
こんな時、ワー○マンがあれば。
一縷の望みをかけて、出入りの商会に探させると、ありましたよ! 魔物が吐き出す糸を紡いで織った布。軽く、通気性があるのに風は通さず、断熱どころか防刃効果もあったりする。
これをつかって作業服をつくれば、疲れがたまりにくいし、怪我も減るんじゃないかな。応用すれば、安全靴もつくれそう。
え、なになに。本来は貴族サマ御用達の鎧に裏張りするもので、一般にお売りするにはバカっ高いだぁ? なめるなや、若造! 戦争は終わったし、どうせ、きっちり以上に利益回収するんでしょうが。これ以上ぐだぐだ言うなら、ミスリルの延べ棒で頬を突いてやろうか?
鉱山はすでに黒字。マスク工場の稼働で、私の実績も目に見えるようになってきた。となれば必要に応じて、化けの皮も剥がれるってものよ。オホホ! 相手が上に逆らえない従業員じゃなくて、会頭本人ならなおのこと。
ありったけ仕入れさせ、並行して、西の森で蜘蛛の魔物の捕獲を推奨しよう。元々、羊の放牧はさかんだし、あっ! 川に群れてるあの水鳥、半分くらいむしっちゃっていいかな?
領境の工場で、こちらも増産決定。
ひとつ問題を片付ければ、次が気になる。春になったらどうするのかと、先走って質問。
この冬、私が予定通り《回復》行脚をすませれば、農業は今まで以上に忙しくなるよ? うれしい悩みだと、ワルサさんは笑ってる。最近、また眉間に皺ができてたからね。やわらかな表情を見ると、奥サマはほっとしますです。
いまは交代で鉱山の工夫と化してるものの、そうそう畑から離れられない人たちの代わりに、ヤラレタの民を働かせないかと提案。なんとびっくり、奴隷を使うより安くすむ。まあ、これも家令イマージに計算してもらったんだけど。
苦肉の策で、奴隷を雇おうとしていたワルサさん。ほんとは、奴隷制度に反対なんだよね。ってことで、オーケーでました。
働く側からすると、いままで見下してた異国に行くってだけでも不安なのに、ギュベニュー辺境伯領を縦断しなきゃならないから、心理的にも身体的にもかなり負担だろう。
でも、マスク工場が思いのほかうまく行ってるから、その噂を聞いてれば、少しは気が楽なんじゃないかな。
現場まで、ちゃんと馬車で運んであげるし、山小屋に毛のはえたくらいのものだけど、宿舎も用意してあるしね。サスペンションとスプリングの機能にびっくりすること請け合いよ!
問題は、ふつう領主や国王は、自分とこの民が移動するのを基本的に認めないってこと。
ここで、私がヤラレタ王国の王女だってのがきいてくる。本来、貴族の女は、嫁いだあとも実家のために活動するものだからね。救いの手を差し伸べる形で、こっちのいいように事を運ぶつもり。
私が国を出る時。見送りに来てくれた一般の人たちも、きっと晴れ着をきてきたと思うんだ。でも、それが、ケセラサ王国の平民の普段着とほぼ同等だって、あとから気付いた。視察の時に見た、農夫たちのかっこうは言うにおよばず。
私は王宮でぬくぬくしてたから知らなかっただけ。王族や貴族は贅沢してるけど、ヤラレタ王国の民は貧しい。ケセラサ王国の領土より、ずっと豊かな土壌で面積もあるのに、税をとり過ぎだバカ親父! 政策に携わってなくても責任者なんだよ?
いまマスクを作ってる工場の女工たちだって、時給は前世に換算すれば五百円くらい。それでも、給料日には涙を流して喜んでるって聞く。
一日、十時間労働。午前十時と午後三時の十五分休憩、昼の一時間休憩は守るように、口を酸っぱくして言ってるんだけど。自ら働きたがるんだって、チーフの方がまいってる。
ちなみに、工場長も、各班の監督官も女性にした。集団になれば、いじめやしごきはあるだろうけど、少なくとも胸くそ悪い事件が起きないように。
せめて、ご飯はお腹いっぱい食べさせて、交代制だけど月に五日は有給取れるようにしてる。
仕送りは、出入りの商会を通して確実にできるようにして、ヤラレタにケセラサの貨幣が流れるようにしないとね。




