できる妻②
もっと、ちゃんと勇者と話しておくべきだったと反省。
でも、出入りの商人に聞いたら、あった。ありましたよ! 彼自身は珍妙な話として聞かせてくれたんだけど。話の様子からして、どうやら勇者の一人が、ブタクサ花粉のアレルギーみたい。
独自にマスクを開発して、一部の医者とか、薬草師には重宝がられてるらしいんだけど。値段が値段。ちくちく本人が手縫いして、量産がきかないってこともあるのかな?
「いえいえ、もともとそんなに数が出るものでもありませんから」
勇者とのコネを維持するために扱ってるだけで、商売になんてならないと思ってるみたい。ちょっと、蔑んでるようにも聞こえるよ?
この国は私の出身国より、ずっと公衆衛生とか進んでると思ったけど、勇者たちががんばってるだけで、一般の意識はこんなもんか。なーんだ。
なら、私らがやらせてもらいまひょ。
ライセンス契約を結んで、こっちで工場つくって大量生産。どうだっ!
商人にしてみれば、若奥様の子供の遊び、やれやれって雰囲気だったけど。
とりあえず、その勇者に話だけでもしてみてくれと、ねばりにねばった。そう、身分を笠に着て、一昼夜帰らせなかったのだ。こっちだって、子供の体で徹夜はきついんですからね。かわりに昼寝したけど。
「わかりました。とりあえず、会頭に話してみますよ。それでよろしいですか?」
こんな態度の相手に、手間賃もってかれるのは癪だけど、マスクに興味を示したのが私だって、まだ勇者には知られたくないし、面倒事を押し付けられる人間、間にはさんだ方がなにかとね?
はぁー、でもな。彼も雇われ、商会のトップが話に乗らないことにはな。
こういう時、なんの実績もないってきつい。あ、《回復》魔法は別ね。一介の商人が利用するには大きすぎる力だし、商品にできんものにはシビアだよ。
特に、目の前にいる狸耳のおじさんは、私がやらかしたって噂は聞いてるけど、半信半疑って感じ。彼の中では、敵国の王女ってデメリットの方が、まだまだ大きい。
母国の家族たちよ。ヤラレタ人は差別する側だなんて、とんでもない話なんだからね。ここでは、私が差別される。いま、この領から出るミスリル鉱石を運ぶ仕事を任せてるから、お義理で話を聞いてもらえるってだけ。
まあ、気のない返事のいちばんの理由は、私が勧められたものを何一つ買おうとしないからなんだけど。
いや、私だって、大人の付き合いは理解してるよ? そこまで欲しくないものでも、一つ二つ買って、かわりにこっちの言うことを聞かせるってテクニックは実際、何度か使ったことあるし? 前世で。
でもさ、そこまで下手に出てまで付き合いたい相手じゃないんだな。
「こちらのネックレスなどいかがですか? 瞳のお色とも合いますし、豪奢でありながら、奥様の気品を損なわず、もちろん、他にはない一品であります」
「似たようなデザインで、もう少し品のよいものを持っているから、けっこうよ」
もう、わかってないなぁ。ワルサさんに似合う男物の装飾品なら、おべっかなんか使わなくても、即、買ってる。あとは、子供用のなにかだね。防犯兼ねて、銀製のホイッスルとかないかな? ないね。
家令イマージ経由で「好きなものを選ぶように」って言われてるけど、私向けの商品しか取り揃えてこないこの商人が、前の奥さんの担当でもあったって聞けば、いろいろ納得。
そりゃ私だって、着飾るのは好きだよ? 量産品ばっかり身につけて、周囲に埋没するのは危険だって、命を懸けて学んだし。でも、旦那様も子供も差し置いてってのは、なんか違う。
それに、そう。いまは、マスクだ!
ふつう、貴族が商人に資金提供させるなんて当たり前のことなんだけど。こりゃ、ダメだ。
私個人の財産っていったら、衣装と貴金属くらい? 持参金はワルサさんに渡しちゃったし、そもそも法律上、女性の資産は未婚なら保護者、結婚後は夫の許可なしには動かせんのよね。
ワルサさんは、頼めば使わせてくれるだろうけど。
もともとが、さほど収穫高の見込めない土地だった上、ミスリル鉱石も採掘が始まったばかりで、逆に物入り。戦死・戦傷者への見舞金も、まだ末端まで行き渡ってない状態。
王女の持参金だ。決して安くない。これで一息ついてほしいって暗に言っちゃったからね。
それに、こんな時こそ、自分の才覚でなんとかして「さすがは俺の奥様」って言われたい!
宝石は、これからもある程度必要だけど、ドレスなら、もう着られなくなった昔のものまで全部持ってきてある。あれ、売り払ったらいくらになるんだろう?
あー、でも、○○家が✕✕を質草にしたとかって、必ずうわさになるんだった。バザーとかチャリティーとか名を冠すれば、表向きはもてはやされるけど、やたらなことして、辺境伯家の家名を貶めるようなことになっても困るし。むーん。




