カンカンカン①
今日は、羽根つきをしたよ!
こんな時はストレス発散だーって走ってたら、林でむくろじの種を見つけて、我慢できなかった。
ヤラレタ王国では見かけなかったし、ギュベニュー家のメイドたちは「石鹸の実」って呼んでるけど、硬くて真っ黒な種は、どう見ても羽根つきのアレ。
果皮を水に浸けると泡立つらしくて、それで自分たちの食器や服を洗ったり、入浴時に使用してるんだって。あー、まあ、石鹸って高価だからね。
で、残りカスである種を林に撒いておけば、運がよければ木が生えて、また実が取れると。いまや習慣になっているらしく「石鹸の木」が生えていないところにも、よく見ればあちこち種が落ちている。これだけいっぱいあれば、少しくらいもらってもかまわないよね?
庭師のガラム爺がなかなか器用な人で、羽子板と羽根について地面に描いて説明したら、ちょいちょいと作ってくれた。あ、前のアスレチックづくりにも協力してくれたんだよ。ありがとう! なにを話しかけても、にこりともしないけど面倒見がいい。
「若奥様は、よくこうも次々と、おもしろいものを思いつかれますな」
なにやら感心したようにぶつぶつ言ってたけど、私はなんも考えてないからね? 単なる知識の横流し。
こうやって転生者だってバレていくんだろうな。用心して用心して、突如、わーっと石橋たたき壊すタイプなんだよ、ハハッ! まあ、他のことはなんも覚えてない、って言って通す手もある。そもそも、勇者に見られなければ問題ないもんね。
さて、懐かしの羽根つき。バトミントンとかと違って、板がせまいし、意外とむずかしい。くっ。
「かあさま、まけー!」「かあさま、かくー!」
「はいはい。お手柔らかに」
罰ゲームで顔にいたずらが描きするのも、アイライン用のインクと刷毛で、ちゃんとやっている。これがあった方が盛り上がるからね。
「きゃはー!」「むきゃー!」
ユキム君とホステ君も夢中よ? 誰に似たのか、二人共たいへんな負けず嫌い。しまいには《身体強化》しだして、すごいことになってた。怪我もなく、楽しんでくれたみたいでよかったけど。
あとで、めっさ叱られた。乳母のユリリアと、メイド長のスカレに共闘されたらかなわないよ。
でも、こりずにまたやろうねって双子たちと約束してる。まあ、今度は顏で○✕やるのはひかえるよ。
夕方、メイドたちに頼まれたって、庭師のガラムが羽子板を増産する許可をとりにきた。もちろん快諾。大人たちにも、気晴らししてほしい。
思いっきり体を動かし、はしゃいで、あー、すっきり! あー、楽しかった! それで話はおわりだと思ってたんだけど。
一週間もしないうちに、領内で羽根つきが流行ってた。そりゃそうか。材料は目の前にあるわけだし、先祖代々、弓とか槍とか手作りしてきた人たちだし。きっかけさえあればね。
最初は、子供やその友人のためにつくってたらしいけど、大人が参戦し出すと、競技の色合いを帯びてくる。板にも羽根にも凝りだして、また、一方で芸術性を追い求める連中もでてきたらしい。そのへんは前世と一緒だね。
で、あれよあれよという間に、話が大きくなって。気付いたら、出入りの商人の上司、正確には商会の会頭を名乗るお兄さんが目の前に座って、羽子板販売のマージンの話をしてた。
板はどこででもつくれるけど、羽根に使うあのかったい木の実は、この地方でしか採れないらしい。代用品なんていくらでもありそうだけど、前例があるとそれにこだわっちゃうのが人情。これこそが本物だぁ、ってね。
ヤラレタ王国へ出店予定のアンテナショップにも置いたらどうか、なんて話が冗談として笑い飛ばせないくらい。いま、領内では羽子板セットが量産され、ケセラサ王国中に輸出されてるんだって。す、すごいなぁ(他人事)。




