傾向と対策
王様からの書状は、領境で直接ワルサさんに渡したらしいから、屋敷まできたのは、完全に私との顔つなぎだね。まあ、《回復》魔法について聞くお役目をこなしつつ、「聖女に会った」って言うだけでも話題になるんだろう。
今回は急の来訪で、予習が間にあわなかったけど、私の対応はまずまず、及第点だったようだ。
翌日から、家令のイマージに頼んで、簡単な講義を受けている。
ギュベニュー辺境伯領は、王家とは一歩も二歩も距離を置いているのだって。長年、隣国(私の実家)からの侵略を体を張って押しとどめてきたのも、王家への忠誠心がゆえ、ではなく、ケセラサ人の誇りにかけてという意味合いが強いらしい。
歴代の領主たちはそんなことは考えてもみなかったのだけど、王家とすれば、独立されたら困る、敵に寝返られたら恐いってことで、王家から降嫁してきたのが、先々代の奥様、ワルサさんにはお祖母様にあたる方。
それを考えると、私とワルサさんの結婚は、王家からすれば、隣国から贈られた粗悪品を押し付けたって感じになるのかな?
今頃、私の有用性がわかって、焦ってるだろうな。クヒヒッ。いや、これから向こうの勝手な思惑で翻弄される未来しか見えないから、それぐらい思わないとやってられないよ。
まあ、私の実家もそうだけど、王家が単独でいちばん強いなんてありえない。
ギュベニュー辺境伯領が、独自にヤラレタ王国と仲良くしたら困るって考えた人たちもいたようだけど、それを巧みに抑えた連中がいる。国が弱体化した方が都合がいい人たち。
なんでも、勇者は貴族と同等にあつかうべしということらしい。ただ、どの爵位相当か明言されていないので、どこまでかしずき、もしくは下に見るかはケースバイケース。貴族たちの悩みの種でもあるんだとか。
これは王家の策? それとも単なる無策?
はぁー、こういうこと考えなきゃならないの、ほんとめんどいな。せっかく会社員じゃなくなったのに。
無意識にペンを回していたらしい。イマージの視線に気づいて止める。
「ごめんなさいね。お話、続けてください」
このボールペンにかんしては勇者サマサマだね。商品化しててくれて、ありがとう!
でも、癖って生まれ変わってもなかなかぬけない。使用人たちの間でペン回しが流行っちゃったらどうしよう? いやいや、相手はイマージだもの、まさかね?
好々爺然とした表情で授業を続けるイマージ。
勇者たちは、それぞれが協力し合って、小さいながらも派閥を形成するまでになっているらしい。そう、勇者たちだ。利用されるのがわかりきってるから、団結したんだろうな。でも、それだって、一枚岩にはなりえないよね?
「王家への牽制のために、勇者様との交誼は必要。でも、近付きすぎてもダメなのですね」
「さようでございます」
自分で言うのもなんだけど、いまや私は、勇者並みに価値がある。利用するつもりが利用されてたなんて、ありうる、ありうる。しかも、王家や他の貴族たちに、痛くもない腹を探られるおまけ付きだぁ。
勇者は、王家の打出の小槌ってとこかな? それが独自の意志を持ってるんだから、いくら価値があっても使いづらかろう。
え? 人のこと言えない?
ちなみに、召喚の魔法陣は、王家秘中の秘とされていて、在野の研究者で形にできる者はいないらしい。




