健やかな体づくり
一週間くらい、様子を見ようと思ってたんだけど。
ちらちら視界に入る人がいる。チェーンメイルは脱いで、簡素な革の胸当てをしてる。白いウサ耳がぴこぴこ。
たしかに頼んだのは私だけど、そんなに訓練したいのかしら、この人?
「おはようございます、先生。先生のご都合がよろしければ、そろそろ授業をお願いしたく思いますが。訓練に適した時間帯って、いつでしょう?」
「それはもちろん朝です。きれいな風を体中に行き渡らせ、目覚めもスムーズ、一日を有意義に過ごす活力が湧いてきます」
いま、この瞬間から、やる気まんまんだよ。
もともと私は早起きだ。子供の体とはいえ、毎晩八時に就寝だよ? 朝の五時にはすでに身支度をすませて、朝食前の散歩が日課だ。
訓練着は、先生のお古をもらえることになって、いそぎ着替えてくる。やった、ズボンだ!
「お待たせしてすみません。先生、よろしくお願いします」
七歳の素人のお姫様。激しい稽古にはなりようもないので、中庭の片隅で棒の持ち方から習う。そう、棒だ。足元から胸にとどく長さ。
「王女様は」
私は、慌てて話を遮った。
「先生。遅ればせながら、自己紹介をいたします。キケイラ・セム・ヤラレタと申します。どうぞ、キララとお呼びください」
「こちらこそ、失礼いたしました。ケセラサ王国ギュベニュー辺境伯の騎士、クク・スライダと申します。若輩者ながら、キララ様の護身の指導にあたらせていただきます」
「クク先生とお呼びしても?」
「はい。光栄です」
「では、クク先生。指導中はどうぞ、私のことは呼び捨てにしてくださいまし。長く厳しい訓練の末に会得された技術をお教えいただくのですから。生徒に対して敬語とは、おかしいのではないかと思います」
彼女は即決の人だ。まあ、そうでなきゃ騎士なんてやってられないだろう。
「では、キララ。私の稽古はきびしいぞ。覚悟してかかれ」
「はい、先生。よろしくお願いします!」
口ではきびしいことを言いながら、クク先生は、私がヤラレタ人の子供だってことをちゃんと考慮してくれてる。まず、健やかな体づくりってところかな。
庭の片隅で、言われるままに棒を振り回してただけなのに。翌日、めっさ筋肉痛。はぁー、がんばろ。




