隣国の使者①
第一王女を迎えに、ケセラサ王国の大使と、配偶予定者がやってきた。
向こうは戦勝国だ。本来なら、そんなことをする必要はない。「さすがは野蛮人、文明大国に対して弱腰ですな」とか、強がって舐めた口きいてる貴族もちらほらいるけど。こっちの方が技術的にも劣ってるんじゃないっけ?
にもかかわらずこの対応。私的には大いに好印象。あれこれ計算もあるだろうけど、大人の気遣いを感じる。
謁見の間。さすがに壇上にふんぞり返るわけにはいかず、王も王妃も、階下におりて使者を迎える。王の隣に王太子、その隣に第二王子。王妃の隣に第一王女が立つはずだったが、一人分空間をおいて私が立ってる。
あ、私もなんとかお披露目をすませて、公式の場に立てるようになりました。敗戦直後な上、魔法もからっきしな王女ってことで、内輪のお誕生日会状態だったけど、かろうじて宰相と大臣たちが出席してた。
前世で苦労したのが嘘みたいに、人の顔も名前もいくらでも覚えられるのになぁ。でも、まあ、ほかの有象無象はどうせ役に立たないし、楽でよかったよ。
「楽にされよ」
使者たちが膝をつこうとするのを、王が止める。代わりに、自分たちも頭を下げない。慣れない私は、内心ドキドキしてたけど。初めから決まってる、予定調和な作法らしい。
迂遠な言い回しで、栄えある王国の王女を迎えられる栄誉がうんちゃらかんちゃら。ケセラサ王国の大使は、大変な大柄で、胸板も厚く、武人オーラ全開なのに、すっごいイケボ。思わず聞き入っちゃったけど、それより気になることがある。いやー、失礼とは思いつつ、まじまじ見ちゃうよ。
護衛騎士のブロンゾに聞いてはいたんだ。彼の国の人たちは、私達よりも祖先の特徴を残している。口さがない連中は獣人なんて、言い方をする。でも、これはすっごい失礼なことらしい。私たちが、猿人って言われる感じ?
尾っぽは完全に退化している。目に見える違いは、いくぶん尖った犬歯と、それから耳。位置は、私たちとかわらない。朗々と演説ぶってる大使の耳は、体のわりに小さく丸っこい。頭髪と同じ焦げ茶色の短い毛におおわれている。つまり、熊さんの耳。
声が良すぎて、内容を拾うのが大変だ。すごく恐縮して、謝っている体。なんでも、本来ならば、王族同士婚姻を結ぶべきだが、ケセラサ王国は一夫一妻制。王族ともなれば、生まれた時から婚約者がいる。それを解消してまで妻に迎えることはできない。
どうやら、彼の国では、身分のあるなしにかかわらず、よほどのことがあっても、離婚はもちろん婚約の破棄すら認めないらしい。ようは、約束をたがえるのが、ものごっつ嫌い。
そこで、現王のまたいとこにあたる、ギュベニュー辺境伯に白羽の矢が立ったんだとか。あ、大使の隣にいる人ですね。
大使よりは小柄だけど、いや、十分長身だよ。細くも見えるけど、比べる相手が相手だからね。軟弱そうには見えない。むしろ強そう。年齢は、うちのお父と同じくらいに見える。不幸なことに先妻を亡くして独身。




