隣国の使者②
ギュベニュー辺境伯は、つまらなそうな顔をして立ってる。そりゃそうか。当事者のどちらもが望みもしない結婚だ。向こうの王に命令でもされたかな?
でも、おかげでこちらは体面を保てるわけだ。王に連なる者たちの婚姻となれば、戦争なんてなかったって顔もできる。
人質として迎え入れられることにかわりはないけど、胸を張って言える公の立場、ようするに寄る辺ができるわけだから、嫁ぐ者としても気分が違う。
「ギュベニュー辺境伯、ワルサ・ノテム・ギュベニューにございます」
大使ほど低くも甘くもないけど、いかにもできる男ってかんじの渋い声。胸に右手を当ててゆったり会釈すると、途端に空気が華やぐ。
私は、ほぇーっと見惚れた。カッコエエわ、この人。
よく見れば整ってるのに凄みがありすぎて、女性受けは良くなさそうだ。黒いクラバットとも相まって、ドラキュラみたいなイメージ。目、笑ってないし。
でも、耳はねぇ。狼? シルバーグレイの髪と同色の細かな毛が、尖がりお耳の外側を覆っていて、内側の白い産毛はさらにやわらかそう。さ、さわってみたい。
姉や、私の外見年齢からすれば、おじさんもいいところだけど。右目の下に薄っすらできてる小じわに、ぐっとくる。ええ、私の中身は同年代ですから。
それに、なんだろうこの既視感。あっ、瞳の色がいまの私とおんなじなんだ!
政略結婚なんて、本人はなにも選べないんだから、外見だけでも気に入ったら万々歳じゃないかな? これで中身が冷酷無比とかだったら大ピンチなわけだけど、そのへんはあんまり心配してない。
第一印象って、案外バカにならんのよ。なんか怖い、なんか気持ち悪いって思うのを、気のせいだなんて流したらダメだ。のちのち大したことではなくても、あ、やっぱりね、って納得がいく。
だいたい、トータル半世紀近くも生きてれば、この人のこれまでの人生こんなだったかなって見当がつく。
それでも前世じゃ尻込みして、結局、結婚できなかったんだけどね。ハハハッ。
今世は思いきって行ってみよう。おーっ!




