第一戦:藤澤家の戦い
彼の名前は藤澤京介。この近くにある県立高校に通う高校一年生……。ん? 四月から二年生なんだっけ? 新学期から二年生になるんだっけ?
まぁ、そんな事はどうでもいい。とにかく京介は今月から高校二年生としてスタートする。
そんな彼の趣味はサッカー。サッカーは小学生一年生の時から初めていて、今年でサッカー歴十年。そして四月十日から十一年目が始まるのだ。
しかも年数が語る以上に、京介は人生の時間を殆どサッカーに費やしてきた。その甲斐あってか、中学生二年生の時は全国大会にも出場した。
しかしそれでも優勝までは行けず、ベストエイト止まり。おまけにその次の年は県の予選で負けてしまった。
「おーい京介ー。母上が朝ご飯だって言ってるぞー」
「全国優勝がしたい。将来プロになろうがならなかろうが。そんな事はどうでもよくて、俺はただ全国優勝したいんだ」
「おーい京介ー。聞こえてるのかー」
「それは友樹と交わした誓いでもあって、俺達はその為に色々と努力を−−」
「−−朝ごはーーーん!!!!!!」
「ぬわぁぁぁぁー!!!」
張飛が京介の耳元で思い切り叫んだ。
こ、鼓膜が……破れる……。と、京介はキンキンと鳴る耳をふさぎながら涙目になる。
「やっと気付いたか。朝ごはんだぞ、京介」
「ん……。あぁ……張飛か……。おはよう」
「うむ。おはようだぞ、京介」
肩の所で切り揃えられた短い黒髪。二重でぱっちりとした大きな目。その中心からすらりと伸びる鼻の筋。少し褐色した肌は、彼女の活発な性格を表すかのようだ。
そんな顔立ちも喋り方も太陽のように明るい彼女の名前は張飛翼徳。なんでも彼女は、三国志に出てくる英雄らしい。
何故そんな昔の英雄がこんな場所にいるかという説明は、割愛させていただく。
「ほらっ。ぼけっとしてないで、さっさと行くぞ」
張飛はそう言うと、京介の背中に周りこんで、両手でそれを押してきた。
「分かった分かった。だから押すな押すな」
「うむ。京介が分かったなら、もう押さないぞ」
彼女はとても純粋で、故に京介は先程の事を怒れずにいる。
はぁ……。純粋って罪だよな。とぼやきながら京介は張飛と階段を下りる。
「張飛、昨日はよく寝れたのか?」
「うむ。あの布団というやつはとても寝心地がよかったぞ」
「そっか。よかったな」
「うむ。それに、昨日はとても美味しいご馳走を頂いたからな。朝までぐっすりだったぞ」
京介はそれを自分が作った訳じゃないのだが、何故か嬉し恥ずかしくなってきた。
そして同時に、昨日のは夢じゃなかったんだよな……。と、京介は昨日の出来事を振り返った。
*
「初めまして。私の名前は関羽雲長といいます。そしてご存知の通り、この娘が張飛翼徳です」
「うむ。張飛翼徳だぞ」
京介達は話を纏める為に、とりあえずリビングで話し合いの席を設ける事にした。
四人用の洋テーブルに腰をかける関羽。そのの隣に張飛。関羽の正面には京介の母親、そしてその隣が友樹だ。
「おかしくね? 何で友樹が座ってんの? 何で俺が立ってんの? おかしくね?」
「男が細かい事を気にするんじゃありません」
「えー、だってー」
「そうそう。そんなんだから彼女ができないんだよ。京介は」
「テメーは黙っとけやァ!!!」
あー腹立つなーもう! と、京介は友樹をギラギラとした視線で睨み付ける。
「京介殿。私が立つのでどうぞ、お座り下さい」
と、関羽は立ち上がって椅子を引き、そこに案内するかのように手をかざした。
「京介、こんな可愛い女の子に気を使わせるんじゃありませんよ。いいのよ関羽ちゃん、京介はいわゆる立ちたい症候群ってやつだから」
「立ちたい症候群?」
「そう。立ってないと死んじゃう病気なのよ」
「えっ!? それは本当ですか!?」と関羽は目を大きく見開き驚いた。そしてすかさず京介に向かって頭を下げた。
「そうとは知らず失礼をっ! お許し下さいっ!」
頼むから謝るなよ……。と心の中で思いながらも京介は、いや、気にしないで。と関羽に言った。
そんな病気じゃない。とはとてもじゃないが言えない京介であった。
「さてと。とりあえず話を纏めようか」と、友樹がその場をまとめる。
「二人から聞いた話を纏めると、つまり……」
関羽は、呂布と張飛の所に着いた瞬間何かに吸い込まれ、気付いたら京介の家の前に居た、と。
張飛も同じく何かに吸い込まれ、気付いたら京介の上に乗っていた。
武器や馬もどこにいったか分からないし、他の人がどこにいるかも分からない。
「この近辺にいるかどうかも確定じゃないし、そもそも場所だけじゃなく、時間さえもバラバラかもしれない。という事だね」
「うむ〜。張飛は、せめて兄者は無事であって欲しいと思うぞ」
「そうですね。私も何より兄上の無事を確認したいです」
張飛と関羽は少し心配そうな顔を浮かべながら言った。
「ウフッ。二人共兄想いなのね♪」
「お袋、三十路にもなってウフッってのは−−」
「−−黙ってろやァァァ!!!」
「ンヌブフゥゥゥー!!!」
禁句その一。
三
十
路
「母上殿は三十を越えていたのですか!?」
「ええ。それが何か?」
京介の母親の眉間に血管が浮かび上がっているのが見える。
それに関羽は気圧されるも、少しずつ口を開いて。
「いえ、とてもそうは見えなかったので……」
「あらまぁー。嬉しい事言ってくれるのねー」
友樹が俺に耳打ちする。
「相変わらずなんだね、おばさんは」
「ああ。お前も十分に気をつけろよ」
うん、分かった。と友樹は言い、京介の耳から遠ざかった。
「という事は、関羽ちゃんも張飛ちゃんも寝る場所が無いのよね?」
その質問に、二人は頷いた。
「うん、決めた。関羽ちゃん、張飛ちゃん。だったらこれからずーっと家に居てもいいわよ♪ いいわよね、京介?」
「えっ? 何がっ?」
「だーかーらー、この二人は今日から私の娘になるって言ってるのよー」
チッ、この三十路め。相変わらず頭のネジが数本外れてやがんな。と、京介は心の中で吐き捨てる。
「いいわよね?」
「はい、喜んで」
しかしこの世は弱肉強食だった。
*
「しかし、本当に住んでもいいのか? 迷惑じゃないのか?」
「いや、迷惑なんかじゃないよ。寧ろ、兄弟ができたみたいで嬉しいから」
とは言いつつも、同い年の少女と一つ屋根の下で暮らす。という現実に、多少不安は感じている京介だった。
「そうか。張飛もとても嬉しいぞ。母上は優しいし、ご飯は美味しいし……あっ、もちろん京介も優しいから好きだぞ」
なんていい女の子なんだ……。と、京介は目をうるうるさせながら感激していた。
そしてバターの香りが漂うリビングへと足を運んだ。
「あら、おはよう京介。張飛ちゃん、ありがとうね♪」
「うむ。これくらいなら簡単だから、これからもどんどん頼んで欲しいんだぞ」
「あらまー♪ 張飛ちゃんは可愛いわねー♪」
そう言って京介の母親、藤澤由美は張飛を抱きしめた。
「おはようございます、京介殿」
「ん? あぁ、おはよう、関羽」
その光景を眺めていた京介に、横から朝の挨拶をする関羽。
「あの、その、なんだ……」
「何でしょうか?」
張飛とは違ってとても長い黒髪を持ち、それを後ろに簪で止めている。
張飛程は大きくないが、やはり大きくクリクリとした目、顔の中心にスッと伸びる鼻。白くてつやつやの肌に、口紅を付けていないのに綺麗な色をする唇。その口は少し小さめだ。
美少女。その一言に尽きる彼女に見つめられた京介はみるみるうちに顔が赤くなる。
「その、なんだ……。殿とか付けられるのは何か変だし……、俺達同い年なんだから呼び捨てでいいぞ」
「は、はい。京介殿が……じゃなくて、京介さんがそうおっしゃるなら」
さん付けも十分呼び捨てでは無かったが、まぁいいや。と京介はそれ以上何も言わなかった。
「そうそう京介、今日の朝食は関羽ちゃんが手伝ってくれたのよ?」
「へぇー、道理でいつもより豪華っ……!」
ミス。なんと京介の口は滑ってしまった。
「ギャァァァーー!!!!!!」
バサバサバサッ。
近くの木に止まっていた鳥は、安息の木を求めて旅立った。
*
「京介、新学期はいつからだっけ?」
京介と由美。張飛と関羽で向かい合って食べる朝食は、いつもより賑やかだった。
滅多に家に父親が帰ってこない為、京介達の食卓には、ほぼ毎日二人しか居なかったからだ。
とは言っても、京介と由美の間に会話が無かったという訳でも無いのだが。
その賑やかな朝食が終わると、張飛と関羽は二人で皿洗いをすると言って、皿洗いを始めた。
京介と由美はその恩恵に預かり、二人でソファーに座って、ゆっくりとくつろいでいた。
「えーっと、五日後とかだったと思う」
「そう。それじゃあまだ間に合うわね」
え、何に?
京介に悪寒が走った。
「決まってるじゃない。新学期に、よ」
チッ、この三十路は相変わらず電波脳してやがんな。と、京介は心の中で吐き捨てる。
「今から二人の制服のサイズを計ってきてくれるかしら?」
「おう。任せてくれ」
殴られて了承するか、殴られないまま了承するか。
そんなのは最初から答えは決まっているようなものだ。
*
「……と、いうわけで。ついでに二人の服も買ってこいってさ」
それを言われた京介は、今着てる由美の服をあげればいいじゃないか。と一瞬思ったが、その考えは振り払った。
京介達は滅多に家に帰らない父親のお陰でお金に困った生活をしている訳でも無いし。
「学校って、塾のような場所なのか?」
「あぁ。張飛の言う”塾”ってのはよく分からないけどな。多分そんな感じだ」
まず三人は制服のサイズを計りに、駅前にあるデパートに向かった。京介の家から十分程度歩いた所にそこはある。
京介達が暮らす町はとても賑やかで、今彼らが歩く駅前大通りは春休みという事もあって、平日にも関わらずとても賑わっている。
さらにこれが休日ともなると親子からカップルまで、様々な人々でひしめき合う空間になる。
欲しい物はあらかたここで揃うので、京介達が買い物の為に電車を利用する機会は滅多に無い。
「しかし、日本という場所は凄いのですね。私が暮らしていた場所とはまるで違います」
周りをキョロキョロ見回しながら関羽が言う。
「そりゃあ、二人が暮らしていたのって西暦二百年くらいなんだろ? もう今は西暦二千年を過ぎてる訳だし……」
「うむ。一年は物凄く長いからな。千八百年っていったら、想像もつかないくらい長いんだろうな」
京介を中心に、右に関羽。左に張飛。京介は、端から見たら、美少女二人を連れて歩くプレイボーイ状態だ。
周りの京介に対する視線は、それはそれは鋭かった。しかし当の本人は特に気にしていない……と言うより、京介はただの鈍感なので、この場合は気付いていない、が正しいと思われる。
「ここ、ここ。ここで計ってもらうんだ」
京介はデパートの七階にある洋服屋の前で止まり、そこを指差し言った。
そこでは新入生と、その親とで賑わっていて、店内は大忙しだった。
「私達くらいの年の人が沢山いますね」
と、関羽。
「張飛より強い奴はいるのか?」
何の種目で? と京介は思う。
「いらっしゃいませ」
と、その光景をぼーっと眺めていた三人に店員が話掛ける。
そこからは、最悪でも”ハイ”と”イイエ”だけが言えればサイズが計れるので、張飛や関羽でも簡単にサイズを計測する事ができた。
長くなりすぎてもアレなんで、微妙な場所ですが、切りました




