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8.自分の力で駆け上がる

 近衛隊に無事入隊した琳華(リンカ)が配属されたのは、朝廷警護だった。


(本当は、後宮が良かったけれど――)


 後宮なら、お方さまにまた会える。自分は女性だし、後宮へ配属される可能性が高いのではとひそかに期待していただけに、落胆も大きかった。


(でも、頑張ろう)


 朝廷は、多くの官吏が出入りし、政務を行う。官吏一人一人の名前と官職を覚えるのが、最初の仕事だった。


(朝廷なら、慧(ケイ)さまもどこかにいるのかも)


 そう思うが、今のところは見たことがない。


 琳華は、故郷の領主さまの執務所と後宮しか見たことがない。それに比べて王宮の朝廷は、想像を絶する広さと人数の多さだった。


 そして、それを守る警護も多く配置されている。琳華が任されたのは、国内の地理を扱う部署の警護だった。


(とりあえず、全員のお名前と官職を覚えよう)


 どうしたらお方さまのように上へあがれるのか、まだ分からない。今の自分にできる精一杯のことをするだけだ。


(あとは、剣の稽古)


 今までは体術ばかりで、武器を持ったことがなかった。


(うまく使えるようになろう)


◆


 一年が経った。


 琳華は相変わらず見習いのような状態だ。上の指示を仰ぐだけの、下っ端近衛士である。


 それでも剣の稽古は怠らなかった。管理職へ行くための七試のうち、すでに五つは合格している。

 もちろん、最初の目標にしていた、全員の名前と官職も覚えた。それだけではなく、それぞれの関係性もさりげなく見ている。


 そんなある日、部署替えで新たな人物がやってきた。


 この部署では上位の席に座り、周囲の者たちからは明らかに一目置かれた扱いを受けている。


「殿下、こちらの書類を」


 と、一人がその人物に書類を渡す。


(あの方は、王子なんだ……)


 琳華は、こっそりとその姿を見た。


(慧さまよりは、年上みたい。しかも品がおありだわ)


 王族の中で、どのくらいの順位なのかは分からないが、周りの敬意の払い方から、なかなか上なのであろうと思った。


(慧さまも、あのように敬意を払われているのだろうか)


 なんとなく、その扱いは想像できない。


(変なことをしていなきゃいいけれど)


 その時、誰かが部署を訪ねてきた。琳華の上官が対応している。


(誰かしら)


 その客人は、見たことはない。


 琳華は、この部署の人間だけではなく、よく出入りする人物もちゃんと頭に入れていた。


 気になって見ていると――音もなく上官が倒れた。


(賊!?)


 すぐにその男のほうへと向かう。倒れた上官は、すでに白目を向いている。


「賊です!皆様、お逃げください!」


 そう言いながら、男と対峙する。


 琳華の声で、その場は恐慌状態に陥った。警護の同僚は、上官からの指示がなく、どうしたらいいのか分からないようだ。


(とりあえず、王子の安全)


 賊は、琳華と剣を交えながら、中へ入ろうとしている。その目はやはり、王子を狙っている。


「殿下、お逃げください!あなた!殿下をお守りして!」


 同僚の一人に指示を出す。凍り付いていた彼はハッとし、動き始めた。


「あなたは、他の方々を逃がして!あなたは、隣の部署へ行って、助けを求めて!そちらの方は、入り口をふさいで」


 そう言いながらも、賊の剣を受け続ける。


(お願い、早くみんなを逃がして)


 自分の力量では、そう持たない。


(はあっ……はあっ……)


 息が上がる。


(もっと全体を見るんだ)


 お方さまの言葉を思い出す。


(今見るのは、賊だけじゃない。全体)


 退避は進んでいる。王子はもう、逃げおおせたようだ。同僚がすぐ近くで、入り口をふさいでいる。


(あの人は)


「私と替わって!私じゃもう持たない」


 その同僚に声をかける。たしかこの人は、かなり剣技が冴えていたはずだ。


 同僚はすぐに琳華と替わってくれた。


(やっぱり。さすがだ)


 同僚が賊を押さえてくれている間、琳華は賊に逃げられないように、入り口をふさぐ。


 同僚が、賊の剣を飛ばす。そのまま、体当たりをした。倒れた賊を、後ろ手に拘束する。


「良かった……ありがとう」


 琳華も、その拘束に手を貸す。やっと、隣の部署から加勢がきた。


(ふう……)


 琳華はその場でへたりこんだ。


(守りおおせた……)


◆


 琳華はこの襲撃がきっかけで、近衛の校尉に任ぜられた。数人を束ねる下級指揮官だ。


(私が賊を倒したわけじゃないのに)


 それでも嬉しかった。


 その場にいた同僚や官吏たちに加え、何より王子――東宮さまの弟君だったらしい――が推薦してくれたと聞いた。


(もっと剣技を鍛えたい)


 技量が十分なら、もっと余裕を持って戦えた。戦いながらも、考えることを止めず、広く全体を見て、指示が出せる。


(頑張ろう)


 自分の力で駆け上がる。その第一歩を踏み出せた。


(お方さまも、こんなお気持ちだったんだろうか)


 それはとても清々しく、誇らしい気持ちだった。

お読みいただき、ありがとうございます!

続きは今日の夜、投稿予定です。


感想、ブクマ、リアクション、評価★★★★★などとても励みになりますので、よろしくお願いします!!!

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