6.二人でそろって城下町へ
季節は巡る。慧は13歳、琳華は15歳となった。
今日は二人で、ある作戦を実行する。下準備をし、夜になるのを待っていた。寝室へ行き、寝たふりをする。
慧の母が屋敷を出る音がした。今日、彼女は主上に呼ばれていると、事前に聞いていた。二人は目を合わせる。
準備は万端だ。昼間の間にできるだけ下見をした。地図だって手に入れた。何度か夜に抜け出して、ある程度のルートは確認している。そして、肝心の明かり。
(子供の頃には、そんなことすら思いつかなかった)
今日、二人はこっそり城下町へ繰り出す。
「行こう」
慧の声に、琳華は頷いた。
宮を出て、塀を抜けて、藪へ。
子供の頃と違って体が大きくなったから、塀の隙間を抜けるのは少し苦労した。
藪のルートも分かっている。昼間のうちに何度か忍び込み、目印を置いておいた。
子供の頃にはできなかった大それたことを、今日は成し遂げる。
「琳華」
差し出される手を琳華は握る。
「藪を抜けたら竹林だ」
「ええ」
下調べのとおり、竹林が現れる。しばらく歩くと岩山にぶつかった。それを左に折れれば、竹林を切り開いた道に出るはずだ。
下見もすんでいる。地図も明かりもある。
「慧さま、道が」
「うん」
この道を下れば、城下町に着くはずだ。
高揚する心が抑えきれない。慧はもっとだろう。生まれてからこのかた、城下町を見たことがないはずだ。
眼下に城下町の明かりが見えてきた。
「やったー!」
二人はほぼ同時に走り出していた。
明るい城下町。人がたくさん歩いている。お店だって開いている。
町の人は、自分たちのことをまったく気にしていないようだ。慧が宮をうろつけば、仮にも王子だから最敬礼をされ、道を譲られる。でも、ここでは誰も、慧を顧みない。
「これが、城下町」
慧が立ち止まった。ぐるりと周囲を見渡す。
「知らない顔がいっぱい。知らない建物がいっぱい。すごいよ、琳華!」
「はい!」
ずっと計画していたことを、ついに成し遂げた。その達成感でいっぱいだ。
そのまま意味もなく町をうろつく。何を見ても飽きなかった。
「抜け出し、バレてないかな」
「お方さまなら、まだ主上とお話しているはず。大丈夫でしょう」
「もしバレてたら、一緒に怒られてくれる?」
「はい、もちろん」
「ありがとう」
足が向くまま、二人は何となく歩いていた。
すると、慧が立ち止まった。
「ねえ琳華」
と、慧が振り返る。町の明かりと、空に浮かぶ半月が、彼を浮かび上がらせる。
「今日、町に来られたら、琳華に言おうと思ってたことがあるんだ」
「なんでしょう」
慧は、琳華に一歩近づく。その手を取り、じっと見上げてきた。
「大人になったら、俺と結婚してほしい」
あまりにまっすぐな言葉に、琳華は息をのむ。
「慧さま……」
胸の奥が詰まる。目を伏せ、口をきゅっと引き結ぶ。
――それは無理だ。
王族と、地方軍人の娘。身分が違いすぎる。
(でも)
無理だとは言いたくない。かといって、無責任な約束もしたくない。
琳華は顔を上げた。
「お気持ち、嬉しいです」
それだけを言って、琳華は微笑んだ。
(この人も、大人になれば、その道理が分かるはず)
(それに――)
お役目が終わったら、自分は故郷に帰る。もう会うこともないだろう。
月に見守られながら、二人は帰路に就く。町は名残惜しいが、あまり長く寝所を空けていられない。
「すごく楽しかった!また来ようね、琳華!」
慧がキラキラした笑顔で振り返る。少し癖のある黒髪が、月夜に舞う。
慧の言葉に、琳華は曖昧に頷いた。あと半年で、王子は14歳になる。それは、別れを意味する。
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