↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/30

10.琳華が我が家にやってきた

 新しく来る護衛が琳華《リンカ》と聞いて、慧《ケイ》は色めき立った。


 今まで、いろいろな護衛や近侍が来た。


(どいつもこいつも、つまらないやつばかりだった)


 近侍は、やれ早く起きろだの、勉強をしろだの、服を整えろだの口うるさい。

 護衛は、一定の距離を保って、暗い顔でついてくるから鬱陶しい。話しかけても、おもしろくもない返事が返ってくるだけ。


 幸い自分は馬鹿王子で通っている。おかしなことをしても、またか、と思われるだけ。困らせて追い出すのも簡単だ。


 そこへ。


(琳華――)


 あの、後宮での六年間が思い出される。師のようで、友人のようで、姉のような人。


 おそらく、傅役をしていた過去があるから、この馬鹿王子を立て直すために、琳華が呼ばれたのであろう。


(三年半ぶりか)


 衿を正し、家にある中で一番整っている帯を締める。


(他の帯はもう、ねじねじにしたからな。残っているのはこれくらいだ)


 飾りが多くてねじりにくいし、重くて着け心地がよくない。だから、ほとんど使ったことがない。


 そわそわと来訪を待っていると、果たして琳華が来た。少し赤みがかった黒髪が風に流れ、蘇芳色の衣がひるがえる。袖の金糸の刺繍が、陽光にきらめいた。腰に佩いた剣が、歩くたびに揺れる。


 久々に見る琳華は、相変わらず凛々しい。


 家の門で待っている自分に気づいたのだろう。彼女は走り始めた。


「琳華!」


 慧も走り、昔のようにその胸に飛び込む。が、自分のほうが背が高く、抱きしめる格好になった。


「殿下、お久しゅうございます」


 髪が撫でられる。昔と変わらない、優しい感触。


(殿下って……)


 その呼び方は、距離が遠くなったみたいで嫌だ。あの、最後の別れの時も、殿下って呼ばれて悲しかった。


「昔みたいに、慧でいい」

「では、慧さま」


 抱擁を解き、琳華の肩に手を乗せる。琳華を見下ろすのも新鮮だ。琳華は穏やかに微笑みながら見上げてくる。


「琳華」


(約束は、覚えているだろうか)


「俺、あと半年で成人するんだ」

「おめでとうございます、慧さま」

「そうしたら――俺と結婚してほしい!」


「……は?」


 琳華の眉がピクリと動く。これは、もうすぐ怒るときの合図。


「殿下。お気持ちは嬉しいですが、身分が違いすぎます」


 丁寧で当たり障りのない断り文句。身分が違うことは、自分だって知っている。


「そんなこと関係ない!成人したら、琳華を妻に迎えるってずっと決めてた」


 だって、そう決めた。絶対に、琳華を妻にするって。


 琳華は、ふうっと息をついた。


 これは、ちょっとしたお説教をするときの合図。


「あんなに教えて差し上げたものの道理を、すっかりお忘れになりましたか?そんな甘ったれたことを言っていないで、さっさと勉強を始めましょう」


 ほら。お説教が来た。


(琳華だって、何にも分かってない)


 俺は琳華に説教されるのが、大好きだってことを。

お読みいただき、ありがとうございます!

感想、ブクマ、リアクション、評価★★★★★などとても励みになりますので、よろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。