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マナ・スクランブル!〜借金返済のため、天才魔術銃士と脳筋剣士は今日もノンストップで大暴れ!〜  作者: 牧野ハル


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第8話:古代の娯楽施設で大暴れ! 輝くネオンと砕け散る欲望

ドッゴォォォォォォォォォォォンッ!!!


空間の歪みを吹き飛ばす、あたしの魔銃「カノン」の極大爆発。


その凄まじい爆風と推進力に乗って――というより物理的に吹き飛ばされて、あたしたちは階層を隔てる分厚い天井の穴を抜け、さらに上の階層へと勢いよく放り出された。


「きゃあああああああっ! 着地! レオン、着地頼むぅぅぅっ!!」


「ガハハ! 任せろマール! 俺の筋肉が最高のクッションだ!」


ズシィィィィィンッ!!


レオンが空中で体を反転させ、あたしを抱え込んだまま、見事なスーパーヒーロー着地を決めた。


ただし、床にはしっかりクレーターができている。


もうもうと立ち込める土煙の中で、あたしはゴホゴホと咳き込みながら顔を上げた。


「……ゲホッ、ゴホッ! むちゃくちゃなショートカットだったけど、とりあえずあの狂った無限階段からは抜け出せたみたいね……。ここ、どこよ?」


土煙が晴れていくにつれ、あたしの視界に飛び込んできたのは、要塞の無骨な鋼鉄の壁……ではなかった。


『ピロリロリロリ〜ン♪ キュインキュイーン!』


「……は?」


どこからともなく流れてくる、やけに陽気で軽快な電子音。


そして、通路の奥から眩いばかりに輝く、赤や青、黄色のド派手なネオンサインの光。


床にはふかふかの赤い絨毯が敷き詰められ、壁には古代語で書かれているが、何やら「一攫千金!」とか「今夜の勝者は君だ!」みたいなテンションの高いポスターがベタベタと貼られている。


殺戮兵器であるはずの要塞内部に、どう考えても場違いすぎる空間が広がっていた。


「ピキュ。現在地、第八層『士官用・総合娯楽施設カジノ・エリア』デス。過酷ナ任務ニ就ク古代ノ要塞乗組員タチガ、ストレス発散ト給料ノ奪イ合イヲ行ウタメノ施設デス」


レオンの頭の上で、ナビコがアンテナをピコピコさせながら解説する。


「カ……カジノォォォォッ!?」


あたしは弾かれたように立ち上がった。


カジノ。


それはつまり、ギャンブル。


ギャンブル。


それはつまり、お金!!!


「ねえナビコ! 古代の娯楽施設ってことは、ここにあるスロットマシンとかには、当時の『古代金貨』がそのまま残ってるってことよね!?」


「ピキュ。肯定シマス。施設内ノ金庫及ビ各遊戯台ニハ、推定数百万枚ノ古代金貨ガ保管サレタママニナッテイマス。ナオ、古代金貨一枚ハ、現代ノ市場価値デ金貨百枚相当ノ歴史的価値ガ――」


「金貨百枚相当!!!」


あたしの両目に、カッとドル袋のマーク……いや、金貨の山が浮かび上がった。


数百万枚の古代金貨。


それが、目の前の機械の中に眠っている。


ということは、これをちょっと物理的に拝借すれば、森を吹き飛ばした賠償金なんて一瞬でチャラになるどころか、一生遊んで暮らせる大富豪になれるじゃないの!!


「やった……やったわ! さすがはあたし、日頃の行いが良いから神様がボーナスステージを用意してくれたのよ! レオン! 遊びよ! ここにある機械を片っ端からぶっ壊して、中身の金貨を回収するわよ!」


「お、おいマール。さっきまで『お腹が空いた』と死にかけていたのに、急に元気になったな。それに、遊びにしては目が完全に血走っていて怖いぞ」


「うるさい! 欲望に目がくらんだあたしを止められると思うな! 行けぇぇぇぇっ!」


あたしは完全に理性を金欲に塗り潰され、両手に魔銃を構えたままカジノエリアの奥へと猛ダッシュした。


ズラリと並ぶ、古代の魔導スロットマシンやルーレット台。


よーし、まずはあのピカピカ光ってる一番デカい機械から――!


「お? マール、なんだか奥の方に、ひときわデカくて面白そうな闘技場があるぞ!」


あたしがスロットマシンに飛びつこうとした瞬間、レオンの声が響いた。


振り返ると、彼はカジノの最奥部に設置された、ドーム状の巨大なステージの前に立っていた。


「ちょっとレオン! 勝手にフラフラしないの! 今は金貨の回収が最優先――」


『ウィィィィィン……! Welcome to the Ultimate Combat Simulator!』


あたしがレオンに駆け寄った瞬間、ドーム状のステージが突然眩い光を放ち、周囲のスピーカーから仰々しいアナウンスが響き渡った。


「ピキュ。コチラハ『超高精細・体感型ホログラム戦闘シミュレーター』デス。カジノ内デモ最モ高額ナ掛け金ガ動ク、目玉アトラクションデス」


ナビコの説明と同時に、ステージの中央に青白い光の粒子が収束していく。


そして、光の中から姿を現したのは――見上げるほどに巨大で、全身を黄金の鱗で覆われた『エンシェント・ドラゴン』だった。


「グオォォォォォォォォォォッ!!」


空間を震わせる凄まじい咆哮。


放たれる圧倒的なプレッシャーと、鼻を突く獣の匂い。


「ちょっ、なによあれ! ホログラムのくせに、本物そっくりじゃない!!」


「ピキュ。視覚、聴覚、嗅覚、サラニハ局所的ナ熱量操作魔法ヲ組ミ合ワセタ、完全再現ホログラムデス。ナオ、コノ機械ノ『ジャックポット』ヲ引ケバ、賞金トシテ古代金貨一万枚ガ排出サレマス」


「一万……ッ!?」


あたしの足が、ピタリと止まった。


古代金貨一万枚。


現代の価値にして、金貨百万枚。


国が買える。いや、小さな大陸なら買えるかもしれない。


「ゴクリ……。ね、ねえナビコ。そのジャックポットの条件は?」


「ステージ上ニ出現シタ仮想敵ヲ、制限時間内ニ『規定ノルールニ則ッテ』撃破スルコトデス。タダシ、機材ヲ破損サセタ場合ハ失格トナリマス」


「なるほどね……」


あたしはニヤリと、よからぬ笑みを浮かべた。


幻影が相手なら、こっちが怪我をするリスクはない。ルールに従って大人しくゲームをクリアするだけで、一生遊んで暮らせる超絶大金持ちになれるのだ。


「レオン! 聞いたわね! あの黄金竜を倒すのよ! ただし、機材を壊したら失格だから、絶対に周りの壁や機械本体には傷をつけないように、スマートに戦うのよ!」


「なるほど! つまり、あのデカいトカゲの幻影だけを綺麗に真っ二つにすればいいんだな! 任せろ!」


レオンが背中の大剣を抜き放ち、ステージの上へと跳躍した。


「さあ来い、黄金竜! 幻影とはいえ、その威圧感は本物だ! 俺の剣の錆にしてやろう!」


「グァァァァァッ!!」


黄金竜のホログラムが大きく口を開け、灼熱の炎――熱量操作魔法による疑似ブレスを吐き出してきた。


「熱ッ!? ちょっと、幻影のくせに普通に熱いじゃないの!」


ステージの外にいるあたしにまで熱風が届く。どうやら『体感型』というのは伊達ではないらしい。


「ガハハ! ぬるい、ぬるいぞ! ――シィィィッ!!」


レオンは炎のブレスを正面から大剣で強引に切り裂き、そのまま黄金竜の懐へと飛び込んだ。


そして、渾身の力を込めて、下から上へと巨大な剣を振り抜く。


「一刀両断ッ!!」


ズバァァァァァァァァァンッ!!!


レオンの大剣が、黄金竜の巨体を顎から脳天にかけて、見事に真っ二つに斬り裂いた。


光の粒子となって霧散していく黄金竜のホログラム。


「やった! さすがレオン! これで賞金はあたしのもの――!」


あたしが歓喜の声を上げようとした、その時だった。


メキメキメキッ……ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!


「……え?」


あたしの視界の中で。


レオンが振り抜いた大剣の余波が、黄金竜のホログラムを通り抜け、その後ろにあったステージの防護壁、さらにはシミュレーターの心臓部である『超高額・古代プロジェクターレンズ』を、壁ごと物理的に粉砕していた。


パラパラと、崩れ落ちる古代遺跡の天井。


バチバチと火花を散らし、黒煙を上げる巨大な娯楽機械。


「よーし! マール、綺麗に幻影だけを斬ったぞ! 俺の剣筋は完璧だ!」


残骸の山の上に立ち、レオンが大剣を肩に担いで爽やかにサムズアップをしてくる。


「…………」


あたしは、無言で両膝から崩れ落ちた。


完璧?


どこが完璧なものか。


幻影、つまり質量ゼロの相手を全力で斬り抜ければ、その勢い余った剣が後ろの機械に直撃することくらい、三歳の子供でも分かる物理法則だ。


なぜ、この男の筋肉は、常に手加減というものを知らないのか。


『ピロリロリロリ〜ン……ブツッ。システム・エラー。重大ナ機材破損ヲ検知』


火花を散らす機械から、先ほどの陽気なアナウンスが、今度は地を這うような低いエラー音声へと変わった。


「ピ、ピキュ。警告。シミュレーターノ完全破壊ヲ確認。ルール違反ニヨリ、ジャックポットハ没収サレマシタ」


「あ……ああ……あたしの、一生遊んで暮らせる夢の配当金が……」


あたしは床の赤い絨毯をガリガリと掻き毟りながら、血の涙を流した。


「サラニ、警告シマス。当施設ノ『最重要文化財級・特注シミュレーター』ノ破損ニ伴イ、侵入者ペナルティトシテ、修理費・古代金貨五万枚ガ、貴方タチノ負債データニ追加サレマシタ」


「…………ご、五万枚?」


現代の価値にして、金貨五百万枚。


ささやきの森を更地にした賠償金の、ざっと千倍の金額である。


「マール? どうした、また腹が減って倒れたのか?」


瓦礫の山から降りてきたレオンが、不思議そうにあたしの顔を覗き込んでくる。


「…………」


あたしはゆっくりと立ち上がった。


右手には銀色のカノン。


左手には漆黒のフリューゲル。


両手の魔銃の撃鉄を、静かに起こす。


「お? マール、なぜ俺に銃口を向けている? まだ敵の残党がいるのか?」


「……レオン」


あたしの声は、地底の底から響く呪いのように低かった。


「アンタのその脳筋、今日こそ物理的に粉砕して、脳みそのシワの数を数え直してやるわァァァァァァァッ!!!」


「なっ!? 待てマール! なぜお前の銃口から、先ほどの『空間ごと吹き飛ばした』のと同じ青白い光が漏れている!? それは味方に向けていい火力では――!」


「問答無用! 借金地獄に落ちなさぁぁぁぁぁぁいっ!!」


ドッッッッッッッッカァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!


古代の娯楽施設に、本日何度目か分からない特大の大爆発が響き渡った。


カジノのネオンサインは木っ端微塵に砕け散り、スロットマシンもルーレット台も、すべてが平等に灰燼に帰していく。


あーあ。


もうどうにでもなれ。


借金がいくら増えようが、この要塞の最深部にある中枢核コアを叩き壊して、全部有耶無耶にしてやる。


むしろ、要塞ごと世界を吹き飛ばして、借金という概念そのものを消し去ってやるわ。


ネオンの残骸と硝煙の中、あたしたちのドタバタ要塞攻略戦は、さらに取り返しのつかない方向へ転がっていった。

最後まで読んで頂いてありがとうございます!

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