第4話:スマートな潜入。そして出会いは突然に
「天才魔術銃士の最高にスマートな『鍵開け』、見せてあげるわ!!」
あたしは血を吐くような思いで、右手の魔銃「カノン」の引き金を絞り込んだ。
装填されているのは、あたしの全財産(金貨50枚)を叩いて裏ルートから仕入れた『対城壁用・超高圧縮指向性魔力爆砕弾』。本来は分厚い城壁に風穴を開けるための、れっきとした兵器だ。
銃身に刻まれた魔力回路が限界を超えて赤熱し、周囲の空気が陽炎のように歪む。
「消し飛びなさぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
引き金を引いた瞬間、カノンの銃口から放たれたのは弾丸ではなかった。それは純粋な破壊のエネルギーを極限まで圧縮した、極太の光の奔流。青白い閃光が、一切の物理攻撃を無効化するはずの古代の魔法障壁に激突する。
『ピピッ……警告、許容値ヲ超エル魔力エネルギーヲ検知。防壁、崩壊シマス』
どこからか無機質な機械音声が響いたかと思うと、パリンッ! とガラスが割れるような甲高い音を立てて、不可視の魔法障壁が粉々に砕け散った。
しかし、光の奔流はそれだけでは止まらない。障壁を突破した破壊エネルギーは、その奥にある巨大な鋼鉄の扉そのものを、中心から円形にドロドロに溶かしながら、要塞の内部へと吹き飛ばしていった。
ズドドドドォォォォン……ッ!!
凄まじい衝撃波とバックドラフトが吹き荒れる。
あたしたちの背後に迫っていた千体近い防衛ゴーレムの群れは、扉が吹き飛んだ余波と爆風だけで、まるで木の葉のように空の彼方へと消し飛んでいった。
「……ふぅ。どう? これがあたしの実力よ」
銃口から立ち上る硝煙をフッと吹き消し、あたしは完璧なドヤ顔をキメた。
目の前には、巨大な要塞の壁にぽっかりと空いた、直径十メートルはあろうかという大穴。見事なまでの侵入口の完成である。
「おお! 素晴らしい威力だなマール! あの絶対に斬れない結界を、まさか力技でこじ開けるとは! 確かにこれは『スマートな鍵開け』だ!」
レオンが大剣を背中に収めながら、無邪気に拍手喝采を送ってくる。
「……うるさい。アンタは黙ってて」
あたしはその場にガクリと膝をついた。
スマート? どこがスマートなものか。あたしの心には今、金貨50枚分のぽっかりとした大穴が空いている。一回の攻撃で、王都の一等地に立つレストランで一年間毎日フルコースを食べられるだけの金額が、文字通り「消し飛んだ」のだ。
これはもう、依頼を成功させて借金をチャラにしてもらうだけでは割に合わない。要塞の中にあるお宝の二つや三つ、絶対に失敬してやらないと気が済まないわ。
「マール、いつまで地面の石を数えているんだ? 早く中に入ろうぜ」
「誰のせいでこんな貧乏くじ引いてると思ってるのよ……っ! 行くわよ!」
あたしはフラフラと立ち上がり、レオンと共に、まだ周囲の金属が赤熱している大穴から要塞の内部へと足を踏み入れた。
要塞の内部は、外観の武骨さからは想像もつかないほど、異質で洗練された空間だった。
壁や床は、継ぎ目の一切ない未知の合金で覆われており、そこかしこに青白い光を放つ魔法陣のラインが脈打っている。空気にはカビのような匂いと、数百年分の古い埃の匂いが混ざり合っていた。
「すごいわね……。これが、失われた古代魔法文明の内部。歴史学者が見たら、狂喜乱舞して卒倒するレベルの遺跡よ」
「なんだか、薄暗くてカビ臭いな。俺はささやきの森のような、自然豊かな場所の方が好きだ」
「その自然豊かな森を更地にした張本人がどの口で言うのよ。……いい? レオン。ここはただの遺跡じゃないわ。現在進行形で稼働している『自動殺戮兵器』の中よ。どんな凶悪なトラップが仕掛けられているか分からないんだから、絶対に、何があっても、勝手に変なところに触るんじゃな――」
「む? 壁にこんな真っ赤な水晶が埋まっているぞ。なんだこれは?」
ポチッ。
「あああああアンタって奴はああああああっ!!」
あたしの忠告をコンマ一秒でガン無視し、レオンは壁に突き出ていた、いかにも『押してはいけません』と全身で主張している赤い水晶体を見事に押し込んでいた。
『侵入者ヲ検知。第三区画、防衛システムヲ起動シマス。排除、排除、排除』
けたたましいサイレンが通路全体に鳴り響き、壁のラインが青から危険な赤へと変色する。
天井の至る所から、先ほどのゴーレムよりもさらに重武装で、両腕に回転式の銃座を備えた新型の防衛兵器が何体も降ってきた。
「レオン! アンタの脳みそは一回解剖して中身を洗った方がいいわね! 迎撃よ!」
「ガハハ! 退屈しなくていいじゃないか! 行くぞ!」
レオンが嬉々として大剣を抜き放ち、前方の機体へと突撃していく。
あたしも舌打ちをしながら魔銃を構えようとした、その時だった。
カパッ。
あたしの真上の天井のハッチが開き、そこから何かがポロリと落ちてきた。
新しい防衛兵器か!? と身構えたが、落ちてきたのは、両手で包み込めるほどの小さな物体だった。
ぽふっ。
「……は?」
それは、レオンの頭の真上に、見事な放物線を描いて着地した。
丸っこい金属のボディ。そこからちょこんと飛び出した短い手足。頭 (?)の上には、ウサギの耳のような二本の長いアンテナがピコピコと動いている。
質感は完全に金属の塊なのだが、フォルムがやけに丸っこくて……なんだか、小動物のようなのだ。
「ピキュィィィ!」
そいつはレオンの頭の上で、金属音とは思えない可愛らしい鳴き声を上げた。そして、レオンの金色の髪の毛に短い手足でしがみつき、スリスリと頬擦り(金属なのでガリガリという音がしているが)を始めたではないか。
防衛兵器を叩き斬っていたレオンが、動きを止めて目を瞬かせる。
「おお? なんだお前は。また新しい森の仲間か?」
「こんな鉄と油の匂いがする森の仲間がいるか! っていうか、なんでアンタ、古代兵器の謎の機械にまで懐かれてるのよ! どんだけ動物に好かれるフェロモン出してるの!?」
レオンの体質には度々驚かされてきたが、まさか無機物にまで適応されるとは。
「ピキュ! 認証コード確認。新規管理者『レオン』ヲ登録シマシタ」
丸っこい機械が、突然流暢な言葉で喋り出した。
その頭のアンテナから青い光が放たれ、空中に複雑な要塞の立体マップのホログラムが浮かび上がる。
「個体名・ナビコ。コレヨリ、新規管理者ノサポート及ビ、要塞内部ノ案内ヲ開始シマス」
「案内!? ちょっと待って、アンタ、この要塞の地図を持ってるの!?」
あたしは身を乗り出した。
こんな巨大で複雑な要塞の中、コアへの道順なんて手探りで見つけるしかないと絶望していたのだ。
「ハイ。中枢核コア、マデノ最短ルートヲ検索……完了シマシタ。コレヨリ、ナビゲートヲ行イマス」
「やった! さすがあたし、日頃の行いが良いから幸運の女神が微笑んだわ! レオン、でかしたわよ!」
「よくわからんが、こいつがいれば迷子にはならないということだな。よろしく頼むぞ、ナビコ」
レオンが頭の上の機械を撫でると、ナビコは「ピキュゥ♪」と嬉しそうにアンテナを揺らした。
ナビコの立体マップによる案内は、非常に正確だった。
入り組んだ通路を迷うことなく進み、要塞の奥深くへと順調に足を進めていく。
「次ノ交差点ヲ右デス。……警告。前方ニ、レベル5ノ物理防壁ドアガアリマス」
ナビコの音声と共に、あたしたちの目の前に、通路を完全に塞ぐ分厚い鋼鉄の隔壁が立ち塞がった。
表面には先ほどよりもさらに複雑なパスワード入力用のパネルがある。
「コノ先へ進ムニハ、古代暗号128桁ノ入力ガ必要デス」
「128桁!? 無理よそんなの! 諦めて別のルートを探すしかないわ!」
「パスワード入力規定回数ヲ超過シタ場合、通路一帯ニ高熱ガスガ噴射サレマス」
「完全に詰みじゃないの!!」
あたしが頭を抱えていると、横からレオンがスッと前に出た。
「任せろマール。ここは俺の『スマートな方法』で解決しよう」
「は? アンタに暗号解除なんて高等技術ができるわけ――」
レオンはパネルを一瞥すらしなかった。
彼は背中の大剣を上段に構えると、分厚い隔壁……ではなく、『隔壁のすぐ横の、ただの通路の壁』に向かって、渾身の一撃を振り下ろした。
ズガァァァァァァンッ!!!
強烈な剣圧と破砕音が響き渡る。
隔壁自体は強固な防壁で守られていたが、その横の普通の壁は、レオンの規格外の筋力の前には豆腐も同然だった。
壁面が盛大に崩落し、隔壁を完全に迂回する形で、新しい道が開通した。
「よし、開いたぞ。進もう」
「……」
『エラー。エラー。規定外ノ侵入ルートデス。システムニ存在シナイ、物理的バイパスヲ確認』
ナビコがレオンの頭の上でパニックを起こしてピコピコと点滅している。
「気にしないでナビコ。これがアベニール流の『スマートな潜入』よ。考える前に壊す。これが一番手っ取り早いのよ」
あたしは完全に感覚が麻痺してきた頭で、そう嘯いた。
その後も、あたしたちの進撃は止まらなかった。
「警告。前方ニ高出力レーザー網ガ――」
「そこッ!」
レーザーの隙間を縫うのではなく、あたしが普通の魔力弾でレーザーの発生装置そのものを壁ごと撃ち抜いて粉砕。
「警告。床下ニ落とし穴トラップガ――」
「ふんッ!」
レオンが踏み込みの力だけで床を丸ごと陥没させ、トラップの機構ごと下の階層へと叩き落として無効化。
もはや潜入ではない。ただの破壊と蹂躙である。
しかし、結果としてあたしたちは、驚異的なスピードで要塞の中枢部へと続く「メインエレベーターホール」らしき巨大な空間へと辿り着いた。
「ピキュ! 目的地周辺ニ到着シマシタ。コノ先ガ、中枢核コアデス」
ナビコの案内が終了したその時。
パチパチパチパチ……。
だだっ広いホールの奥から、乾いた拍手の音が響いた。
「いやはや。まさか絶対防壁のイージスゲートを正面から破り、さらに内部構造を物理的に破壊して、ここまで最短ルートで来るとは」
機械音声ではない。
明らかな、人間の、それも若い男の声だった。
「……誰よ、アンタ」
あたしは両手に魔銃を構え、暗がりを睨みつけた。レオンも無言で大剣を構え、空気が一気に張り詰める。
ただの古代兵器の暴走。そう思われていたこの事件の裏に、明らかな『人為的な意思』が存在していることが確定した瞬間だった。
陰からゆっくりと姿を現したのは、黒い軍服に身を包んだ、銀縁眼鏡の男。
その口元には、あたしたちを嘲笑うかのような、冷たい笑みが浮かんでいた。
最後まで読んで頂いてありがとうございます!
ブクマ・評価・リアクションを押して頂けると嬉しいです!(◍•ᴗ•◍)




