第28話:レオンの一撃! 鋼鉄の山を断つ!
「ナビコが作ってくれた、三秒。……一秒で切り開いて、一秒でぶち込んで、一秒でお釣りを計算するわよ」
ナビコの命を懸けた物理ハッキングにより、古代の『絶対魔力防壁』がパキーンッと音を立てて砕け散った。
作られた猶予は、たったの三秒。
【残り時間:三秒】
『バ、馬鹿な!? 完璧なはずの防壁が……!』
ゼオン皇太子の幻影が、初めて余裕を失い、驚愕に顔を歪ませた。
だが、彼は腐っても帝国の次期皇帝。
咄嗟の判断力と、絶望的なまでの魔力は健在だった。
『防壁が消えたからどうした! この要塞はすでに私の手足! 魔法が通じないのならば、物理的な山で押し潰すまでだ!!』
ゼオンが漆黒の魔導杖を振りかざすと、要塞全体の構造が再びけたたましい轟音を立てて軋んだ。
ガゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
中枢核コアルームの分厚い合金の床と天井が、生き物のように隆起し、あたしたちと巨大なコアの間に、凄まじい勢いで壁として立ち塞がった。
いや、壁という次元ではない。
厚さ数十メートルはあろうかという、古代の超硬度合金の圧縮された『鋼鉄の山』
巨大な要塞の装甲そのものを引き剥がして形成された、最後の物理防壁だった。
『ハハハハ! どうだ! 魔力防壁を失おうと、厚さ数十メートルの鋼鉄の塊だぞ! 貴様らの豆鉄砲など、傷一つ――』
【残り時間:二秒】
「――レオン!!」
あたしは、目の前にそびえ立つ絶望的な鋼鉄の山を前にして、立ち止まることすらなく駆け出した。
その分厚さを絶望だと感じるような常識は、あたしの隣を走るバカには一切通用しないことを知っていたからだ。
「ガハハ! 魔法の壁より、物理的な鉄の壁の方が、ずっと親切ってもんだ!」
あたしの声に応え、レオンが猛然と前に出た。
彼の手に握られているのは、先ほどの激戦で刃こぼれし、ボロボロになった大剣。
だが、そんなことは関係ない。
今の彼に必要なのは、剣の鋭さではなく、それを振るうための純粋な腕力だけだ。
「ナビコが命を懸けて作った道を……俺の筋肉が塞がせたままにするものかァァァッ!!」
ズウゥゥゥゥゥン……ッ!!
レオンの全身の筋肉が、限界を遥かに超えて膨張した。
バツンッ! と音を立てて、ボロボロだった軍服の上着が完全に弾け飛び、大理石の彫刻のような、いや、それ以上に鋼のように研ぎ澄まされた極限の肉体が露わになる。
魔力ではない。
純粋な気合と筋肉の躍動だけで、周囲の空気がビリビリと震え、真空の刃――剣気が生み出されていく。
「アベニール流・最終奥義……!」
レオンは、大剣を上段に振りかぶり、鋼鉄の山へ向かって、全存在を乗せた一歩を踏み込んだ。
「――ただの大根斬りフルパワー・フルスイングッ!!!」
ズゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
レオンが大剣を振り下ろした瞬間。
剣の軌跡から放たれたのは、魔法の光ではない。
あまりにも理不尽なスイングスピードと質量が生み出した、純粋な大気圧の断層――衝撃波だった。
その透明な断層は、分厚さ数十メートルの古代超硬度合金の壁に直撃し――。
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
信じられない光景だった。
戦艦の突撃すら無傷で弾き返すはずの要塞の装甲が。
ゼオンが絶対の自信を持って展開した、厚さ数十メートルの鋼鉄の山が。
まるで、まな板の上の大根を包丁でスッと切るように。
何の抵抗もなく、中心から見事に真っ二つに両断されたのだ。
ズズズズズズ……ッ!!
綺麗に斜めに切断された鋼鉄の山が、自らの重みに耐えきれず、左右にズルリと滑り落ちる。
轟音と共に床へ崩れ落ちた鋼鉄の残骸の間から、再び、青白い光を放つコアと、驚愕に固まったゼオンの姿が露わになった。
『な……っ!? 厚さ、三十メートルの古代合金だぞ……!? それを、ただの剣気で、両断しただと……!? あり得ない! 物理法則を無視している!』
ゼオンの幻影が、あり得ないものを見るように絶叫する。
「ガハハ! 俺の筋肉に、斬れないものはない! ……あとは頼んだぞ、マール!!」
大剣を振り抜いた姿勢のまま、レオンが血を流しながらも、ニカッと歯を見せて笑った。
彼の作った射線。
鋼鉄の山をこじ開けた、完璧な一直線の道。
「……上出来よ、この筋肉ゴリラ!!」
【残り時間:一秒】
あたしは、レオンの横を疾風のようにすり抜け、彼が切り開いた道のド真ん中へと躍り出た。
両手には、銀色の『カノン』と漆黒の『フリューゲル』
王都滅亡へのカウントダウンが迫る中。
あたしの両手の魔銃には、借金と怒り、そしてナビコへの想いを込めた、残る二発の特級カートリッジが装填されていた。
「これで……最後よッ!!」
射線はクリア。
天才魔術銃士の、すべてを懸けた最後の一撃が、今、放たれようとしていた!
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