第23話:第一防衛ライン突破! いざ、中枢核コアへ
「王都消滅まで、あと三時間弱。……観念して、今すぐそのコンソールの自爆シークエンスを止めなさい」
要塞中枢、その最奥にあるはずの『中枢核コアルーム』
――だと、あたしは思っていた。
マール=アベニールは、銀色の魔銃「カノン」と漆黒の魔銃「フリューゲル」の二丁を構え、へたり込んだインテリ眼鏡・スナイダーの額に銃口をピタリと突きつけていた。
あたしの背後には、「とりあえず斬れば解決する」というゴリ押しによって、帝国の誇る最高峰の魔法障壁をただの腕力で粉砕した相棒レオンが、大剣を肩に担いで立っている。
「さあ、さっさと止めなさい。さもないと、残った特級カートリッジをアンタの眉間にぶち込むわよ」
あたしは物騒な脅し文句と共に、銃口をぐりっと押し付けた。
借金返済という切実な目的を邪魔する奴は、誰であろうと絶対に許さない。
「ヒッ……!」
スナイダーは恐怖に顔を引き攣らせた。
しかし、次の瞬間。
彼の口から、壊れたような低く不気味な笑い声が漏れ出した。
「……ク、クックック。止める? この私が、自爆シークエンスを止めるだと……?」
スナイダーはゆっくりと顔を上げ、割れた眼鏡の奥の瞳に狂信じみた光を宿してあたしを睨みつけた。
「思い上がるなよ、底辺の冒険者ども! 貴様らが突破したハインツ副隊長の障壁は、あくまでこのコントロールエリアを守る『第一防衛ライン』に過ぎない!」
「……は?」
「この要塞の真の心臓部……絶対防壁に守られた中枢核コアは、まだ貴様らの手には届かない場所にある! そして、すでにメルトダウンへの最終プロセスは、誰にも止められない状態に移行したのだ!!」
「ちょっと待ちなさいよ。じゃあ、ここはコアルームじゃなかったってこと!?」
「ええ。ここは中枢核を制御するための前室。貴様らが勝った気になっていたこの場所など、真のコアを守るための外殻に過ぎない!」
「先に言いなさいよ、そういう大事なことはァァァッ!!」
あたしが叫んだ瞬間、スナイダーが自身の軍服の胸元にあった隠しスイッチを力強く押し込んだ。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッ!!!
直後、要塞全体がひっくり返るのではないかというほどの、凄まじい地鳴りが巻き起こった。
立っていられないほどの激しい揺れに、あたしは思わずレオンの逞しい腕にしがみつく。
「な、なによ!? 今度は何が起きたの!」
「おお! 随分と元気な揺れだな! 地震か!?」
相変わらずレオンは、どんなピンチでも全く動じない強靭なメンタルを持っている。
「ピキュ! マール、マスター! 前方デス! コントロールエリアノ奥ノ壁ガ……開キマス!」
あたしの背中のポーチから顔を出したナビコが、アンテナを赤く点滅させながら警告を発した。
ナビコの言う通りだった。
スナイダーの背後にそびえ立っていた、ただの分厚い壁だと思っていた巨大な金属の面。
それが、中央から左右にゆっくりとスライドしていくではないか。
それは壁などではなく、真の最深部へと通じる『超巨大な隔壁』だったのだ。
ギギギギギ……ッ!
重々しい金属音と共に、扉が完全に開け放たれた。
その瞬間。
ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
「きゃあああああっ!?」
扉の奥から、凄まじい暴風が吹き荒れてきた。
いや、それは空気の移動によるただの風ではない。
高密度に圧縮されたマナが、物理的な圧力を持って空間に溢れ出した『魔力の暴風』だった。
あたしのチリチリになったアフロヘアーが、風圧で後ろに大きく引っ張られる。
「な、なんなのよこのプレッシャーは……っ! 息が、できない……!」
あたしは呼吸すら困難になるほどの重圧に、その場に膝をつきそうになった。
まるで、深海に生身で放り込まれたかのような、全方位からの圧倒的な圧迫感。
空気中に漂う魔力が濃すぎて、視界が青白く歪んで見えるほどだ。
「ハハハハハ! 感じるか、この絶対的な力を! これが、真の中枢核コアから漏れ出すエネルギーの奔流だ!」
強風の中でスナイダーが半ば狂ったように笑う。
「ピ、ピキュ……! アカンデス! 扉ノ奥ノ魔力濃度、測定不能! 中ニ入レバ、普通ノ人間ナラ一瞬デ細胞ガ魔力侵食サレテ、炭ニナリマスヨ!」
ナビコがポーチの中で、アンテナを必死にパタパタと動かして叫ぶ。
「そんな……! じゃあ、どうやって中に入ってコアを壊せばいいのよ!」
あたしが絶望しかけた、その時だった。
「ガハハハハ! 素晴らしい! なんと心地よい風だ!」
あたしの隣で、レオンが嬉々として一歩、前へと踏み出した。
彼の大柄で逞しい体が、凄まじい魔力の暴風を正面から受け止めている。
しかし、その顔には苦痛の表情など微塵もない。
むしろ、強敵を前にして戦意が高揚しているように見えた。
「レオン!? アンタ、平気なの!?」
「おう! なんだか肌がビリビリして、温泉に入っているようで気持ちいいぞ! 俺の筋肉が喜んでいる!」
「どんな神経と筋肉してるのよアンタは……っ!」
あたしはドン引きした。
どうやらこの男の規格外の筋肉は、致死量の魔力プレッシャーすら適度な刺激程度にしか変換しないらしい。
「さて、スナイダーとやら。お前の時間稼ぎもここまでだ」
レオンが大剣を構え、スナイダーを見下ろした。
普段はのんびりしているが、戦闘時の彼の目は猛獣のように鋭く光る。
「ヒッ……!」
スナイダーが後ずさりする。
「マール、こいつはどうする? 俺が峰打ちで気絶させておこうか?」
「……ううん、放っておきなさい。どうせこのまま要塞が自爆したらこいつも死ぬんだし、もうこいつから聞き出すパスワードなんて意味ないわ。時間の無駄よ」
あたしはフラフラと立ち上がり、魔銃をホルスターに収めた。
そして、気合を入れ直すように両頬をパンッ! と強く叩く。
「行くわよ、レオン。王都が吹き飛んだら、あたしたちの借金はチャラになるどころか、賠償金五千枚と弾薬費が全部自腹になるのよ! そんな大赤字、絶対に認めないんだから!」
お金への執着が、恐怖のプレッシャーを上回った瞬間だった。
「オォォッ! 美味い飯を食うためにも、こんなところで終わるわけにはいかんからな!」
レオンが同意し、あたしの前に立って風除けになってくれる。
「ピキュ……。ホンット、コノ二人ノ欲望、強スギテ引キマスワ……」
「うるさいわね! 欲望じゃなくて、生存戦略よ!」
あたしはレオンの背中にぴたりとつき、暴風の中へ一歩踏み出した。
青白い魔力の光が、肌を刺す。
肺が重い。
足が床に縫い付けられたように動かない。
それでも、前に進むしかない。
背後では、スナイダーがなおも狂ったように叫んでいた。
「無駄だ! 無駄だぞ! その先にあるのは神にも等しい古代の心臓! 貴様らのような下等な冒険者が触れられるものではない!」
「神様だろうが古代の心臓だろうが関係ないわよ!」
あたしは暴風に負けじと叫び返した。
「こっちは借金と弾薬費とケーキ屋の未来がかかってるの! その程度の神様なら、まとめて請求書の下敷きにしてやるわ!」
レオンの背中越しに、あたしは真の中枢核へと続く青白い光の奥を睨みつけた。
第一防衛ライン突破。
ついに、要塞の本当の心臓部へと踏み込んだ。
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