第19話:ナビコ奪還作戦! 怒りの弾丸は一直線
ズガァァァァァァァァンッ!!!!
あたしがヤケクソの『全方位・絶望の乱れ撃ち、フル・バースト・パニック』で、三十名の精鋭工作員たちをまとめて黒焦げのオブジェに変えた、まさにその瞬間。
背後を塞いでいた分厚い『超硬度・魔力遮断隔壁』が、凄まじい轟音と共に、文字通り紙クズのようにひしゃげて吹き飛んだ。
「おお! ちょうど片付いたところだったかマール! 待たせたな!」
もうもうと立ち込める粉塵の中から、大剣を肩に担いだレオンが、満面の笑みで姿を現す。
その背後には、最新鋭の液状装甲ごと壁のシミにされた工作員たちの姿があった。
「アンタねぇ……! もうちょっと早く壁を壊しなさいよ! あたしが一人でどんだけ苦労したと思って――」
あたしがレオンに文句を言おうとした、その時だった。
『ピ、ピキュ……! エラー……! 強制干渉プログラムヲ検知……!』
レオンの頭の上に乗っていたナビコが、突如として激しく赤色灯を点滅させ、苦しげな電子音を上げた。
「ナビコ? どうしたの?」
「フフ……フハハハハハッ!!」
空間に響き渡ったのは、狂気じみた高笑い。
見れば、あたしの乱れ撃ちから辛くも逃れ、指令エリアの奥のメインコンソールにしがみついていたスナイダーが、血走った目で嗤っていた。
彼の指先は、コンソールのキーボードを凄まじい速度で叩き続けている。
「な、何がおかしいのよインテリ眼鏡! アンタの部下はもう全滅よ!」
「ええ、私の部隊は全滅した。あなたのそのデタラメな魔力は、完全に私の計算外でしたよ、マール=アベニール」
スナイダーは割れた眼鏡の奥の瞳をギラつかせながら、手元のエンターキーをターンッ! と力強く叩いた。
「しかし! ゲームの勝利条件は、敵の全滅ではない! この要塞の中枢核コアを掌握した者の勝ちなのです!」
『ピピピピピピピッ!!』
コンソールからけたたましい電子音が鳴り響いた直後。
天井の隠しハッチが開き、そこから伸びた古代の金属アームが、レオンの頭の上にいたナビコを、まるでクレーンゲームのようにガシッと掴み上げたのだ。
「なっ!? なにをする!」
レオンが咄嗟に大剣を振るおうとするが、アームはそれより早くナビコを空中へと引き上げてしまった。
「ピキュゥゥゥゥッ!! レ、レオン! マール! タスケテ……!!」
ナビコが短い手足をバタバタとさせて悲鳴を上げる。
「ナビコ!」
「このナビゲーションAIは、古代の『中枢管理コード』を持ったマスターキー! コアの最終ロックを解除するためには、このポンコツAIを直接メインフレームに接続する必要があったのです! これで……帝国の勝利だ!」
スナイダーがコンソールの奥にある『最終防衛扉』へと飛び込む。
金属アームに掴まれたナビコも、そのまま彼を追うように扉の奥へと引きずり込まれていく。
「待ちなさい!!」
あたしとレオンが駆け出そうとした瞬間。
指令エリアの床が突如として大きく割れ、そこから今まで見たこともないほど巨大で禍々しい、四つ腕の『要塞近衛ゴーレム』が三体、地響きと共にせり出してきた。
「チッ! また防衛システムか!」
レオンが足を止め、大剣を構える。
「レオン、あの扉の向こうのインテリ眼鏡を――!」
「ガハハ! 任せろマール! と言いたいところだが!」
レオンの言葉を遮るように、四つ腕のゴーレムたちが一斉に凄まじい剣幕で襲い掛かってきた。
一体一体が、先ほどの重装甲ゴーレムを凌駕するパワーとスピードだ。
さすがのレオンも、この巨体三体を瞬時に片付けることはできない。
「レオン! アンタはそいつらを押さえてて! あたしが眼鏡を追うわ!」
「おお! 頼んだぞマール! 俺はこいつらと熱い筋肉の語り合いをしておく!」
あたしはレオンとゴーレムの激突の隙間を縫うようにして、床をスライディングで滑り抜け、閉まりかけていた『最終防衛扉』の隙間へと文字通り頭から突っ込んだ。
ギリィィィッ! ガァァァンッ!!
背後で分厚い扉が完全に閉ざされる。
あたしは前転して体勢を立て直し、薄暗い通路の奥へと視線を向けた。
スナイダーの姿はない。
だが、微かにナビコの「ピキュ……」という悲しげな電子音が、さらに奥から聞こえてくる。
「……あいつ、よくもナビコを」
あたしはギリッと奥歯を噛み締めた。
正直、ナビコは口うるさいし、生意気な言葉でツッコんでくるし、機械のくせにやけに人間臭くてムカつくAIだ。
でも。
『ピキュ。マール、文句ヲ言ッテモ毛根ハ復活シマセン』
『ピキュ。アホカ、オ前ラハ』
『ピキュ。安心シテクダサイ、マール。貴女ノ借金額ハ誰ニモ奪ワレマセン』
『ピキュ。現在ノマールノ匂イハ、古代ノ基準デ言エバ即時焼却処分レベルデス。……マジデ、クッサ』
『ピキュ。モウ一度言イマス。アホカ、オ前ハ』
「……ちょっと待ちなさい」
あたしは走り出しかけた足を、思わず止めた。
「なんで今、思い出すナビコの言葉が全部ムカつくやつなのよ!? いい思い出の一つくらい出てきなさいよ! あぁぁぁぁ、ムカついてきた!!」
あたしはこめかみをピクピクさせながら、奥歯を噛み締めた。
腹が立つ。
ものすごく腹が立つ。
けれど、それでも。
あの小さなポンコツAIは、一緒にこの要塞の理不尽をくぐり抜けてきた、あたしたちの立派な『パーティーメンバー』じゃないの。
「それに! あのスクラップは、最終的にあたしが鉄屑屋に売り飛ばして、借金の足しにする予定の貴重な資産なのよ! コソ泥眼鏡に横取りされてたまるもんですか!!」
あたしは両手の魔銃『カノン』と『フリューゲル』を握り直し、通路の奥へと猛ダッシュした。
もはや、隠密行動など知ったことではない。
『侵入者ヲ検知。防衛用レーザー展開――』
「邪魔よッ!!」
通路の壁から無数に放たれたレーザー網を、あたしは避けることすらしない。
走りながら魔銃を乱射し、レーザーの発生装置ごと壁を次々と爆砕していく。
『対人地雷起動――』
「遅いッ!!」
地雷が起爆するコンマ一秒前に、その爆風を風魔法で背後へとそらし、逆に自分の推進力へと変えて加速する。
スナイダーが仕掛けたであろうトラップも、古代の防衛兵器も、今のあたし、ブチギレ状態の前にはただの紙切れも同然だった。
一切の減速なし。
完全無欠の強行突破。
あたしの頭の中にあるのは、「ナビコを奪い返す」ことと、「あのインテリ眼鏡の顔面を靴底で踏み躙る」ことだけだ。
「待ってなさいよナビコ……! 今、助けに行ってやるからね!!」
通路の突き当たり。
そこには、ひと際巨大で、神々しいほどの青白い魔力を放つ、クリスタル製の巨大な扉があった。
『中枢核コアルーム』。
この要塞の心臓部であり、すべての元凶が待ち受ける場所。
あたしは一切の躊躇なく、右手のカノンを扉に向けた。
「天才魔術銃士の最高にスマートな『ノック』……受けてみなさい!! ――『極大・爆炎弾、フレア・バースト』!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
クリスタルの扉が、あたしの怒りの魔力を受けて粉々に砕け散る。
もうもうと立ち込める光の粒子と硝煙を払い退け、あたしはついに、要塞の最深部へとその足を踏み入れた。
「……追いついたわよ、コソ泥眼鏡」
「なっ……!?」
そこには。
巨大な光の柱を前に、ナビコを接続ケーブルでメインフレームに無理やり繋ごうとしていたスナイダーが、信じられないものを見るような顔で振り返っていた。
「たった一人で……しかも、最終防衛ラインのトラップをすべて強行突破してきたというのか!? 貴様、本当にただの小娘なのか!?」
「ふふふ、あたしはマール=アベニール。お金にがめつくて、借金まみれで、ちょっと怒りっぽい……ただの美少女魔術銃士よ」
あたしは二丁の魔銃の銃口を、真っ直ぐにスナイダーの眉間へと向けた。
「さあ。その小汚い手から、あたしの換金予定のナビコを離しなさい。さもないと……アンタのその綺麗に分けた髪の毛、一本残らず炭火焼きにしてやるわよ!!」
中枢核ルームでの、本当の、そして最後の対決。
あたしの怒りの魔力が、限界を超えて青白くスパークしていた!
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