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マナ・スクランブル!〜借金返済のため、天才魔術銃士と脳筋剣士は今日もノンストップで大暴れ!〜  作者: 牧野ハル


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第17話:工作員部隊『黒の牙』襲来

「黒の牙、全部隊に通達。あの小賢しい女を、最優先で始末しろ。生け捕りは不要です。肉片一つ残さず粉砕しなさい」


トレードマークの銀縁眼鏡を半分に割られ、完全にプライドを粉砕された帝国の狙撃手スナイダー。


彼が手元の通信機に向かって容赦ない命令を下した直後。


第十五層『中央指令エリア』の空気が、ガラリと変わった。


了解ヤーッ!!」


今までレオンの規格外の剣戟に翻弄され、防戦一方に見えた五十人の黒服の工作員たち。彼らの動きが、一糸乱れぬ統率されたものへと一変したのだ。


ただの兵士ではない。魔法と科学を融合させた帝国の最新鋭装備を操る、特殊部隊『黒の牙』の真の姿が牙を剥く。


「ガハハ! おいお前ら、どこへ行く! 俺との戦いはまだ終わってないぞ!」


レオンが大剣を振り回して追いかけようとするが、工作員たちは巧妙なステップでレオンの間合いから完全に離脱し、陣形を再構築した。


「第一班、重装甲盾シールド展開! 目標を足止めしろ! 第二班、特殊拘束具用意!」


数人の屈強な工作員が、要塞の壁と同じ材質でできた巨大なタワーシールドを並べ、レオンの前に鉄壁の壁を作り上げる。


「そんな薄い板切れで、俺の剣が防げるかァッ! ――シィィィッ!」


レオンが「ぬぅぅんッ!」とそれを薙ぎ払おうと大剣を振りかぶった瞬間、後方に控えていた工作員たちが、奇妙な形状をした手榴弾のようなものをレオンの足元へと一斉に投げつけた。


ドスゥゥゥンッ!!


「ぬおおっ!?」


爆発ではない。


投げ込まれた特殊弾の周囲だけが、空間が歪むほどにドス黒く沈み込んだのだ。


それは、局地的に重力を数十倍に跳ね上げる帝国の兵器『重力アンカー』だった。


「な、なんだこれは……! 体が、鉛のように重いぞ!」


「さらに畳み掛けろ! 魔導網スライム・ネット投下!」


レオンの動きが鈍った隙を突き、別の工作員が魔力を帯びた粘着性の巨大な網を、レオンの頭上から被せた。


「おのれ! こんな網、力ずくで引きちぎってやる! ――ぐぬぬっ!?」


「ピキュ! マスター! 無理ニ動カナイデ下サイ! ソノ網ハ、絡ミツイタ相手ノ魔力ト体力ヲ際限ナク吸収スル『捕縛専用スライム』ヲ編ミ込ンダ特殊兵器デス!」


ナビコがレオンの頭の上で、重力に耐えながらペチャンコになって警告を発する。


さすがのレオンの馬鹿力も、魔法と科学が融合した対人制圧用の搦め手には相性が悪かった。


超重力で動きを封じられ、さらにネットが彼の体力を吸い取り、もがけばもがくほど雁字搦めになっていく。


「レオンッ!!」


あたしが援護射撃をしようと、魔銃を構え直したその時。


「よそ見をしている余裕があるとでも?」


スナイダーの鋭い声と共に、不可視の狙撃弾が再びあたしの足元を穿った。


咄嗟にステップを踏んで躱すが、その一瞬の隙を『黒の牙』は見逃さなかった。


「分断作戦、ディバイド、実行!」


工作員の一人が、指令エリアのコンソールにハッキング用のデバイスを突き立てる。


ガゴォォォォォォォォンッ!!!


あたしとレオンの間に、天井から分厚い『超硬度・魔力遮断隔壁』が、凄まじいスピードと轟音を立てて落下してきた。


「えっ……!?」


隔壁は、広大な指令エリアを、完全に二つに分断してしまった。


向こう側には、重力アンカーとネットで足止めされたレオンとナビコ、そして数名の工作員。


そして、こちら側には。


「……これで、目障りな脳筋剣士の邪魔は入りません。完全に、あなたと私、そして三十名の部下たちだけです」


スナイダーと、三十名近い完全武装の精鋭工作員たち。


あたしは、彼らによって敵のド真ん中で完全に孤立させられてしまったのだ。


「ハッ、小賢しい真似を……! レオンなら、あんな壁、数分でぶち破ってくるわよ!」


強がって見せたものの、あたしの背中には嫌な汗が流れていた。


いくらレオンでも、あの重力とネットの拘束を解き、さらに魔力を遮断するあの分厚い隔壁を破壊するには時間がかかるはずだ。


その間、あたしは一人で、この三十名の精鋭部隊と、超一流の魔力狙撃手を相手に生き残らなければならない。


弾薬の残りは少ない。


撃てば撃つほど、器物破損の罰金もかさむ。


おまけに相手は、一切の油断なく魔導ライフルの銃口をこちらに向けている。


絶体絶命。


盤面は完全にチェックメイトだ。


「……終わりですね。前衛を失った魔術銃士など、ただの的だ」


スナイダーが、割れた眼鏡の奥で勝利を確信したように冷笑を浮かべる。


三十の魔導ライフルが、一斉に発射の魔力光を帯びる。


「全部隊。あの小娘を、蜂の巣にしなさい」


――絶望の瞬間。


しかし。


「……クックック」


あたしの口から、自然と低い笑い声が漏れていた。


それは、死の恐怖によるものではない。


ましてや、狂ったわけでもない。


「……何がおかしいのですか。ついに恐怖で発狂しましたか」


スナイダーが訝しげに眉をひそめる。


あたしは両手の魔銃を下ろし、ゆっくりと顔を上げた。


その顔には、絶望の欠片もなく、ただ最高に悪党じみたニヤリとした笑みが浮かんでいた。


「発狂してなんかないわよ。むしろ、信じられないくらい頭がクリアで……清々しい気分だわぁ」


あたしは、ホルスターから予備の弾薬ポーチを外し、床に無造作に放り投げた。


カチャリ、と音を立てて転がる高価なカートリッジたち。


「アンタたち、さっきから『足止め』だの『分断』だの、ちまちまと小賢しい戦術を使ってるけど……ひとつ、決定的な勘違いをしてるわ」


「勘違い、だと?」


「ええ」


あたしはゆっくりと息を吸い込み、体内の魔力回路の『ストッパー』に力を込めた。


「あたしはね。さっきからずーっと、ずーっと……『レオンに魔法が誤爆しないように』、そして『これ以上要塞の設備を壊して借金を増やさないように』、出力を最小限に抑えて我慢して戦ってたのよ」


青白いマナが、あたしの足元から陽炎のように立ち昇り始める。


「でも、レオンは分厚い壁の向こう側で完全に安全。そして、王都が滅ぶなら借金もクソもない。……つまり、今のあたしには」


あたしは両手を広げ、体内の魔力回路のすべてのリミッターをブチ切った。


ゴオォォォォォォォォォッ!!


「なっ……なんだ、この魔力は!?」


スナイダーが、そして三十名の工作員たちが、信じられないものを見るように一歩後ずさった。


オーラではない。


目に見える『青白い魔力の竜巻』が、あたしの全身から吹き上がり始めたのだ。


マールの髪が魔力で逆立ち、周囲の計器類が強大な魔力波に耐えきれず、パチン、パチンとショートして火花を散らす。


「今のあたしには、『遠慮』も『手加減』も、一ミリも必要なくなったってことよ!!」


あたしの言葉に、スナイダーの顔色が土気色に変わった。


彼らは分断したつもりだったのだ。


厄介な「前衛」と、非力な「後衛」を。


しかし、彼らが壁のこちら側に閉じ込めたのは、ただの後衛ではない。


金への執着と怒りでリミッターが完全にぶっ壊れた、歩く戦略兵器だったのだ!


「……撃て! 全門、撃てェェェェッ!!」


スナイダーの焦りに満ちた絶叫が響く。


三十の魔力弾が、一斉にあたしへと降り注ぐ。


「遅いわよ!! 弾薬なんてケチる必要ない! 天才の真骨頂、その身に刻み込みなさい!!」


あたしは両手に構えた『カノン』と『フリューゲル』に、体内の膨大な魔力を直接流し込んだ。


もはや、一切のエイムすら必要ない。


「消え失せなさい、帝国の犬ども!! ――『全方位・絶望の乱れ撃ち、フル・バースト・パニック』!!!」


ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!


あたしを中心に、数百、数千の炎の弾と風の刃が、文字通り全方位三百六十度に向かって狂ったように乱射された。


弾薬費?


器物破損?


知るか!


「全部ぶっ壊してやるわッ!!!」


壁も、床も、天井のモニターも、全部吹き飛ばしてやる!


後で全部、このインテリ眼鏡の帝国に損害賠償請求書として送りつけてやるわ!!


分断された指令エリアで。


あたしのヤケクソの魔力と、工作員部隊との、一切の遠慮を捨てた地獄の総力戦が始まった。

最後まで読んで頂いてありがとうございます!

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