第16話:激突! 魔術銃士 vs 魔力狙撃手
「一瞬で終わらせてあげましょう」
銀縁眼鏡の工作員、スナイダーが漆黒の『魔導狙撃銃』の銃口をあたしに向けた瞬間。
あたしの全身の産毛が、ビリッと逆立った。
歴戦の冒険者としての、本能の警鐘。
――ヤバい。こいつの攻撃は、まともに受けたら即死する。
「ッ……!」
あたしは両手の魔銃を構えるより早く、床を蹴って真横にフルダイブした。
ヒュンッ……!
音は、なかった。
ただ、あたしがコンマ一秒前まで立っていた空間を『不可視の何か』が通り抜け、背後にあった大理石の太い柱に、音もなく「直径数センチの完璧な円形の穴」が貫通していた。
「……は?」
あたしは床を転がりながら、背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
爆発音も、閃光もない。
ただ、極限まで圧縮され、針のように細く束ねられた純粋な魔力の刃が、空間そのものを穿ったのだ。
「ほう。今のを避けますか。野生の勘だけは一人前のようですね」
スナイダーが、スコープから目を離さずにボルトを引き、淡々と言い放つ。
「冗談じゃないわよ……! なによ今の、全然見えなかったじゃない!」
「私の『静寂の牙、サイレント・ファング』は、発射音も光も伴わない。あなたのような、ド派手に魔力を撒き散らすだけの三流の銃撃とは、次元が違うのですよ。さあ、次はどこを撃ち抜いて差し上げましょうか」
カチャリ。
再び、死神の銃口があたしを追尾する。
「くっ……!」
あたしは慌てて、近くにあった要塞の巨大な操作コンソールの裏へと滑り込んだ。
分厚い古代の合金でできたコンソールなら、そう簡単には貫通――。
ヒュンッ!
「きゃあっ!?」
考えが甘かった。
音のない銃弾は、分厚い合金のコンソールを豆腐のようにあっさりと貫通し、あたしの頬を掠めて後方の壁に突き刺さった。
パラリと、あたしの元に戻ってきたヘアーが数本、焦げて落ちる。
「無駄です。私の狙撃は、あらゆる物理障壁を透過して標的の命を刈り取る。隠れる場所などありませんよ」
スナイダーの嘲笑が響く。
『ピロリロリロリ〜ン♪』
「ピキュ。警告。マール、貴女ガ隠レタセイデ、要塞ノ『第三サブコントロールパネル』ガ貫通・破損シマシタ。修理費、古代金貨一万枚ガ追加サレマス」
「あたしが壊したんじゃないわよッ!!」
コンソールの裏で頭を抱えて絶叫した。
隠れても撃ち抜かれ、しかもその度に莫大な罰金、つまり借金が加算されていく。
このままでは命が削られる前に、精神と財布が完全に削り切られてしまう!
「レオン! 援護しなさい!」
あたしはコンソールの裏から叫んだ。
しかし、レオンは五十人の黒服部隊と絶賛大乱闘中で、剣を振り回しながら「ガハハハ! こいつら、なかなか骨があるぞ!」と楽しそうに笑っている。
全く当てにならない。
「……ピキュ。マール、敵ハ遠距離カラノ狙撃ニ特化シテイマス。コチラカラモ攻撃シテ、相手ノペースヲ崩サナイトジリ貧デス」
「言われなくてもわかってるわよ! でも、撃った瞬間にカウンターを合わせられる! あっちの弾は不可視で超高速、まともに撃ち合ったらこっちが先に蜂の巣よ!」
あたしは荒い息を吐きながら、必死に脳みそをフル回転させた。
相手は、静音・不可視の狙撃手。
こちらは、爆発と破壊の魔術銃士。
……待てよ。
不可視?
あたしは、コンソールの裏から周囲の状況を素早く観察した。
レオンが大暴れしているおかげで、第十五層の床の絨毯はズタズタに引き裂かれ、大量の「埃」と「土煙」が空中に舞い上がっている。
「……なるほど。見えないなら、見えるようにしてやればいいのよ」
あたしはニヤリと笑い、左手の漆黒の魔銃『フリューゲル』に、風属性のカートリッジを装填した。
「さあ、いつまでそこに隠れているおつもりですか? 恐怖で足が竦みましたか?」
スナイダーが余裕たっぷりに挑発してくる。
あたしはコンソールの裏から、スナイダーに向けてではなく、「自分とスナイダーの間の空間」に向けて、フリューゲルだけを突き出した。
「恐怖? バカ言わないで。あたしが怖いのは、来月の支払いだけよ!」
引き金を引く。
放たれたのは、殺傷力のない広範囲の『突風、エア・ブラスト』
突風は、空中に舞っていた大量の土煙と埃、さらに破壊された機械から漏れ出していた冷却ガスを巻き込み、あたしたちの間に巨大な「煙幕」を作り出した。
「目眩ましのつもりですか。愚かな。私のスコープは、熱源感知であなたを完全に捉えて――」
スナイダーが引き金を引いた。
ヒュンッ!
放たれた不可視の魔力弾。
しかし、それが「煙幕」の中を通り抜けた瞬間。
極度に圧縮された魔力の摩擦によって、煙とガスが干渉し、一瞬だけ空中に「一筋の真っ直ぐな軌跡」が白く浮かび上がったのだ。
「……見えたッ!!」
あたしはコンソールの裏から横に飛び出し、その白い軌跡から逆算して、スナイダーの正確な立ち位置と、次の射撃のタイミングを完全に把握した。
「なっ……私の射線を視覚化させただと!?」
スナイダーが初めて驚愕の声を上げる。
彼が次弾を装填し、こちらに銃口を向けるのと、あたしが右手の銀色の魔銃『カノン』を構えるのは、ほぼ同時だった。
しかし、あたしは彼を直接狙わなかった。
あたしが銃口を向けたのは、スナイダーの頭上にある、巨大なクリスタル製のシャンデリア。
「プロの射撃センスってやつを、その体で学びなさい!! ――『爆炎弾、フレア・バースト』!!」
ドゴォォォォンッ!!
あたしが放った火球が、シャンデリアの根元を正確に撃ち抜いた。
数トンはあろうかという巨大なクリスタルの塊が、パラパラと音を立てて、スナイダーの頭上へと真っ逆さまに落下していく。
「チッ……! 小賢しい真似を!」
スナイダーは舌打ちをし、落下してくるシャンデリアを粉砕するために、あたしへ向けていた銃口を上へと逸らし、引き金を引いた。
「そこがアンタのミスよ、インテリ眼鏡!」
シャンデリアはただの囮。
あたしはすでに、カノンから『本命の二発目』を放っていた。
だが、その弾道は直線ではない。
左手のフリューゲルから放った風の魔法をぶつけることで、空中で急激に軌道を曲げる『変化球、カーブ・ショット』!
「な……弾道が、曲がった……!?」
シャンデリアを粉砕した直後のスナイダーの死角、真横から回り込むようにして、あたしの火球が迫る。
「舐めるなァァッ!」
スナイダーが咄嗟に左手をかざし、高密度の魔法障壁を展開した。
あたしの火球が障壁に激突し、凄まじい爆炎を上げる。
防がれた、かのように見えた。
パリンッ……!
しかし、煙の中から、スナイダーのトレードマークであった「銀縁眼鏡」が、パキンと音を立てて半分に割れ、床に落ちた。
完全に防ぎきれず、爆風の一部が彼の顔面を掠めたのだ。
「……私の…眼鏡が」
土煙が晴れた後。
そこに立っていたスナイダーの顔から、先ほどまでの余裕と冷笑は完全に消え失せていた。
端正な顔立ちは怒りに歪み、額には青筋が浮かんでいる。
「マール=アベニール……訂正しましょう。あなたは、私の手で確実に殺さねばならない『害虫』だ」
本気で殺意を剥き出しにした魔力狙撃手。
しかし、あたしも二丁の魔銃をくるりと回し、不敵に笑い返した。
「上等よ。その軍服も丸焦げにして、要塞の修理代のカタに剥ぎ取ってやるわ!」
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